03-1≪二人一組≫
しばらく文章を読んでいて閉じた時、開かれているモニターに気づき、全てを閉じて耳を傾ける。
透き通った女性の声が慧の耳を突き抜ける。
『皆さん大変お待たせしました。えーそれでは皆さんが無事、チュートリアルは終えられていることを確認しましたので次へと進ませて頂きます』
鍵が開くような音が部屋を響かせ、ここに来るときに通ってきた扉がゆっくりと開く。
『受験生の皆様、これより行われます試合は二人一組(ツーマンセル)となっております。そのため扉の先には今回あなたのパートナーとなる仲間が待っております。しっかりと挨拶を終えましたらパネルを操作してこちらに知らせてください。それでは、どうぞ』
「え?……ん~」
いきなりどうぞって言われてもなぁ……ここで知ってる人なんてあいつぐらいしかいないし、ほぼ確実に始めて会う人になるだろうな。
かといってここで躊躇なんてしていたら他の人達にも迷惑をかけてしまうか……仕方ない。
慧は頬を強く叩いて覚悟を決め、大きく深呼吸をしてから扉の光の中へと足を踏み込む。
真っ白な光の中をしばらく進むと先程と同じだが二回りは大きな鉄の部屋に到着した。
慧は部屋に到着してすぐにパートナーであろう人物を発見するがここからでは後ろ姿でどんな人なのかはよくわからない。
しかし髪は短くボサボサとしているところから男の人なのだろうと慧は判断する。
異性でなく同性であったことに慧はまだ話しやすい、と安堵の息を漏らした。
だがそれでも引っ込み思案な性格でコミュ障な節もある慧にとっては初対面の人物に対して話しかけるということはとても緊張のするものである。
慧はゆっくりと足を進めていきながら緊張で早まる鼓動を抑えるべく内心で自分に言い聞かせる。
いいか、初めが……第一印象が肝心だぞ。
声が小さくなってしまったり逆に裏返ったりしないようにして、それから顔は笑顔で相手に不快な印象を与えないようにして足を揃えて背筋を伸ばし、胸を張る。
最後に腰を曲げ、頭を下げて挨拶をする。
「こ、こんにゅちわ……ぁ」
しまった。声が震えて……噛んでしまった。
変な風に思われたりしないだろうか?
なんだこいつと笑われたりしないだろうか?
そもそも挨拶の作法はこれで合っていただろうか?
慧が心配するなか目の前のボサボサ頭の男は特に気にすることなくただ発せられた声に気づき、慧の方を振り向いて親指を立てる。
「おう、お前が俺様の仲間か?植崎 祐悟だヨロシクな!」
「・・・。」
植崎おまえかよぉぉぉ!
ああ、なんだろう?
こいつだとわかったとたんに今までの緊張とか失敗とか焦りとか色々ともうバカらしくなってきた。
「ん?ぉお!!慧じゃねぇか!いやーまさかお前と一緒になるとはすげー偶然だな。ま、ヨロシク頼むぜ」
慧の今の心情なんて知らない、考えていない植崎は近づいていき、握手をするために手を伸ばす。
「ああ、よろしく」
慧は気持ちを切り替えるために大きく息をはくと伸ばされた手をつかみ短く握手を交わす。
知っている顔同士なので特に話す必要もない二人はすぐさまパネルを操作して挨拶を終えたことを伝える。
それからしばらく雑談をしているとブザーが鳴り、フラッグが再展開される。
「お?そろそろみてぇだな」
「そうだな」
慧は視線を植崎へと向け、思い出す。
植崎が身にまとうフラッグの武装パターンはγ。
確かミサイルポッドがたくさん取り付けられたホバー機能付きの重射撃特化型。
んで近接武器は拳だったな。
弾幕はパワーだぜってか?
