終章・その4

 タケルとキリカは、楽しそうに話しているイヨとナナを見つけた。


「じゃあイヨお姉ちゃん、いつでも遊びに来てね~」

「ええ、ナナもね」


「あ、ナナは両親と暮らすんだっけ」

 タケルが尋ねる。


 ナナも一応はイシャナから領主にと打診されていたが、やはり断った。

 その代わり新しい服や調理道具や料理の本をねだっていたが。


「そうだよ~。でも、いつかマオのとこに行くの~」

 ナナは嬉しそうにそう言った。


「あらそれ、お嫁さんにって意味?」

 キリカが笑顔になって聞くと、ナナはやはり嬉しそうに頷いた。


「今まで離れ離れだったし、ご両親とたくさん過ごしてからだよな」

「うん! タケルもパパやママに甘えたらいいよ~!」

「ははは。甘えるってか、いろんな事たくさん話すよ」


 そして

「ねーちゃんは俺達を手伝ってくれる?」

 今度はイヨに尋ねる。

「勿論よ。でも、いつかはあたしもお嫁に行くわよ」

 イヨは微笑みながら答えた。


「分かってるけど、そんなすぐに行かないでくれよな」

「ええ。お父さんやお母さん、おじいちゃんとも一緒に暮らしたいしね。そうだ、おばあちゃんのお墓参りもしないとね」


「墓は家のすぐ近くにあるから、安心させてあげてよ」

「ええ。分かったわ」



「そういえばミッチー、ちゃんと元の時代に帰れたのかしら?」

 イヨが心配そうに呟いた。

「あ、そうだな。でも未来じゃ知りようがないよな?」


「私が見せましょうか?」

 いつの間にかそこにいたセイショウが二人に言った。


「え、それっていいんですか?」

 タケルが尋ねると

「構いませんよ。それとはっきりとは映し出せませんが、無事を確認するくらいならなんとかなりますよ」

 セイショウは懐から水晶球を取り出して、それを指さしながら言った。


「ねーちゃん、どうする?」

「ええ。お願いします」

 イヨが頭を下げた。


「分かりました。では」 


 セイショウが水晶球を掲げて念じると、そこにミッチーの姿が映し出された。


 どうやら旅をしているようで、時折襲ってくる魔物を倒し、何処かへと向かっているようだった。


「あ、元気そうだな。それにやっぱ強いや」

 それを見たタケルが感心しながら言うと


「ええ。ですが彼の世界には、魔物なんていないはずなんですが?」

 セイショウが首を傾げる。


「セイ兄ちゃん、もしかしてミッチーの世界に何かあったんじゃ?」

 キリカがそう言うと


「そうだな、もう少し見えないものか……ん? な、何だと!?」

 セイショウは何かに気づいたのか、驚きの表情を浮かべた。


「え、どうしたのよ?」

「彼は元の世界ではなく別世界にいる。しかもこれは、混沌世界だ!?」


「え、ええ!?」

「何でミッチーがそこにいるの!?」

 タケルとイヨが驚き叫ぶと


「少し待ってください。そこまでの経緯を可能な限り映し出しますから」


---


 ミッチーはタバサが作り出した透明の球体に入ったまま、薄暗い時空の道を進んでいた。


 やがて

「あ、あれが元の世界かな?」

 ミッチーの目線の先には、蒼く光り輝く星が浮かんでいた。


「あそこに両親と兄さんがいるのか。どんな人達なんだろね……あれ?」


 蒼い星の上を見ると、灰色の光を放つ、不思議な星が見える。


 そして何故か、その星からタバサ様の気を感じた。

 声が聞こえた気がした。


「あれは……うん」

 ミッチーは球体に手を当て、気を集中し始める。


 すると、彼の体が白く輝き出し、その光が球体にも伝わっていった。


「待っててね、今行くから……お母さん」



 やがて球体はその進路を変え、灰色の星へと向かっていく。


 そしてミッチーは足下に見える蒼い星に向かって呟いた。


「必ず帰るから、ね」



 その後ミッチーは灰色の星、混沌の世界へと入っていった。



 その後は途切れ途切れにしか映らなかったが、彼がそこで新たな仲間と出会った事、無事に元の世界に戻れた事、その手に不思議な珠を持っていた事だけは、はっきり見えた。


---


「ホッ、よかった」

 それを見たイヨは胸を撫で下ろした。


「ねえセイ兄ちゃん、ミッチーが持っていたあれって、まさか?」

 キリカが兄に尋ねると

「ああ。これでタバサ姉様が確実に救われる事が分かった。……ミッチー君、お仲間の皆さん、ありがとうございました」

 セイショウはその目に涙を浮かべ、水晶球に向かって礼を言った。


「よかった。ところでミッチーって、タケルの子孫かな?」

 いつの間にかそこにいたユイが、そんな事を言った。


「は? 何でそう思うんだよ?」

 タケルが不思議そうに尋ねる。


「だってタケルとミッチーってよく似てるし、その可能性もあるかなと思ったの」


「えっと、どうなの?」

 キリカがセイショウに尋ねるが


「俺もそこまでは分からん。二人共スサノオ様の子孫である事は見えるが」

 セイショウは首を横に振って答える。


