02-5
ダイブ。その名が示すとおりに僕の意識はどんどんと沈んでいく、真っ暗になった視界には光が走り始め、そして次に目を開いた時にはそこは巨大な扉の前だった。
真っ白い世界に真っ黒な扉が一つ。
黒く、大きな鉄の扉が一つ。周囲を見渡してもそれ以外には何もない。
他の人もいなければ、教室や机、椅子、頭に着けていたヘッドセットもない。
「これ、入試テストだよね? もっと教室っぽいところでやるものとばかり思っていたんだけど」
僕はてっきり電脳世界で筆記試験なり、面接なり何かしらの学校じみた試験が行われるとばかり思っていた。
しかしそれは勘違いであると僕は思うしかないのかもしれない。
まるで身体の一部を持って行かれそうなそんな扉を目の前に僕は戸惑い、慄く。
一体これから何をされるのだろうか? 何をすることになるのだろうか?
不安が増していく。どんどんと湧き上がってくる。
しかしこれを開けないことには何も始まらない。
僕は恐る恐る、その黒く大きな扉に触れる。取っ手も何もない、装飾はとても細かなその扉を押してみる。
するとその黒い鉄の扉は思いの外に重くなく、あっさりと開く。見た目と音だけはとてもリアルで静かであるこの世界に鉄の軋む音が鳴る。
僕が通れるほどの広さを開けて中を覗く。
そこは誰もいない。人一人もいない。扉と同じような色をした壁の部屋。
六畳ほどの小さな鉄でできた部屋。
4、5メートルはあるであろう扉に比べてここの天井は見えない。
壁には照明が取り付けられていて部屋を明るく照らしているが、天井は真っ暗だ。
単に作られていないだけなのか、それとも見えないほど高いということなのかそれは分からないが。
少なくともこれから学校っぽい試験をするわけではないということだけはわかる。
ゆっくりと恐る恐る僕はその部屋の中に入っていく。
「ヒッ――」
バタンッとうるさいほどに響く大きな音。そして思わずあげた小さな悲鳴。
もし現実であるならば心臓がバグバクとなり叫んでいただろう。嫌な汗が背中から溢れていたであろう。
それが扉であったことがわかり僕は胸を撫で下ろす。安堵の息をはく。
「あ~雰囲気だけはあるからこういうのは止めてくれよ」
切実な願い。
僕は急に脅かされることとお化け屋敷のようなあの雰囲気は苦手だ。嫌いだ。本当に勘弁してほしいものだ。
「――!?」
再び鳴り響く大きな音、キーンというマイクなどによくあるあのノイズ。
僕は思わず耳を塞いでうずくまってしまった。全く、人がいなくてよかったよ。いたら今後、笑い者にされかねない。そういうやつは何故か一人はいるんだ。
だから脅かしてほしくない。
『大変失礼しました』
「おちょくってるのか!?」
心の叫びを声に出す。放送が流れて来る部屋にあるスピーカの方を向いて大声を張り上げる。……うるせぇ。
反響した自分の声で耳が痛い。
それにしても本当に心臓に悪い。両耳を塞いでうずくまって両目を強く閉じている格好も悪い。
失敗することは仕方がないものかもしれないけどこのタイミングは本気(マジ)でワザとなんじゃないかって思うぞ。
スピーカーを睨んで叫び直してなりたいほどだ。
しかしいくら叫んでもこちらの耳が痛いだけ、自分の声が反響してうるさいだけ。それに声は相手から一方的にしか伝わらない。
つまりは叫ぶだけ無駄な行為ということだ。
あきらめて僕は放送に耳を傾ける。
『それではこれより詳しい説明に入ろうと思います。これより行う二次試験はここ電脳空間によるゲームです。ジャンルはアクションゲームとなります』
「……は?」
聞き間違いだろうか?