まぁこいつらしいと言えばこいつらしいか。
『みなさまお待たせしました。受験生全員の挨拶を無事確認しましたのでこれより次の試験へと移らせていただきます』
「ん?」「お?」
愛の声が響き、二人の視界には一つのモニターが浮かび上がる。
≪試験内容≫
時間いっぱいまで守護戦士(ガーディアン)を落とし続けろ。
≪制限時間≫
10分(600秒)
≪勝利条件≫
時間いっぱいまで生き残るかつスコアを全体の内上位100位以内に入る。
≪敗北条件≫
自機または友軍の撃墜
≪OK≫
確認を終えた二人は≪OK≫をタッチし、確認が取れたことを知らせると視界左上に制限時間≪0:10:00≫と総合撃墜数≪0≫という表示が現れる。
『皆さん、確認がとれたようですので早速進ませていただきます。ここからはチュートリアルやメニュー内にあった説明文どおりの手順を踏んでいただきます。それではご武運を』
そう言い残して通信は終了する。
『カタパルト始動!』
機械音声によるその掛け声とともに高い音を立てながら何かが起動を始め、部屋の≪出撃ハッチ≫と書かれた巨大な扉が白い煙を上げながら開く。
中央のパネルから細い三本の光がハッチに向かって伸び始めると同時にパネルからハッチまでの地面が開き、二本のレールが現れる。
「お?なんだなんだ?」
「おはぁ!すげー本格的だなぁ。そうか道理で部屋がでかいわけだ」
「ん、どうすんだあれ?」
「チュートリアルでも説明されたし、それにゲームとかでよくあるだろ。こうするんだよ」
二人は光の間に入るように並び、身を若干低くする。
『カタパルト搭乗確認。座標調整。加速輪(アクセルリング)射出!!』
3つの銀色の鉄の輪がハッチの淵から外れてその光に沿って移動、空中で停止する。
『重力発生装置安定。各リングチャージ開始』
身体がふわりと地面からわずかに浮かび、光の道がわずかに歪む。
『射出角調整完了。各リングチャージ完了。光通路(ライトロード)生成完了』
テンポよい声が聞こえ、そのやり取りは本当に漫画やアニメで見たもののようで慧のテンションは高まっていく。
『システムオールグリーン。出撃のタイミングを皆さんへ譲渡します』
「あ?じょうと……なんだそれ?」
「あぁもう。……植崎!」
「おう、なんだ?」
「今から言うことを僕に続いて言ってくれよ」
「おう、どういうことかよくわかんねぇがわかったぜ」
「あぁ、そうそう名前はちゃんと自分のを頼むぞ」
「おう」
「それじゃあ……アイハブコントロール。防人 慧、フリーダム・フラッグ行きます!!」
「あ、あいはぶこんとろーる。植崎 祐期、ウリーダム・ブラック行くぜ!!」
ふわりと地面から浮かんだ二人の身体がものすごいスピードで前進する。
「うお!すげー早ぇーな。どうやってんだ?これ」
「さぁ、重力発生装置と言っていたから前に進んでるんじゃなくて実際には落ちているんじゃないか?かっこつけて」
「カッコいいか?」
「さぁね……というか植崎のやつはあれでよかったのか?」
話している間に二人はアクセルリングと呼ばれていた鉄の輪っかを潜ると方向が斜め上へと変わり、更に速度が増す。
射出された3つの輪っかを潜り抜け、ものすごいスピードで大空へと飛んでいく。
「おぉーー!!すげーなこれは!!」
「うん、すごい」
大空に飛び出した二人はバイザーのレンズ越しにその大空を見渡す。
青い空、白い雲、下には青い海が広がり、所々に大小さまざまな形をした島が転々としている。
「なんて景色を見渡している余裕はないか」
慧はすぐにさっきされた説明通りに二人の通信機の回線を繋ぎ通信モニターを表示、フィールドモニターを開いて最後にお互いの位置と敵(ガーディアン)の位置を表示させる。
「植崎、聞こえるか?」
『おう、聞こえてるぜ。んでこれは通信か?何か耳元で話されているみたいで変な感じだな』
「まぁ耳元にスピーカーがあるだろうからな。さて、じゃあ早速目の前にいるやつらから落として点数(スコア)を稼ぎに行くぞ!」
『おう、あったりま……ぇ?おわぁぁぁぁ!』
「あぁ!?」
発射時の速度が落ちてから飛行の出来なかった植崎とGWはそのままバランスを崩して落ちて行く。
「ちょ、何やってんだ!?植崎!!飛び方の説明もされてただろう!?」
『いや、そうなんだけどよ。どうすんだっけ?』
「ああもう!?安定して不安定だなお前は!!……これに捕まれ!!」
慧は大声で叫びながら左腕についたシールド下のワイヤーアンカーを植崎に向かって射出、捕まるように指示する。
『掴んだぜ』
「よし、このままゆっくり降りて……うっ重!!」
思いの外に機体が重く、推進力の足りなかった慧もろともに落下していく。
『おい、このままじゃ地面にぶつかるぞ!』
「わかってるよ!!えぇーい、減速!!」
慧はワイヤーを両手でつかんでバランスを取りながらも両足に取り付けられた光粒子のブースターを目一杯に吹かして落下速度を落として行く。
しかし、その間に敵であるガーディアンたちは二人を取り囲むとライフルの銃口をこっちに向ける。
『このやろー!!』
「わっ!ばか!!バランス崩れるだろうが、ミサイルを打つな!しかも外してるしさ」
『じゃあどうすんだよ!だた撃たれろってか!』
「それは……」
このGWにはフィールドバリアー装置がついてるから多少は防げる。でもこの数じゃあ……くそっまだ1分どころか30秒も経ってないってのにここで……終わるのか?
