第116話「何故かそこにいた蒼き少女」

「え、この声って、まさか」

 タケルが振り返ると、そこにいたのは

 

 水色の長い髪、それと同じ色の目、色白の肌。

 裾の短い白のローブに蒼いマントを着ている少女。


「ほ、本当に」

 

「うん。わたしよ」

 それは、故郷に帰ったはずのユイだった。 


「皆の事はセイショウさんから貰った遠見の鏡で見ていたの。本当に無事でよかった」

 そう言った後、ユイはホッと胸を撫で下ろした。


「あ、そうだったのか。じゃあこれ、いらなかったかな?」

 タケルは懐から赤い石を取り出した。

 それは以前雪山で手に入れた魔法石だった。

 

「これならより鮮明に記録出来るはずだって、マオから聞いたからな」

「全部見えた訳じゃないから、後でそれ使わせて」

 ユイは微笑みながらそう言った。


「わかった。ってそれより」

「そうよ、何故あなたがここにいるの?」

 キリカが尋ねると


「実はね、わたしにも分からないの」

 ユイは首を傾げる。

「へ?」

「あの黒い光が消えた後、急に気が遠くなっちゃって、気がついたらここにいたの」


「そうだったのかよ。いったい何が起こったんだ?」

「うーん、何かの拍子で時空に穴が開いて、そこに落ちてここに来たって訳でもなさそうね」


「ねえ、それより急ごうよ。わたしが転移術使うから」

 ユイが二人を促す。


「あ、ああ。だけどユイ、本当に体は大丈夫なのか?」

 タケルが心配して尋ねるが

「うん。ここに来てから何故か調子がいいの」

 ユイは肩を回しながら笑顔で答えた。


「たしかにそうみたい。というか、あれ?」

 キリカはユイに違和感を覚えた。


「ん、どうしたの?」

 ユイが首を傾げると

「え? 何でもないわ(そうよ、気のせいよね)」

 キリカは慌てて手を振って答えた。


「じゃあ、早く行こ」

「ええ。お願いね」

「ああ」

 ユイが二人の手を握った途端、その場から三人の姿が消えた。



「おーい。あらかた見ていたのなら俺達にも話しかけてから行ってくれ、我が姪よー」

 イーセが軽い口調で苦笑いしながら言う。

「兄さん、後でゆっくり話せばいいでしょ」

 イズナも苦笑いしながら言った。

「それもそうだな。しかしユイちゃん、何か急に大人っぽくなったな」

「え? 気づかなかったけど、そうだった?」

「ああ。見た目は変わっていないが、雰囲気がな」


「えーん、親友のあたいにも何もなしなんて、酷いよー」

 アキナは嬉しそうに分かりやすい嘘泣きをした。



「しかしユイがどうやってここに来たか、さっぱり分からん」

「ええ。私達ですらユイさんの気配を感じませんでしたし」

 ヴィクトリカとセイショウが不思議そうに話していた。


「それに今、ユイは軽々と転移術を使っていたが未だ妖魔の気が残るこの地でそのような事、万全の私達でも困難じゃというのに」

「ヴィクトリカ様、謎解きは後にしましょう。とにかく今は」

「そうじゃな。頼んだぞタケル、キリカ、ユイ」

 ヴィクトリカとセイショウは妖魔砲の方を向き、頭を下げた。


――――――


 妖魔砲の中心部。

 そこではタバサが、直径二メートルはありそうな黒い球体、妖魔砲の核を見つめていた。


「この核を突けば、出来るわね」

 タバサがそう呟いた時


「させねえよ」

「え?」

 タバサはするはずのない声がした事に驚き、振り返ると


「え、あなた達、どうやってここへ来たのよ!?」

 