『皆さんにはかつて世界大戦時に大きな成果を収めたパワード・スーツ《WEAPON's・GEAR》を使用して戦っていただきます』
《WEAPON's・GEAR》
半世紀以上前に起こった世界大戦。
その時に最も兵器として軍事利用されたパワード・スーツの総称。G・Wとかギアなどの様々な呼ばれ方をしている。
人間一人の行動力を大きく向上させるそれは今戦争で最も注目された兵器。
主な動力源として電気が使われており、バッテリーの小型化によって活動時間は3倍ちかく跳ね上がった。
またG・Wには頭部を守るヘルメットのバイザー部分には望遠機能や暗視機能が内蔵されて、またハイパーセンサーによる自身周辺の危機感知能力の向上が図られている。
最終的には追加武装によって地上を滑走したり、単独で水中での行動や飛行することが可能となったものもある。
歴史の授業でそんなこと話してたっけなぁ~。
装甲を滅茶苦茶増やしたりした失敗作は笑わせてもらったっけ?
「ってそうじゃなくて。……え? 何、聞き間違えとかじゃないの?」
『ここで皆さんが使用するのはギアの中で最も成果を収めた機体。戦争を終わらせた機体。連合国が開発、使用した《フリーダム・フラッグ》と呼ばれる機体です。使用する武装はいくつかのパターンを用意させてもらいました。詳しくは部屋の中央にある円柱状のパネルに表示される一覧の下から二番目にある『登録・呼び出し』から確認してください。もちろんゲームのようなものから本物のようなものまでありますのでしっかりと考えてお選びください。選び終えたその時点で自動的に操作訓練――チュートリアルに移ります。全員がそれを終えましたら次に進みたいと思います。それでは皆さま、行動を開始してください』
どうやら聞き間違えとかではないようだ。
いや確かに次世代をいった試験だよ。人生で最も驚かさせてくれたものかもしれないよ。でもちょっと待って。
これ絶対おかしいよ。
え、なにそれ? みんなこれ、容認してるの?
いや別に僕だってゲームが試験とか考えた事とか愚痴ったこととかあるから容認はできるけど、許容はできないぞ。これ。
よくもまぁ国が認めたな。許容したな。容認したな。
もしかしたら黙認してるかもだけど、いやだとしたらこの世界どうなってんだ?
もしかして試験会場とゲーム大会の会場を間違えたのか?
…………いや、そんなはずはないな……。
だってちゃんとここに来るために何度も聞いたし、地図を見せながらバスを運転してたおじさんにだって聞いた。
それにここに入る前に学園の名前だってちゃんとここが言っていたことだ。
間違いはないはずだ。うん大丈夫だ。
だからもうそれについては悩まないことにしよう。
それよりも……。
これは今しゃがんだ時に気が付いた事だが、自分の着ている服だって違っていた。
ダイバーとかが着ていそうなあのピッチリとしたやつを今の僕は身に着けている。
これは確か『インファントリースーツ』ケプラーとかザイロンとかの防弾・防塵繊維でできたこの中には小さなセンサーなんかの機械が内蔵されていて筋肉の動きとかを直接ギアの方に送るだったかな?
詳しいことは覚えてないけど確かそうだったはずだ。
しかしゲームなのにそこまで本格的にするかね?
本格的……てことは単体飛行も出来るってことか?
確か、今まで空を飛んだゲームなんて一つもなかった。正確には思い通りに飛び回れるゲームは無かった。
あったとしても選択したキャラクターが持っている長距離ジャンプとか、一度行った特定のところへ飛ぶ魔法ぐらいだな
うん、遊びたい。
けど、でもそれでもやっぱり試験をゲームにするっていうのはおかしいな話だよな?
いや、うんゲームを試験にするなんて絶対におかしい。
でも、ここから出るにはそのゲームを、試験をしないといけないしなぁ~。
出られないなら仕方がないな。うん、仕方がない。
『郷に入っては郷に従え』だ。
本当は不本意だよ。だってなんで勉強をするはずの学校で、それも入試試験という大切な場で何が嬉しくてゲームなんてものをしなくちゃならないんだ?
