終章・その5(最終話)

 イシャナは王城が完成したと同時に新たな国を建国した。

 その国名は、自身がツーネから授かった槍の名「ルーファス」とした。

 ルーファス王国は槍騎士団を主力部隊とした国として、後世まで続く事になる。

 それと建国から数年後、イシャナはやっと妃を娶った。

 その女性は、親友の妹であった。


 その後ルーファス王国は長きに渡って平和であったが、ある時、北部を治めていた大公が反乱を起こした際に南北に分かれ、百年以上もの間争い続けた。

 実はそれは邪教集団の陰謀でもあったが、時の王子がそれを収め、再び統一された王国の王となった。

 そしてルーファス王国は、元通り以上の大国家として栄えていった。


 イシャナの弟ディアルはルーファス王国の宰相兼大公爵として、国の発展に力を尽くした。

 ただ兄王の陰に徹しすぎたせいか、後世では最終決戦時に死亡したと伝わっていた。

 それが訂正されたのは彼の没後、約三千年経ってからであった。

 


 イーセは中央部にやはり自身の剣の名を冠した「ティルフィング王国」を建国した。

 彼もまた国の発展に力を尽くすと同時に、またいつ何かが起こっても神剣士と共にあり、その剣となり盾とならんと生涯剣の修業を怠らず、また後進の指導にも力を注いだ。


 その際に見どころのある一人の少年がいたそうで、イーセは少年に自身の奥義を全て授けたと伝わる。

 だが、彼がその後どうなったのかは記録に残っていない。

 一説には少年は異世界から来た者で、元の世界へ帰っていったとか。

 

 それとイーセの妻の名は何故か後世に伝わっておらず、どんな女性だったかも分からなかった。

 後世の研究者達は、王妃にあまりにも不都合な事があったので記録から抹消されたのではとか、色々好き勝手に述べていた。

 だが、ひょんな事から王妃の名と人物像が知られると、国内だけでなく世界中が仰天した。

 それを天から見ていたイーセは、おそらく高笑いしていたのではないだろうか。


 イズナは兄イーセを助け、陰に徹した。

 やがて、兄の親友の元へと嫁いだ。

 そこでは夫となった男性を助け、やはり陰に徹した。

 そのせいで彼女の功績は殆ど後世に伝わっていなかったが、やはりひょんな事から彼女の功績が知られ、更に後世へと伝わっていった。



 ソウリュウは故郷に戻り、狩りをしながら、妻となったアイリスと共に地方の復興支援をしていった。

 妻とは仲睦まじく、たくさんの子宝に恵まれ、幸せな一生であったとか。


 そして時は流れ、ソウリュウの没後、その孫が新たな国を建国した。

 だが彼は祖父を初代王とし、自身は三代目国王を名乗った。

 それは彼自身だけでなく、多くの人々が望んだ事でもあった。

 その国の名はソウリュウが持っていた弓の名「ウイリアム」であった。


 ただ、一部の者はソウリュウを「ロリコン神」として崇めているそうだが。



 ダンはその後苦労に苦労を重ね、領地を元通り以上の緑豊かな場所へと発展させた。

 そして人々に請われ、そこを新たな国として、王となった。

 彼は国名を「ズィーベン」とした。

 それは国内に流れる七つの川から取ったものだった。


 なお、ズィーベンには「世界樹」が存在していたとの説もあるが、そんな形跡は国内の何処にもない。

 ただの伝説なのだろうか、それとも……?

 


 マオは故郷の領主となって領地を発展させた。

 その傍ら、領内を周っては人々の病気や怪我を治していた。

 そして人々に請われ、故郷の名から「カピラ王国」を建国した。

 それと同時にナナと結ばれた。


 マオは城を築く際、偶然見つけた不思議な台座を隠すように建てた。

 それが何であるかは、子孫も知らなかったが……。


 ナナは故郷で両親と数年間暮らした後、マオの元へと嫁いだ。

 かつては子供っぽかった彼女も、その頃には誰もが振り向く美しい大人の女性、まさに「魔法聖女」となっていた。

 

 そして時は流れ、マオとナナの間には二人の男子が生まれていた。

 長男は父の後を継いで国を更に発展させていった。

 次男は母の故郷に新たな国「コーラン王国」を建国し、母を王家の祖とした。

 国名の由来は後世に伝わっていなかったが、ひょんな事でそれが分かった。

 その由来を聞いた者達は皆、仰天したとか。


 マアサはマオを手伝って領地を発展させた後、夫と共にその故郷がある南方大陸へと旅立っていった。

 そこでマアサ達は、奉仕活動に精を出し、また病人や親を亡くした幼い子供達の面倒を見続けた。


 やがてマアサ達が住む地方の領主が南方大陸を統一し、新国家「ミノア王国」を建国した。

 その際にマアサ達の娘が恋人でもある王子となった青年と結ばれた。


 そしてマアサ達は王国の大神官となり、その息子が後を継いで以降、一族は延々と続いていった。



 アキナはカーシュと共に故郷に戻り、そこで結ばれた。

 彼女は宣言通り農学を学び、後に農学者として「皆がお腹いっぱい食べられるように」と人々の為に働き、その傍らで武術の指導もしていった。

 後世で彼女は「拳王」と呼ばれているが、一部の者は「五穀豊穣の女神」として彼女を崇めている。

 