「あの、もしミッチーが本当に俺の子孫だとすると、ねーちゃんと結婚して問題ないんですか?」

 タケルが不安気に尋ねる。

「仮にそうだとしても、彼は約三千年後の人間です。そこまで行ったらもう血の繋がりも薄れているから、大丈夫でしょう」

 セイショウは笑みを浮かべながら頷いた。


「だって、よかったね」

 タケルがイヨの方を向いて言うと


「ええ。でもあんた、ミッチーが義兄でいいのかい?」

「いいよ。あいつ、ねーちゃんを絶対大事にするだろからさ」

 それを聞いたイヨは、頬を染めて俯いた。


「わたしもそう思う。だって彼はタケルとわたしの子孫だと思うし」

 ユイが妖しい笑みを浮かべながら言うと

「もしタケルの子孫なら、私の子孫でしょうが!」

 キリカがユイに向かって怒鳴った。


「うう、じゃあわたし達三人の子孫でいい」

「どうやったらそうなるのよ!?」

「タケルとキリカの子孫と、タケルとわたしの子孫が結婚して出来た子供がミッチーだとしたら、あり得るよ」

「そ、それならって、それ以前にタケルとあんたが、な訳ないでしょ!」

 キリカがまた怒鳴ると


「わたしはたぶん短い人生なんだから、ちょっとくらい夢見させてよう。うえええん!」

 そう言ってユイは大声で泣き出した。

「あ……」

 それを見たキリカは何も言えなくなった。


「タケル君。一回だけなら見て見ぬふりしてあげますよ。ふふふ」

 セイショウが黒いオーラを出しながら言う。


「え、え? いや、俺はその」

「あなた、ユイさんにはっきりと断ってませんよね?」

「……ごめんなさい。あんなに好かれてたら言い出せな、いや、少しだけ気持ちが」

 タケルが俯きがちになると


「まあ、ゆっくり考えなさい。しかし羨ましいものですね、恋する事が出来るのは」

 セイショウも俯きがちになって、そんな事を呟いた。


「え? 神様は恋愛しちゃいけないのですか?」

 タケルが尋ねると

「いいえ。ただ愛するというものは分かりますが、それが自分の事となると、よく分からないのですよ」


「じゃあ、キリカやタバサを愛してる事は?」

「それは家族愛でしょ、そのくらいは分かりますよ。でもねえ」

「うーん、いつか運命の人に出逢えたら、分かるんじゃ?」

「そうかもしれませんね。さてタケル君、今まで出会った他の人達が待っていますよ。行っておあげなさい」

「あ、はい!」

 タケルとキリカ、ユイは他の場所ヘと歩いて行った。


 そして

「……父上様、母上様。お二人はお互いを心から愛し、夫婦となり、そして私を産んでくれましたね。私もあなた達のように、心から愛する人を見つけられますかね?」

 セイショウは天井を見上げ、そう呟いた。




 その後、タケルとキリカは仲間達や旅路で出会った者達と楽しいひと時を過ごしたが、最後にお決まりの如くユイが酔っ払って邪神と化した。

 だが、いつもは野郎を操ってさせるユイだが、今回は。


「フフフ。さあタケル、わたしと(ズキューン!)しよ」

 すっぽんぽんになったユイがタケルに抱きついていた。


「アホかー! 正気に戻れー!」

 タケルが力いっぱい叫ぶが、ユイは全然聞いちゃいなかった。


「ユイ、タケルから離れなさいよー!」

 キリカがユイを引き剥がそうとするが、やはりビクともしなかった。 



「なあ、アレどうするよ?(チッ、羨ましいぜ)」

 ソウリュウが心の中で舌打ちしながら、タケル達を指さして言う。

「放っておけ。下手に手を出したら操られて、最悪俺とお前がなんて事も……」

 イシャナが震えながらそう言った。


「兄さん、姪の裸見て倒れないでよー!」

 イズナは鼻血出して倒れたイーセを介抱していた。

 てか、この男やはり?


「ダン、しっかりしろ!」

 ディアルがやはり鼻血を出して倒れたダンを介抱していた。


「ナナ、あっちでいいコトしよ。ハアハア」

 興奮したイヨがナナを何処かへ連れて行く。


「姉さん、あの変態女を殺るから手伝って」

「勿論とね」

 マオとマアサが恋人を、将来の義妹を救うべく、イヨに立ち向かっていった。




「でもさあ、ユイはこの先どうなるんだろ?」

 アキナが心配そうに言うと

「うーん。聞く限りだと、おそらく今まで生きてきたのと同じ年数は記憶が無くならないだろうね」

 カーシュがそう言う。

「その間にいい手が見つかればいいけどなあ」

「そうだね。さてと、アレを止める?」

「放っておこうぜ、今回は害が無さそうだし。それよりあたい達もどっかで」

「う、うん」

 カーシュとアキナは何処かへ行きやがった。



「う、うう。頼むから離れてくれ。でないと俺、理性が」

「飛んじゃえばいい。そしてわたしだけじゃなく、キリカもまとめて襲って」

「アホか-! 私は見られてする趣味なんか無いわよー!」


 この三人のその後はどうなるのか。

 それは、どこかで分かるかと。


 

 そして……。

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