でも、ここの試験がゲームだってんなら。それを精一杯するとしようじゃないか。楽しんでやろうじゃないか。望むところじゃないか。
さぁゲームを始めよう‼
僕は満面の笑みを浮かべながら言われていた通りに部屋の中央に不自然に存在する円柱に触れる。
円柱に取りつけられている小さな液晶に一覧が表示され、僕の向いている方の対面の壁にも同じように映像が大きく浮かび上がる。
僕は手始めに一覧の一番下にある《ヘルプ》に触れる。
《機体選択》――あなたの使用する機体を選択します。 ※今回は使用できません。
《武装選択》――あなたの使用する機体に取り付ける武装を選択します。 ※今回は使用できません。
《メイキング》――機体、武装などの製作・改造をすることができます。 ※今回は使用できません。
《登録・呼び出し》――機体、武装の登録と登録したものの読み込みを行います。
《ヘルプ》――今見ているこの画面です。
……どう見てもこれはゲームのヘルプ画面だ。どれがどれの事なのかを簡単に説明するだけのものだ。
つまり、ゲームであることへのかんしゃ――いや、抗議の言葉はどうやら届けらないということになる。
連絡することは叶わないゲーム、クリアするまで出ることは許されないゲーム。
まぁデスゲームでないことが唯一の救いかな?――なんて。
いや、とにかく進めないことには終わらない。エンディングにはたどり着かない。
ならば言われた通りにするとしよう。このチュートリアルを手早く終えることにしよう。
僕はヘルプ画面右上の《戻る》に触れて文字通り画面を一つ前に戻す。
そして言っていた通りに下から二番目の《登録・呼び出し》に触れて画面を再び切り替える。
そこに登録されたものは全部で4つ。
少ない気もしないではないが、あまり多すぎても悩んでしまうので、まぁこんなものだろう。
「では早速見ていきましょうかねぇ~」
僕は笑みを浮かべたまま一覧に表示される武装パターンを上から順に選択する。
まずは一番上に表示される《パターンα》に触れると大きな画面には一体のG・Wが浮かび上がる。立体映像のごとく浮かび上がる。
灰色の装甲が幾重にも重なってできたその機体『フリーダム・フラッグ』。
その足には強力なモーターによって地面を走り回るための車輪(ウィール)が取りつけられており、その背には小型のターボジェットエンジンによって空を飛び回るための鉄でできた翼が折り畳まれている。
加えてそのパターンに合わせての武装が各所に取り付けられている。
僕のテンションはどんどんと上がっていく。
気になっていたゲームが満を持して発売してそして早速プレーしているときと同じような喜びが湧き上がってくる。
そしてそのうれしさの中、手元の小さな画面に表示された各種説明を読み上げていく。
◇◇◇
登録名『パターンα』
メモ欄『剣を使って近距離で攻めてくる敵にも、銃を使って遠距離で攻めてくる敵にも対応できるバランスの良い武装パターン』
武装・説明
『ロングレンジエナジーライフル』
右手に握られている光学兵器。(注1:表示される発熱度に注意)
左右の脚部に取り付けることも可能。
放たれるエネルギー砲は高熱で敵の装甲を溶かし、貫く。
高い威力を持つが、弾数は8発と少なめであるため残り弾数に注意が必要。
弾丸は時間経過(エネルギーチャージ)、もしくは脚部に取り付けることで股関節部分を覆うスカート装甲の左右内側にある弾倉が自動的に再装填(リロード)される。
もちろん手動で行うことも可能。
『シールド』
左腕に取り付けられた自身の身を守る鋼鉄の盾。
耐熱板によって敵の光学兵器も伏せぐことができるが、攻撃を受け続ければ壊れてしまう(注2:表示される耐久値に注意)。
また、シールドは左腕から取り外して右腕に取り付けることも、その手で持つことも、バックバックに取り付けかえることも可能である。