 カーシュも学者として、防災の技術を伝えていき、人々の為に尽くした。

 そして妻と同じように、彼の事を「防災の神」として崇めている者もいる。

 


 ユイは結局故郷である北の大陸西部、賢者一族の里へ戻り、そこで静かに暮らしていたがやはり人々に請われ、新国家「シルフィード王国」を建国して女王となった。

 だが彼女は「自分はもう長くないので、あくまで飾り」だと言い、全てを摂政に委任した。

 その摂政となった男性は、彼女の幼馴染でもあった。


 その後彼女は誰と結ばれたのか長女を産んでからは寝込みがちになって衰弱していき、そして二十六年の短い生涯を終えた。

 摂政はその長女を大事に育て、自身は生涯独身のままこの世を去ったと伝わっている。

 彼の心の内は誰にも分からないが、もしかするとユイを……?



 タケルは姉のイヨ、両親と共に東の島へと帰った。

 祖父オウスはやはり、とイヨを抱きしめ、むせび泣いた。

 

 イヨはその後、弟タケルを陰ながら助け、両親や祖父と暮らしていたが

 やがて「嫁に行く」と言い、旅立っていった。

 

 守護神セイショウの力で、ミッチーの待つ異世界へと。


 ただ、後世では最終決戦時に死亡したとも伝わっている。

 それはイヨがその後、表舞台に出ていなかったからだろう。

 


 タケルは東の島に新国家「大和国」を建国した。

 その名は「大いなる平和、大いなる人の和」という思いを込めたものであった。

 それと同時にキリカと結ばれ、後に六人の子供ができた。

 長男が王家を継ぎ、他の子供達は王家を補佐する「五公家ごこうけ」を興した。


 タケルはキリカを迎えに行った際、セイショウと一戦交えたそうだが、勝負の内容や結果は後世に伝わっていない。

 それを知るのは当人達だけである。


 キリカは夫タケルを助け、王妃として宰相として国の発展に尽くした。

 その合間に兄の元を訪ね、のろけ話をしていたそうな。


 そして、二人は八十年の人生を終え、同じ日に仲良く天へ昇って行った。



 

 ……数十年後。


「ふう、皆いなくなりましたね」

 セイショウは自室で寂しそうにため息をついていた。


「何を言っとるのじゃ? 皆あっちにおるじゃろが」

 丁度セイショウを訪ねて来ていたヴィクトリカが、天井を指さしながら言う。


「分かってますよ。ですがそれなら、会いに来て欲しいんですけどねえ」

「今は修業中で下界には降りれんじゃろうが」

「そうでしたね。しかしユイさんだけは、何処にもいませんね」

「うむ、あの忌まわしき病にかかったものは皆そうじゃ。だが、いずれ見つかるはずじゃ」

「ああ、以前仰っていた未来のユイさんがいるなら、そうですよね」

「そうじゃ。それとこうも言うておった。彼女がいる未来には、お前の両親もいると」

「え? 母上様はともかく、父上様はどうやって?」

「そこまでは言ってくれなかった。おそらく知れば、歴史が大幅に狂ってしまうからじゃろうな」

「そうですか……でも、タバサ姉様だけでなく、父上様も母上様も、いずれ会えるのなら、待ちますよ」

「ああ。それもこれも、あやつらがこの世に生きて、大業を成し得たおかげじゃな」


「はい。この世の闇を祓うは神ではなく、人々の心だと伝えてくれました。それがずっと続くよう、見守りますよ」


---


 そして、遥かな過去での事。


 彼、セイショウの父は今まさに消えようとしていた。




” ねえ……どうして? ”


” 僕は皆を、愛する家族を守りたかっただけなのに ”


” そして皆と一緒にずっと暮らしたかっただけなのに ”


” 何であいつらは、自分の理屈で、勝手に僕を消すんだよ…… ”


” ……ああ、もう意識が薄れていくよ ”


 その時、彼は消えていく手で、何かに触れた。


” え? ” 

 

- にいさま -

- …… -


「あ、あれ?」

 彼の消えかかった体が、再び見えるようになった。

 だが


「子供に戻ってる?」


 彼はそれまでの青年の姿ではなく、黒い服を着た少年の姿になっていた。


「いったい何が? あ、これって何?」


 彼はあの神殺しの槍を握っていた。


「なんだろ? これを見ていると、妹と友達を思いだ……って、それ誰だっけ?」

 どうやら彼は、蘇った際に大半の記憶を失ったようだ。


 そして彼は、手にした槍をじっと見つめた後


「誰だか知らないけど、ありがとうね」

 涙ぐんでそう言ったが


「さ~てと、これからどうしようかな~、とりあえずどっか行くか~、キャハハハハハ」

 一転して無邪気に笑い、そのまま何処かへ飛び去っていった。


 そして彼は幾多の世界を見て回るが……


 それはまた、別の話。


---


 また時は変わり


「ふう。さてと、そろそろ行くか」

「ええ行きましょ。皆待ってるでしょうしね」


 タケルとキリカは手を繋ぎ、何処かへと歩いて行った。

 



 終

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