第119話「新たな世界が生まれ、闇は消えた」

 一方、元の世界では


「……何処を探しても見つかりませんでした」

 セイショウが項垂れながら言う。


「そうか。お前なら他の世界も見えるじゃろうが、手掛かり無しではのう」

 ヴィクトリカも暗い顔になって言う。


「あ、そうだ。マアサなら最高神様に聞けるんじゃねえのか?」

 アキナがマアサに尋ねるが


「実はもう聞いていたとね。でも、最高神様でも分からないって言うとったと」

 マアサは涙を流しながら言った。


「そんな。最高神様でもなら……」

 マオも膝をついて泣き出した。


 そして、皆が悲しみに沈みかけた時。


「あ、ねえ皆、あそこ見て~」

 ナナが上空を指さしながら言った。


「え、何……あ!?」

 

 そこには光り輝く球体が浮いていた。

 

 そしてそれが皆の前に降り立ち、光が消えると、そこには


「あ、あああっ!?」

 タケル、キリカ、ユイが立っていた。


「うわああん! 皆無事でよかった~!」

 アキナが泣きながら真っ先に走り出したのを見て、他の者達も後に続いた。



 そして

「こんのバカ弟がー! 心配したのよー!」

 イヨが泣きながら、タケルの顔を自分の胸に埋めた。

「う、嬉し、けど苦し」 

 タケルは窒息しかけていた。


「セイ兄ちゃん、ただいま」

 キリカが笑みを浮かべながら言うと、セイショウは無言のまま、キリカを力いっぱい抱きしめた。

「ええ!? ちょ、こんなとこじゃ……あ」

 見るとセイショウは、声を殺して泣いていた。

「今度は、本当に、ダメかと思った。キリカまでいなくなったら、俺は……う、く」

「セイ兄ちゃん……」

 キリカは兄がこれ程までに自分を愛してくれていた事を思い、涙した。



「ユイ、無事でよかった」

 こちらではイズナがユイを抱きしめながら言う。

「イズナ……ううん。イズナ姉様、でいい?」

 ユイも涙目になって言う。

「ええ。叔母様って言われるのは、ちょっとね」

「わかってる。イーセさんはイーセ兄様でいい?」

 ユイがイーセの方を向いて言うと

「そう呼ばれると姪というか、もう一人妹ができたような気分になるな、ははは」

 イーセが笑いながら答えた。


 そして、他の者達がタケル達に声をかけた後。


「ところで、タバサはどうしたのじゃ?」

 ヴィクトリカがタバサの名を出した途端、タケル達の顔が暗くなった。

 それを見た皆は、タバサは……と悟った。


「タケル、いずれ落ち着いたら教えてくれぬか。『妹』の最後を」

 ヴィクトリカは手で目を押さえながら言った。

「いや、よければ今言うけど」

「……頼むのじゃ」


 タケルは妖魔砲の中での事から、戻ってくるまでの事を全て話した。


「そうか。そしてタバサは、最後にお前達を、か」

 ヴィクトリカはもう、溢れる涙を拭おうともしなかった。


「うん。でもさ、死んだって決まった訳じゃないでしょ……そうだよね?」

 タケルはすがる思いで尋ねるが


「いや、話を聞いた限りでは、もう絶望的じゃ……ううう」

 ヴィクトリカはその場で膝をつき、地に顔をつけて更に泣き出した。


「ねえ、セイ兄ちゃんは混沌世界には行けないの?」

 キリカが尋ねるが

「行けなくはないが、今すぐは無理だ」

 セイショウは首を横に振って答えた。


 すると

「あの、向こうに行けないにしても、様子を見る事は出来ませんか?」

 ユイがそんな事を言った。


「え? ねえユイ。何故そんな事を?」

「そうだぜ。もしまだだったとしても、何も出来ず見てるだけだろ。それじゃあ」

 イズナとアキナが不安気に言うと


「いや。あたしは見たい。たとえどうなろうとも」

 イヨは肩を震わせ、拳を握りしめながら言った。


「では私が映し出しましょう。ヴィクトリカ様も、いいですか?」

 セイショウが尋ねるとヴィクトリカは顔を上げ、無言で頷いた。


 そしてセイショウが手を上にかざすと、上空に映像が浮かんだ。

 だが


「え?」

「あ、あれ?」


 映し出されたのは、大草原を走る猛獣達。