『エナジーバズーカ』
後ろ腰に取り付けられている光学兵器。(注1)
エナジーライフルよりも強力な威力をもち、戦い方によっては複数撃破も可能で戦況を一変できる可能性もある。
しかし弾数は3発ととても少ないので使い所に注意する必要がある。
砲弾のリロードは後ろ腰に戻せばその接続部からスカート装甲内エネルギーが空になった弾倉内に供給される。
『エナジーサーベル』
左腰に取り付けられた光学兵器。(注3:銃器に比べると排熱の効率が良いのでゆっくりであるが、発熱度に注意)
高熱の光の刃で軽々と敵の装甲を焼き切る。
◇◇◇
「……なんか本当にゲームとかの説明書にありそうな説明だな。それに説明とかから読み取れるけど、結構リアルというかシビアな設定だな。でも確か実戦的な光学兵器ってまだ戦艦とかに積むぐらいのデカいサイズのものしかなかったはずだし、そこはこの学園なりのアレンジがあるってことなのかな?」
僕は画面を次のものへと切り替える。
画面に表示されるステータスはバランス型であるαを基準とすると先ほどよりも装甲値が低い反面、機動力、旋回能力がとても高くなってる。
しかし……細身の姿に腰の刀も相まって兵士と言うよりは剣士を連想させるな。
◇◇◇
登録名『パターンβ』
メモ欄『その高い機動力で敵をほんろうしたまま敵を討つ。高機動、近接特化の武装パターン』
武装・説明
『対G・W用小太刀』
両腰に取り付けられた鞘に納めらている実体刀。
特殊な合金製のその刀身は高周波振動によって鉄をも軽々と切り裂く最高の切れ味を発揮し、さらには光学兵器をも耐えうる耐熱性、耐久性を誇る。
もちろん敵の弾丸を弾くことも可能。
『パルスダガー』
腰部装甲内部に多く収められている短剣。
高周波振動によって高い切れ味を生み出し、敵を切り裂く。
収納時はグリップ部分のみで、取り出した後に鋭い刃が突出、振動を開始する。
『小型シールド』
両腕に取り付けられた小さな盾。(注2)
空気抵抗を抑えるために少し角ばった歪な形をしている。
パターンαと比べると一回り小さく性能に大きな違いはないが、小さい分だけ取り回しがしやすくなっている。
『ワイヤーアンカー』
両腕のシールド下に隠されている小さな碇。
強力な射出機によって放たれたアンカーは頑丈なワイヤーによって巻き取られる。
機体の移動補助だけでなく、上記のダガーが取り付けられるようになっているので攻撃としても利用ができる。
◇◇◇
「高機動で近接特化……でもワイヤーとかを利用すれば中距離にも十分に対応できそう。それにもしかしたら立体機動とかできたりして」
このゲームのスペックがクオリティーが一体どれほどのものなのか分かってもいないというのに僕はそんな妄想を掻き立たせながら次のものに画面を切り替える。
最初に見たものよりも装甲が多く、ずんぐりとしている。
見た目通り、αと比べると装甲値は高いが、機動力は低い。
その機動力を補うためなのか、足にはローラーではなくホバーが取り付けられており、背の翼はジェットが一回りほど大きくなっている。
各所に装備された武装からは兵士や剣士という人ではなく、砲台を連想させる。
G・Wという兵器が最も兵器らしい姿をしていた。
◇◇◇
登録名『パターンγ』
メモ欄『威力の高い火器兵器を多く搭載し、多くの敵を薙ぎ払うことが可能である重火力遠距離特化の武装パターン』
武装・説明
『六連式ガトリング砲』
左腕に取り付けられている重火器兵器。
手元にあるグリップを掴むことで使用できる。
火器本体を守るために取り付けられている装甲版は盾としても使用可能。
また空になった弾倉は自動的にパージされる。
