01-6

12時25分


防人と植崎の二人がゲームセンターにて奮闘中の最中。

湊はショッピングモールの5階、レストラン街にあるスイーツ専門店で待ち合わせをしていた。

先ほど届いたメールによると相手が予定よりも少しばかり遅れるとのことだったので湊は一足先にイチゴたっぷりのパフェ、『ストロベリータワー』を注文していた。


「湊……」


先に届いていた砂糖とミルクをたっぷりと注いだコーヒーを飲んでいると名前を呼ばれる。

その声の主が誰であれ湊にとってはこののんびりとした時間に水を差すうっとおしい存在でしかない。

しかしほんのわずかの例外は異なる。

今回はその一人、今朝携帯で待ち合わせの約束をした人。

その顔を見て湊はうれしそうな笑みをその人に向ける。

とてもうれしそうに白い八重歯を見せる。


「遅かったのね。兄様」

「まぁいろいろとあってね」


「兄」と呼ばれ返事をしたその声の主は防人ではなく、腰の辺りまで白銀の髪を伸ばした男性であった。

しかしその顔は男性よりではあるが中性的で声を聞かなければ男性であるとわからないだろう。

彼は湊と向かい合わせになるように長椅子に腰かけ、水を持ってきたウェイトレスにアイスコーヒーを注文してメニューを机の端に立てる。


「久し振りだな、湊」

「久し振りね、兄様」


そう、わかりやすく甘えた声で、本当に、心の底から嬉しそうに笑みを浮かべる。

その姿を傍から見たら無数のハートマークが飛び交う錯覚を覚えるだろう。

「何年ぶりだ?」

男は冷静な態度で彼女の顔を見ながら話を始める。

「もう四年になるかな。 随分かっこよくなったわね」

「そうか? ありがとう。そっちは随分とかわいくなったものだな」

「えへへ~ありがと~」

湊はうれしそうに頬に手を当てて体をくねらせているとウェイトレスが大きなカップに入ったイチゴのパフェを運んでくる。

きたきた、と彼女は瞳を輝かせてスプーンを手にすると早速、口いっぱいに広がる甘いクリームを楽しむ。

「またすいぶんとでかいのを頼んだな」

「へっへぇ~んここで一番の人気商品だっていうから頼んじゃった」

「人気……この『ストロベリータワー』か……2000円もするのか」

「きっといいイチゴを使ってるんだろうね~すごくおいしいよ」

「そっか……」

「はいあーん」

「いや、俺はいいよ」

「あーん」

「あ、あーん」

「んふっどう?」

「うん、おいしいよ」

「そっかよかった」

湊は笑みを浮かべて嬉しそうにパフェを食べ続ける。

それを彼も嬉しそうに眺め、ウェイトレスが続けてコーヒーを持って来てくれそれを受け取る。

コップに砂糖を少し入れ、かき混ぜながら彼はゆっくりと口を開ける。

「ところで、『あいつ』は変わらないのか?」

あいつ、そう聞いて湊の手がピタリと止まり、その顔から笑みが消える。

「えぇ、この四年間どこからどう見ても平凡そのものの生活を送っているわよ」

「おかしな点は?」

「ないない。もしあったら真っ先に気付いてるわ」

先ほどとはうってかわって空になったコーヒーカップをいじりながらとてもつまらなそうに話す。

「そうか、メモリープロテクトは完璧だということか……」

「ならわざわざ聞かなくてもいいじゃない」

「いや、ふとしたことが記憶の蓋を外すファクターになることもある」

「どうせ見るぐらいなら他の人でもいい気がするんだけど」

「いや、まず過去のあいつを知っている人でないとこれは無理だ。もちろんお前をあいつの妹にしたのは記憶の刷り込みが簡単だったというのもある。しかしそうでなければ記憶の書き換えは」

「わかってるわ元に戻りやすいんでしょ?」

「あぁ……そうだ」

「でも、ここまでしてわざわざあいつを入れる必要はあるの?」

「……今更な話だな」

「そうだけどさ……」

「お前も知っての通りあいつは我々にとって重要な人材なんだよ」

「それはわかってるけど」

「それにこれがうまく行けば我々の予定は大幅に繰り上げることができる」

「そうだったね。……あーあ私にも適性があればよかったのになぁ」

「別に適性がないことはないぞ」

「分かっているわ。低いんでしょ。わたしだってもっと適性が高かったら聞こえるのかしら?」

「さてどうだろうな。適性ってのは今のところどれだけ力を引き出すことができるかという大まかなランク付けだからな」

「だから適性の低いあたしは兄様の計画に組み込むことができないんでしょ?」

「いや、だから適性と言うのはどれだけ力が引き出せるかによる。もし適性が低くても引き出せるものが偏っているから平均すると低い。という者もいるんだ」

「でもあたしは低いし、偏ってもいるわけでなく低いし」

「だが技術は高いだろう。それに使い続けることで今以上に力が引き出せる可能性だって」

「でもそれだって本当にそうなるかどうかはまだわかっていない状況なんでしょ?」

「確かにそうだが……」

「ねぇ、使えないあたしはいらない子?」

「うっ……いやそんなことはないぞ」

「デモアタシ適性ナイシ……」

暗い、すごく暗い……照明でも落ちたのか?

彼は少し焦り、出来る限りいいことを言おうと心がける。

「あぁ……でそれでもしだ。仮にダメだとしてお前は俺の元を去るのか?」

「そんなわけないじゃない。兄様といられない世界なんて死んだ方がマシだわ」

「なら、それでいいじゃないか。自分がそうしたいと思っているんだ。したいようにすればいいさ」

「そうね……その通りだわ。さすが兄様は言うことが違うわ」

湊は瞳を輝かせ、うれしそうに笑みを見せる。

腰に手を当てながら……。

「あぁ、一応言っておくが、仕事だけはこなせよ」

「チッ」

本当に何をしようとしていたんだろうなコイツは……。

「ほら、それよりもそのパフェ早くしないと完全に溶けてしまうぞ」

「あぁいけない」

話はうまく逸らせただろうか?

彼は湊がパフェを頬張って幸せそうにしている顔を見て少し安堵する。

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