終章・その3

 そして次の日


 タケル達は仮城に集まった多くの人々の歓声を受けていた。

 皆、彼等に感謝の言葉を送り続ける。


 そしてその場で、イシャナはタイタン王国の分割を発表した。


 自身は元々の領地がある東部を中心に新たな国を作り、中央部はイーセとイズナ兄妹、タケルとキリカが飛び地である東の島に国を作り、そこの王になると発表した。


 その他の地域は功績のあった者達が自治領主として治める事になり、今後国を興すのも自由となった。

 

 その後、式典やらパレードやらに追われ、日が暮れた頃。


 仮城では宴会が催されていた。

 ここにはタケル達だけでなく、あちこちの有力者や、タケル達が旅の間に関わった者達が招かれていた。



 そこでタケルとキリカは、仲間達の元を回って話していた。


「なあ、何でアキナは領地を辞退したんだよ?」

 タケルがアキナに尋ねる。

 彼女もイシャナから故郷を中心とした新たな国の女王にと打診されたが、あっさりと断っていた。

 

「あたいはそんなガラじゃないもん。それよりカーシュさんと一緒に、もっと勉強したいんだよ~」


「そっか。それで何の勉強するんだ?」

「農学だよ。寒さや暑さに強い作物を作るとか、食べられる植物を見つけたりとか、えっと……まあ、とにかくたくさん勉強して、そして皆で腹いっぱいになるんだ!」

 アキナは笑みを浮かべ、元気よくそう答えた。


「な、なるほど」

「でも、そっちの方がある意味王様より大変だと思うわ。頑張ってね」

 キリカがアキナの手を取りながら言う。

「うん。キリカもしっかり王妃様やれよな」

「ええ」



 しばらくして、今度はマオ、マアサに話しかけた。

「マオは故郷周辺の領主になるんだよな」

「うん。国を作ったらとも言われたけど、それはこれまでの活動や神剣士一行としての功績でなく、領主として功績をあげてからにしたいんだ」

 マオが頬を掻きながら言った。


「真面目ね。それで、マアサはどうするの?」

 キリカが尋ねると


「うちはマオを手伝うとね。そんで、落ち着いたらいつか南方大陸に行くと」

「何でまた?」

「えーと、実は、その」

 マアサが何やらモジモジしている。

 すると

「姉さんの恋人がそこの生まれなんだ。だからだよ」

「ちょ、先に言わんといて!」

 マアサは顔を真っ赤にし、マオに怒鳴った。


「え、恋人いたの?」

「聞いた事ないわよ?」

 二人が首を傾げていると


「この戦いの前に告白されたけん、まだホヤホヤと」


「あ、そうだったんだ。それでどんな人?」


「元カピラ教団の幹部だった神官とね。タケルやキリカちゃんとも話した事あると」

「ほら、彼だよ」

 マオが指差した先には、背が高くて若いながらも風格のある神官が、他の神官達と談笑していた。


「あ、あの人か。たしかに話した事あるよ」

「私も。それにもし知らなかったら、あの人が大神官だと思ってたわ」


「うん。彼の方が五歳年上だし、誰でもそう思うよね」

「うちらを陰で支えてくれた恩人とね。でもまさか、初めて会った時からずっとうちの事好きだったなんて~」

 マアサは照れながらそう言った。


「そんじゃ、結婚式する時は呼んでよ」

 タケルがそう言うと

「うん。でもどうせそっちが先やけん、うちらの参考にさせてもらうとね」

「あ、僕もそうするよ」

 マアサとマオが続けて言った。

 それを聞いたタケルとキリカは、互いを見つめ合った後、顔を真っ赤にした。

 



「ソウリュウさんも王様か領主にならないの?」

 今度はソウリュウに話しかけていた。


「俺はそんなもんになるより、アイリスと故郷でのんびり木こりと狩りして暮らすさ」

 彼はその多大な功績にも関わらず「恩賞など要らん」とイシャナに伝えていた。

 