パージ後、新たな弾倉がコンテナ下に出てくるので弾倉についた取っ手を持って、火器本体に取り付けることでガトリングのリロードが完了する。
『サブマシンガン』
脚部右側に取り付けられた片手で使用できる火器兵器。
装甲を貫く徹甲弾を使用している以外は一般的な短機関銃と変わらない。
リロードは弾切れ時に脚部装甲内から新たな弾倉が突出するため片手で行うことも出来る。
『3連ホーミングミサイルポッド』
両肩に取り付けられている火器兵器。左右、計6発。
音声に反応して弾頭は発射される。(発射時の音声はチュートリアル時に登録)
また撃ち尽くした後にポッドは自動的にパージされ、コンテナから新たなミサイルポットがロボットアームよって取り付けられる。
『8連小型ミサイルポッド』
左右の脚部に取り付けられている火器兵器。左右、計32発。
上記のものと同じく音声によって弾頭が発射される。
前後二重になっており、一発放った後、奥から新たな弾頭が現れる。
こちらは撃ち終えた後、空のポッドが自動的にパージされるのみでリロードは不可。
『弾倉コンテナ』
機体の背、バックパックに取りつけられている重火器兵器の弾薬を収納しておく分厚い鋼鉄板でできた箱。
中には火器弾薬がぎっしりと詰め込まれており、内蔵されたアームによって装備している重火器兵器の弾薬が自動的に補給できる。
『ホバー装置』
脚部に搭載された移動装置。
地上、水上、雪原、多少の凹凸ならば無視して自由に移動が可能。(チュートリアル時、詳細説明)
◇◇◇
「ん~銃が苦手な僕でも下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってことで僕にも使えるかなぁ?……でも、近接武器がないってのは拳で戦えってことか? んん~~せめてアーミーナイフぐらいは腕にでも取り付けておいてほしかったなぁ~……えっと次はっと」
僕は『次へ』に触れて次の画面へと切り替えるとぽっちゃり体型がすっかりと痩せて元に戻る。
基本的な数値は最初に見たアルファと大差はない。
しかし大きく異なるのはレーダー性能。その数値が大きく飛び抜けている。
つまり周辺索敵の範囲が広い、ということになるのかな?
◇◇◇
登録名『パターンδ』
メモ欄『敵の索敵範囲外から敵を討つ。超長距離精密射撃の武装パターン』
『スナイパーライフル』
黒いフォルムの美しい連射することも可能なアンチマテリアルライフル。
射程や精度、威力がとても高く、グリップ部分のコネクターから本体とを接続することで取り付けられているスコープに映るものを視界に表示することができる。
『エナジーピストル』
太股部分のホルスターに収められている一丁の拳銃。
圧縮したエネルギー弾を放つ特殊な銃弾を使用する。
小型で取り回しに優れ、連射性も高いが、エネルギーの拡散が早く、射程は短め。
また一発一発のエネルギー自体の量も少ないので威力も低い。
リロード用の新しい弾倉はホルスターのある方とは逆側に内蔵されている。
『パルスナイフ』
後ろ腰の鞘に納められている近接戦闘用の大型ナイフ。
ダガーと同じ、高周波振動によって敵を切り裂く。
◇◇◇
「スナイパーか……他のゲームとかならスコープで狙うから敵の動きがゆっくりだったりすれば全然狙い撃てるんだけど、大抵それまでに背後から近づいてくるもう一人の仲間に気が付くことなくやられるんだよなぁ。ヤラレチャッタなんだよなぁ~」
僕は画面を切り替えながら、4つのパターンを見比べながら顎に手を当てながらさながら難事件に出くわした名探偵のごとく悩む。
う~んこうして冷静に考えてみるとこれって確か単なるゲームじゃなくて入試試験なんだよなぁ。
この選択によって僕は今後の人生を左右されると言っても過言ではない。
さて、まず考えるべきはこのゲームは一体どっちになるのだろうか?