 緑多き森には、木に登る動物の影が見える。

 色とりどりの花が咲く場所では、蝶が舞っている。

 大空には、たくさんの鳥が飛び

 青く澄み渡った海には、多くの魚が泳いでいた。 




「セイ兄ちゃん、違う世界を映してどうするのよ!」

 キリカが兄に向かって怒鳴るが

「い、いや、たしかに混沌世界を映し出したはずだが?」

 セイショウは首を傾げる。


「でも、あんな綺麗な所じゃなかったわよ!」

「ああ。なんつーか、ゴツゴツして紫で、生き物なんていなかったよな」

 キリカとタケルが続けて言うと


「いや、あそこは間違いなく混沌世界じゃろう」

 ヴィクトリカが映像を見ながら言った。


「え、あれ全然違いますよ!」

 タケルが驚きながら尋ねると


「さっきタケルが言った現象は新たな世界が出来るか、世界が変化する時の現象そのものじゃった。だが、ただ変化しただけでああはならん。おそらく取り込まれたタバサが偶然にも世界の核そのものか一部となったから、あのような世界になったのやもしれん」


「世界の核になったって、それだとタバサ様はどうなるの!?」

 イヨが涙目で尋ねると


「タバサの意識は無くなり、その魂はあの世界と同化してしまうのじゃ」

 ヴィクトリカは首を横に振りながら答えた。


「そんな! ね、ねえ、今すぐ助けだせないの!?」

 イヨがヴィクトリカに詰め寄るが


「そ、そうしたいが、世界が安定する前にタバサを救い出したら、あの世界が滅んでしまうのじゃ。だから安定するまでは手出しできぬ」

「そんな……でも、今無理に助けてあそこにいる生物を犠牲にする事を、タバサ様が許すはずない。だから待つしか無いのね」

 イヨは涙を拭いながら言った。

 

「あの、世界が安定するのって、どのくらいかかるの?」

 タケルが尋ねると


「いつになるか分からぬ。早ければ百年位じゃが、場合によっては数千年先かもしれぬ」

 ヴィクトリカはまた首を横に振った。


「じゃあ、もし早くても俺達の殆どは、もう二度とタバサに会えない?」

「そうじゃな。人間は例外もおるが、百年生きられればいい方じゃからのう」

「そっか……でも、ヴィクトリカ様やセイショウさんは死なないんだし、また会えますよね?」


「いや、我々とて不死の存在ではないのじゃぞ」

 ヴィクトリカは苦笑いしながら答えた。

 

「え、神様や精霊でも死んじゃったりするの?」

「うむ。ただ人間や魔族が想像もつかんくらいの時を過ごせるだけじゃ。だからもし再びあの子と会えた時は、お前達のその後の事をたくさん話してやるのじゃ」


「……うん。お願いします」

「タバサ様に、あたし達の事を」

 タケルとイヨが頭を下げた。


「うむ、わかったのじゃ。それよりタケル、お前もさっさと両親と再会するのじゃ。二人共さっきは友人達に遠慮したのか、声をかけなかったのじゃからな」

「え? ……あ」

 ヴィクトリカが指差す方を見ると

 

「タケル、大きくなったな」

「本当に。あんな小さかった子が、うう」

 タケルの両親、ケンとマリがそこにいた。


 その後、タケルは両親と抱き合い、涙した。



「見て下さい。もう空を覆う黒い霧は完全に無くなりました。これで終わりましたね」

 セイショウが空を見上げながら言う。


 彼の目線の先には、大空が青く広がっていた。


「そうじゃな。さて、私達の力も完全に戻ってきたし、皆をそれぞれの場所に帰してやろうかのう」

 ヴィクトリカが腕を回しながら言うと


「守護神様、精霊女王様。その前にもしよければ、我が国で祝いの宴をしたいのですが。そしてその席で、世界を救った神剣士一行をたくさんの者達に見せたいのです」

 イシャナがそんな提案をした。


「セイショウ、どうじゃ?」

「遠慮無く。ですが皆さんは?」

 セイショウが尋ねると、タケルや他の皆は歓声を上げて同意した。


「決まりですね。では皆さん、ワープしますのでじっとして下さいね」

 

 そして一同は、セイショウの転移術でタイタン王国へと飛んだ。

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