 そこにタケル、キリカ、ユイが立っていた。


「ん? ユイの転移術で来たんだよ」

 タケルが何でもないかのように言うが


「そんなバカな!? この辺りで転移術を使えるはずがないのに!」

 それを聞いたタバサが驚きの声をあげた。


「え、そうなの? ってそれよりもうやめろよ。最高神様を討って何になるんだよ?」

 タケルがそう言うと


「何か思い違いをしているようね。私はもう、あいつの事なんかどうでもいいのよ」

 タバサは顔をしかめて言った。


「え?」

「今の私の望みは、イヨを生き返らせる事ともう一つだけよ」

「い、生き返らせるって、そんな事出来るのか!」

 タケルが驚きながら尋ねる。


「ええ。妖魔砲はもう発動しないけど、この核にはまだエネルギーが残っているわ。それを使えばね」


「でもそれを使っちゃったら、あなたの体が耐え切れずに砕け散り、そして魂が生も死もない世界に落ち、半永久的に閉じ込められてしまうわ」

 ユイが小さな声で言うと


「な、何故知ってるのよ!? これは私しか知らないはずよ!」

 タバサがユイの言葉を聞いて、また驚き叫んだ。


「……あれ、そういえば何故?」

 ユイは自分がどうしてそれを知っていたのか、不思議でならなかった。


「そんな事聞いちゃ、絶対にさせられねえな」

「ええ。させないわよ」

 タケルとキリカが身構えると


「でも、これ以外に手は無いわよ。それにモタモタしていたらイヨの魂が昇天してしまう。それではもう、生き返らせる事が出来なくなっちゃうわ」

「だとしても、あんたが犠牲になったらねーちゃんが悲しむだろうが」

「イヨに気にしないで、って言っといて」

「無理言うな。それより本当に他に手は無いのかよ?」

「あるなら既にその手を使っているわよ」

「くっ……」

 タケルが言葉に詰まると


「一人で妖魔砲のエネルギーを使おうとするからダメなの。わたし達も手伝えば、誰も死ななくて済む」

 ユイがそんな事を言った。


「そうなのか? てか何でそんなに色々と知ってるんだ?」

「分からないの。何故かパッと頭に浮かぶの」

 ユイは頭を押さえながら言った。


「そんな事はいいわ。それより、たとえそうしたとしても危険よ。だから私が」

 そう言ってタバサが槍を構えた時


「えい!」

 ユイが手をかざした。すると


「え? な、何これ、あ」

 タバサは気を失って倒れた。


「な!?」

「な、何故そんな事が出来るのよ!?」

 タケルとキリカが驚きの声をあげると


「あれ? ……やっぱりわからない。それより、今のうちに」

 ユイは首を横に振りながら言った。


「あ、ああ。じゃあ」

 タケルはタバサが落とした神殺しの槍を握り


「なあ、俺達に協力してくれないか?」

 そう話しかけた。


 すると


” ええいいわよ。それとタバサを止めてくれた事と、いい手を教えてくれた事にお礼を言うわ ”

 その声はタケル達の脳裏に直接響いた。


「いいって。じゃあ、やるか」

「ええ!」

「うん!」

 

” ちょっと待って。皆で持ちやすいように長くなるわ ”  

 槍はそう言った後、五メートル程の長さになった。


「お、これならたしかに。しかし伸びる事もできたのか」

 タケルが槍を見上げながら言う。


” 伸びるだけでなく、太くなったり形を変えたり出来るわよ。さあ ”


 そしてタケル達は槍を握り


「せえーの、はあっ!」

 力いっぱい槍を突き出して、核に刺した。

 

 すると核はピキピキと音を立ててヒビ割れ、そこから溢れ出した眩い光が槍を照らした。


” これが核のエネルギーよ。一旦わたしが受け止めた後、皆に渡すわ。そしてイヨに向けて想いを ”


「ああ!」


 だが、槍からエネルギーが伝わってくると同時に、身を引き裂かれるような激痛が三人を襲った。


「ぐ、これ、妖魔砲の何倍もキツい!」

「え、ええ。ユイ、大丈夫?」

「う、うん。大丈夫」


 その後、激痛に耐えながら気を練るようにしていると


” 皆、今ならいけるわ! ”

 槍がそう言った。


「よーし! ねーちゃん、待ってろよ!」

「「「はあっ!」」」

 タケル、キリカ、ユイはイヨを思いながら槍をかかげ、気を一点に集中した。


 すると槍の先端に七色の光が現れ、それが壁を突き破って外に向かっていった。


――――――


「な、何だよあれ!?」

「虹? いや、まさか」

 アキナやカーシュ、他の皆がタケル達が放った七色の光を見て驚いていると、それは稲妻の如き早さでイヨに当たり、その体を包みこんだ。


 そして


「う、ん? あれ、あたし、何故」

 イヨが目を開け、寝たままで呟いた。


 そこにいたある者は驚きの声をあげ、またある者は思考が追いつかなくて何も言えず、またある者は「奇跡が起こった」と叫んだ。



「やはりタバサは、イヨを蘇らせようとしておったのじゃな」

「ええ。ですがあれはタバサが放ったものではないですね」

「うむ、あれはタケル達じゃな。だが、このまま何事も無く終わらんじゃろうな」

「ですが無事に帰ってくるでしょうね。と、その前に」

 セイショウがとある方を向くと


「そうじゃな、どうやらこちらも目覚めたようじゃ」

 ヴィクトリカも同じ方向を向き、とある男女二人を見つめながら言った。

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