ロックオンした敵に銃を向けた際に自動的に照準を合わせてくれる親切設計なのか、それともしっかりと照準を自分で合わせないといけないものなのか……。
「ん~~」
説明から読み取れる細かそうな設定やシステムとかから読み取るに多分後者の考えが正しいのだろうな。
となると、だ。射撃が苦手な僕から考えてパターンγとパターンδは完全に選択から外れるな。
まぁミサイルならロックオンすることで自動的に敵に向かって飛んで行ってはくれるのだろうが、ミサイルだけで戦いきれるとは到底思えない。
パターンαもバランスで悩んだみんなが喜んで使いそうではあるけれど、ライフルを牽制用で使うにしても弾数が少なすぎる。
それにエナジーサーベル。あの機動戦士達が使いそうな光の剣を銃が苦手な僕は主に、というかほぼそれだけを使って戦うことになるだろう。
しかしそれを使うにしてもあれには制限時間がある。それがどのくらいのものであるのかが分からないけど、使い続けられないっていうのは万が一その時間が短かった時、銃が使い物にならない僕にとっては問題になるだろう。
となるとパターンβ。近接戦闘に使用する武器である小太刀の攻撃よりは少しばかり低めではあるが、こちらには使用制限は存在しない。
それに二本もあるんだ。敵に対して隙を与えずにコンボも繋げられるだろう。
まぁ、コンボなんてシステムがここにあってダメージ増加とかスコアボーナスとかがあるのかなんてものはわからないけれど。
結局、射撃武器が苦手な僕としてはこれでいいか。
僕は目の前に浮かぶ一覧から《パターンβ》を選択して『これでいいですか?』という確認画面の《OK》をタップする。
『機体選択了承しました』
耳に届く、機械音声。そして同時に部屋が光に包まれる。
「んっ――」
突然起こったそれに思わず、小さく声を漏らし、目を細める。手で目元に影を作りながらその眩い光を放つ光源である方。
円柱パネルに対して僕の反対側に位置する先ほどまで大きなモニターが浮かび上がっていた辺りが光り輝く。
そしてそのよく見えない光が徐々に弱まっていき、視認できるようになった頃、そこには壁から伸びるロボットアームによって支えられたフリーダム・フラッグが目の前に現れる。
僕はゆっくりと近づいていき、社会見学で行った歴史博物館で見たものを思い出しながら目の前のものを眺める。
しかしじっくりと眺めることは叶わなかった。もし鑑賞モードとかあったらじっくりと眺めたかった。
『機体への搭乗開始』
そう流れる機械音声の後、僕の身体は己の意思に反して動き出す。
成程、初めてなのに一体どうやって乗り込んだりするのかが疑問だったけど、VRゲームの格ゲーなんかで必殺技とかを叩きだしたりする時みたいにここは自動的に行われるということなのか。
僕の身体はそう思っている間にも、納得している間にも動き続ける。
胴体部分の装甲が開くのを待って、目の前にある小さな段差を上ると、その身を180度回転させてフラッグに背を向け、そしてまるで服を着込むような形でフラッグの脚部に足を通し、腕部に腕を通す。
しっかりと手元のグローブがシワにならないように確認して最後に側の台座に置かれている頭部をすっぽりと被うヘルメットを被る。
次に目元を覆うバイザー部分に、つまりは視界に様々なものが表示される。恐らくはこの機体の耐久値(ヒットポイント)を表すのであろう緑色のバーともう一本黄色いバーが表示され、その上に各数値が表示される。
先ほど選んだ武装を示すのであろう簡易表示のアイコンが、盾のアイコンの上に耐久値を示すバーがNowloadingという文字の後に小さく表示される。
またその間に背の壁の中から現れたロボットアームが先ほど選択した武装を取り付けて行く。
『次にチュートリアルに進みます』
機体が全ての武装を装着し終え、視界の表示が表示し終えた後も自由には動けることはなく、耳に届くその機械音声の後、視界が光に包まれる。
そして闘技場のような場所に到着してようやく自由に動くことが許された。
まずは自分の体を確かめる。
手を、足を、今現在身に着けているフリーダム・フラッグと言う兵器が自分の思うように、思い通りに動かせることを確認する。