僕の試験はここまでなのかよ!?
「こんちきしょぉーー!!」
慧は諦めて両目を力強く瞑って裏返るほどの大声で叫ぶ。
『諦めるのはまだ早いですよ』
『諦めるのはまだ早いよ!』
「え?」
『おわ!なんだ?』
いきなり通信回線に繋がった二つの声と同時に上空から光線によってガーディアンたちが落ちていく。
『おい?何が起きた?』
「……上?」
驚きつつもフィールドモニターや光線の飛んできた方角から通信相手の位置を探し、両手でワイヤーを掴んでいるという我ながらなんとも情けない格好のまま上を見上げバイザーのズーム機能を使って上空の二人を確認する。
ふと思ったが結構細かいところまで教えてもらったな。
バランス型の武装パターンα(アルファ)。
遠距離狙撃型の武装パターンδ(デルタ)。
いきなり現れた二人は的確に敵を狙い撃ちしている。
バイザーで目元が隠れているから顔はわからないけど、武装パターンδのバイザーから金色の長い髪が見えていた。
その人銃を撃ちながら申し訳なさそうに口を開く。
『ごめんね、いきなり回線に割り込んで……君たちが無事に降りられるようにボクたちが援護するね……迷惑かな?』
そう言われ、慧はすぐに首を振って否定する。
「い、いえ、そんなことはありません。とても助かります」
『そう?それじゃあボクたちはしっかりと君たちを援護させてもらうよ』
あの長い金髪の人、すごいな。もう一人の撃ってるバズーカの光線を避けてこっちに近付いてくるガーディアンたちを正確にスナイパーライフルで狙い撃ちしている。
……とこうしちゃいられない。
慧は急いで集中してバランスを保ちつつ高度を下げていき、植崎を近くの島に下ろすと振り返って頭を下げる。
「助けていただいて……ありがとうございました!」
『いいよ、お礼なんて』
『そうですよ。困った時はお互い様……頑張ってこの試験合格しましょう』
「あ、はい!……本当にありがとうございました」
慧はもう一度頭を下げる。
再度上を見上げると一度二人は微笑み、ふと気が付いたように金髪の人が口を開く。
『あの……』
「あ、はい!何でしょうか?」
『君のパートナー……もうどこかに行ったみたいだけど……大丈夫?』
「え!?」
そう言われ振り返ると確かにそこにあいつの姿はなく、視界に表示されている総撃墜数が少しずつ増えていっていた。
「……はぁ~」
あんのバカ野郎おぉぉぉぉぉ!!礼も言わずに何やってんだ!あいつはぁ!!どちら片方がやられた時点でこの試験落ちることに……ここで終わることになんだそぉ!!
心の中で叫び、頭を抑えているとさらに心配そうに金髪の人が聞いてくる。
『どうしたの?もしかして頭……痛いのかな?』
僕はさっと向きを変えて歪ながら笑顔を作る。
「いえ、大丈夫です。心配ありがとうございます。それでは僕はこれからあいつを追いますので……失礼します」
モニターで位置を確認し、両腰の鞘に入った刀を抜きながら全速力で大馬鹿野郎の後を追う。
先程内心で叫んでいたことをそのまま口に出しながら。
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