「うーん、ソウリュウさんって何だかんだ言っていい人だし、いい王様になると思うんだけどなあ」

「そうか? なら幼女だらけの王国を作るか」



「あ、が、相変わらず容赦ねえな、お前」

 変態ソウリュウはタケルにぶった斬られた。


「しかしアイリスも、この人とじゃ大変だろうな」

「ええ。でも彼女、これからもずっと子供のままよね。大丈夫なのかしら?」


「それなら大丈夫よ」

 いつの間にかアイリスもそこにいた。


「え? それどういう事だよ?」

 タケルが訝しげに言うと

「あのね、あたし体が成長し始めてるの。分かりにくいでしょうけど、少し背が伸びたのよ」

 アイリスは自分の頭をさすりながら言った。

「へ、な、何で?」

「よく分からないわ。でも成長が始まったのって、ソウリュウと再会した時からなの」


「それ、もしかして愛の力か?」

「そうよね、きっとそうだわ」


「ううう、エターナルロリじゃなくなるのか」

 速攻で復活したソウリュウが目を押さえながら言う。


「もう一回斬ってやろうか?」

 タケルが剣を抜こうとすると

「冗談だよ。アイリスの事は死んでも愛し続けるぜ!」

 ソウリュウは一転して真剣な目つきで言った。

「あたしもよ!」

 アイリスがすかさず彼に抱きつく。


 そしてタケルとキリカは、イチャつき始めた二人を放っといてその場を去った。



「ダンは希望通りの領地を貰ったんだよな?」

 タケル達はダンに話しかけていた。


「ええ。ただ住人があまりいませんので、まずは人集めからですね」

「人集めなら俺も手伝うから、頑張ってな」

「はい!」

 ダンは元気よく答えた。


「出来れば彼も私達と一緒に来て欲しかったけど、仕方ないか」

 そこにディアルがやって来た。

「あ、ディアルさんはイシャナさんを手伝って新国家を作るんだよね」


「はい。それともう一つ重大な使命があります」

「え、それって何?」

「王妃探しですよ」

「はい? 言い方悪いかもしれないけど、イシャナさんなら選び放題じゃ?」

「ええ。ですがあの兄ときたら、女性に殆ど興味を示さないんですよ」

 ディアルが呆れながら答える。


「マ、マジで? 女嫌いとかじゃなくて?」

「はい。あの兄は女性を楽しませる事はしますが、言い寄って来る人は丁重にお断りするし、今まで誰かと付き合った形跡もないから、デートすらした事ないですよ」


「おい待て、俺はデートくらいした事あるぞ」

 

 いつの間にかイシャナがしかめっ面になって、そこに立っていた。


「えええ!? だ、誰と!?」

 ディアルが驚き叫ぶと


「イズナと。まあ夢の町でイーセからちょっと借りて、一緒に屋台を見て回っただけだがな」


「自分が誘ったのなら気づいとらんだけで惹かれてるんだよ! だからもうイズナさんを嫁にしろ!」

 ディアルは何か強引な事を言い放った。


「あのなあ。でも、そう言われるとなあ」

 イシャナがううむ、と考え込む。


「ほう、なら俺を倒してからにしろ」

 イーセとイズナがいつの間にかそこにいた。


 イズナは顔を真っ赤にしていて、イーセは剣を抜いていた。


「待て、俺はイズナを嫁にするとは言ってない」

「うちの妹では不満か? 真面目な話、お前ならいいと思ったが」

 イーセが剣を収めながら言うと


「……今は分からん。保留にしてくれ」

 イシャナはイーセを見つめながら言った。

 

「ああ。だがどっちにしても早く言ってくれ。でないとイズナが嫁ぎ遅れてしまう」

「わかったよ」


「ねえイズナ、いいの?」

「ふふふ、あれして、こうして」

 キリカが尋ねるが、イズナはそれに答えず、何かブツブツ言っていた。

「ダメだこりゃ」



「ねえ、ところでイーセさんは?」

 タケルが尋ねると

「そうだな。己で言うのもなんだが、言い寄ってくる女性はたくさんいた。だがなあ」

 イーセは首を横に振った。

「それじゃあさ、好きな人もいなかったの?」

「……好きとは違うが、気になる人ならいた」

「え、まさかユイとか? だって気になってたんでしょ?」

 タケルが後ずさって言うと

「違うわ! まあその人はたとえ俺がその気になっていたとしても、無理だっただろうな」

「そんなの分からないと思うけどなあ。で、誰? 俺達も知ってる人?」

「ああ。だが言うのは勘弁してくれ、な」

 イーセが悲しそうに言うので、タケルはそれ以上追求しなかった。



「あの時の彼女、本当に美しかったな。まさに天使の笑顔だった」

 イーセは小声で呟いた。

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