それからチュートリアルの指示にしたがって表示される光の輪に向かって歩き出す。
歩くことに支障はない。しかし視界は若干高くなり、中学一年ぐらいに訪れたというか連れられた昔遊び部(クラブ)で乗った竹馬にでも乗っているような感覚に違和感を覚えるのは確かではある。そしてそんな感覚を感じながらも僕は無事、目標の地点にまで歩いて行った。
次に走り、これもバランスを少々取りにくいという感覚はあるが、問題はない。制限時間もないので焦ることなくクリアする。
次はウィールによる滑走。これは少々手こずった。走っている際にバランスを取ることもそうだが、問題は手を使うことなく地面を滑走するのが苦労した。
もちろんウィールで走るという面に関しては問題はない。
僕は中二前回の頃にローラーシューズを、どこぞの名探偵を夢見てスケートボードを、過去に活躍した竜騎士の神を見てアイススケートを、トロフィーを全て制覇してしまうほどに、飽きてしまうほどに扱ってきた。ゲームの中で散々遊んできた。
だからこの滑走にはすぐに慣れた。だから問題はない。支障はない。
問題だったのは後半の方、手を使うことなく滑走する、というところ。
まず手を使うというのはウィールのアクセルやらブレーキやらを腰の辺りに取り付けられているグリップタイプのコントローラによって操作するというものだ。
方向転換にはローラーシューズをしている時と大差はない(速度が速度なので簡単ではなかったが)。
こちらに関しては問題はない。だが手を使わないとなると別だ。
手を使うことなく一体どうやってウィールを操作するんだ? 答えは簡単、イメージすることだ。
は? っと思うかもしれないが(僕も初めて聞いたとき思った)、要はヘルメットに内蔵されている装置が脳波を読み取ることで機体を思うがままに動かすということだ。
自身の体を動かすようにフラッグの手足が稼働するのと同じように足の下にある輪っかを思い通りに動かす。
そんなこと普段イメージなんてするはずもない為、時間がかかった。
だが慣れてしまえばなんてことはない。いや、出来てからそんなことを言ってはいるが、ここで慣れなければこの先うまく行かないと思ったからというところが大きい。
もし敵に取り囲まれてこのウィールを使いながら戦う際に片手にコントローラーをもちながら戦うのと持つことなく戦うのではやはり両手が開けることのできる方が断然いい。そう考えたからだ。
全員のチュートリアルが終わるまで、つまりはこのチュートリアル自体には制限時間は設けられていない。足の下の車輪も背負っている鉄の翼も同じくたっぷりと時間を使って思うがままに操れるようになるまで練習させてもらった。
他の人はもう待っていて早くしろとか思っているかもしれないが、そんなことは知ったことではない。
これはゲームてあっても遊びではないのだ。
奇しくも誰かの名言のようになってしまったが、まぁここでその言葉は間違った使い方はしていないのだしいいだろう。心の中で思うだけならタダだ。
そんな余裕が生まれるほどにはこの機体の操作には慣れてきた。
もういいだろう。そう思って僕は次の説明に移った。
しばらくして僕は実戦訓練を行う。今までの全てを使って襲ってくる敵と戦う。
僕は意識を集中させると背の折りたたまれている翼を広げ、空へと飛び立った。
右手に小太刀を握りしめ、先ほどから弾丸を放ってくる上空の敵、次の試験で戦うことになる無人のG・W『守護戦士(ガーディアン)』に向かって加速し近づいてゆく。
名前から想像できるようなゴツゴツとした真っ白な装甲をもった敵に向かって飛んでいく。
そしてチュートリアルの中で発見した裏ワザを使用する。
それはを頭部を攻撃すること、つまりはヘッドショット。それによって相手の動きは停止して地上へと落下する。
これは地上での戦闘訓練で問題なく撃破扱いになったので試験内でも使える技であるということだろう。
まぁ敵が人間であったならば普通に考え付くことだし、銃とか使っている人は普通に狙いそうなのでやっぱりどちらかと言えば小技だっただろうか?
とにかく僕は敵の首を跳ねつつ敵の腰に納められている剣をひき抜くと地上で銃を撃ってくる残り二体の敵、その一方に向けて剣を投げ下ろすともう一方の方に向かって一気に降下する。
投げ下ろした剣は敵の脳天から胴体を串刺しにしてもう一方の敵は手にした小太刀で左右真っ二つに切り伏せる。
そして爆発四散、首を跳ねた奴は地面に落ち、砂埃を上げたままそこに横たわる。
『敵機の撃破おめでとうございます。これにてすべてのチュートリアルが終了となります。お疲れ様でした。それでは試験開始までしばらくお待ちください』
40分だか50分だかを闘技場で過ごし、視界に映っている疑問であった黄色いバーが自身の身を守ってくれる『フィールドバリアー』の残りエネルギーであるということを頭に入れたまま、視界に浮かび上がる《終了》にその手で触れる。
そして僕は再びあの鉄の部屋に戻ってくる。身に着けていたフラッグも光となって消え去り、静かな時間が訪れる。
先ほどとは違い、部屋にはゆったりとしたBGMが流れている。
結構時間をかけてしまったので終わったと同時に試験が始まるとばかり思っていたが、どうやらそういうこともないようだ。
やはりみんな操作訓練で手こずっているということなのだろう。
やることもないので円柱のパネルをいじっていると《解説》という新たに追加されていた項目に触れ、先ほど受けたチュートリアルの説明を読み始め、そして無人のG・Wガーディアンについてのものがあることを発見したので読み始めることにした。
◇◇◇
『守護戦士(ガーディアン)』
インプットされた多くの行動パターンによって動く無人の機体。
拠点防衛や偵察、周辺警戒に主に運用される。
敵からの捕獲、鹵獲を防ぐために最悪の場合、全データを消去、自爆する(今回は行わない)。
それでも万が一捕獲された場合を備え、装備している武装や機体性能は普通よりも少しだけ高い程度にとどまっている。
フィールドバリアーなどの特殊な機能は搭載されていない為、もろく壊れやすいが、すべてが機械でできているためパワーが高く、人のいられないような環境で活動ができ、また人にはできない動きを行うことができる。
武装・説明
『大型リニアライフル』
弾丸を電磁力で高速射出する兵器。
専用バッテリーやロングバレルなどのカスタムによって大型になっており、取り回しはしづらいがかなり高い威力を持つ。
牽制用の連射と破壊力の高い単射の二種類のタイプに切り替えが可能。
『シールド』
左腕に取り付けられた自身の身を守る鋼鉄の盾。
耐熱板によって敵の光学兵器も伏せぐことができるが、攻撃を受け続ければ壊れてしまう。
また、シールドは左腕から取り外して右腕に取り付けることも、その手で持つことも、バックバックに取り付けかえることも可能である。
『対G・W用直剣』
左腰に取り付けられた鞘に納めらている実体剣。
特殊な合金製のその刀身は高周波振動によって鉄をも軽々と切り裂く最高の切れ味を発揮し、さらには光学兵器をも耐えうる耐熱性、耐久性を誇る。
もちろん敵の弾丸を弾くことも可能。
『自爆機構』
文字通り、胴体部分にある爆薬を爆発させ、自分自身及び周辺を吹き飛ばす。
他に手がなくなった際の最終手段。
保存された全データを完全消去した後、発動する。
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