第117話「親子の対面の後」

 そしてヴィクトリカはイヨを抱き起こし、生き返ったのはタケル達のおかげだと彼女に説明した。


「そうだったの。後で礼を言わないとね。あ、タケルは抱きしめた方が喜ぶかも」

 イヨが微笑みながら言うと

「そうしてやれ。さて、生き返ったばかりで悪いが、お前に会わせたい者がおるのじゃ」

「へ?」

「さ、こっちへ」


 ヴィクトリカが手招きすると、そこに戦士服を着た三十代位の女性がやって来た。

 顔立ちはイヨに似ている。

 いや、イヨがこの女性に似ていると言った方が正しいかもしれない。


「え? あ、まさか」

「そうじゃ。彼女がお前の母、マリじゃ」

「あたしの……」


「精霊女王様。この子が、私達の?」

 マリは戸惑いながらイヨを見つめていた。


「そうじゃ、お前達の娘、イヨじゃ」

 ヴィクトリカは頷きながら言った。


「え? ねえ、その名前は誰が名付けたの?」

 マリが戸惑いながらイヨに尋ねる。


「あたしの名前はタバサ様がつけたって聞いたけど」

「そう……もしかして、知っていたのかも」

「知っていたって、何?」


「あの時、生まれてくる子供が女の子だったら『イヨ』と名付けようと、夫と二人で話していたのよ。そしてその事は、私達しか知らないはず」

「え、じゃあタバサ様は」

「たぶん何かでその事を知り、あなたに私達が考えていた名前をつけた?」


「そうじゃろうな。目的を果たした後、娘をお前達に返そうと思っていたのかもな。だからお前達が考えた名を付けたのかもしれん」



「……妖魔王は私達から子供を奪い、お義母様の命を縮めた者。だからずっと恨んでいた。妖魔砲の中で精霊女王様から話を聞いても、納得出来なかった」

 マリが項垂れながら言う。


「あの、タバサ様は」

 イヨが何か言いかけると、マリは顔をあげ

「でもイヨを見ていると、あの人が悪人じゃなかった事は分かるわ」

「え?」

「あなたは優しい目をしている。優しい雰囲気を感じる。ええ、あなたをそんな子に育てた人が、悪人であるはずがないわよね」

 マリの言葉を聞いたイヨは、静かに頷いた。


 そして

「生まれて来なかったものと諦めていた。けど、こうして会えた」

 マリはそうっとイヨを抱きしめ

「イヨ……うう」

「お、かあさ、ん」

 二人共、色々な思いを抱きながら涙した。



「って、俺もいるんだがなあ。ま、後でゆっくりイヨを抱きしめるか」

 そう言ったのはタケルが二十年程歳を重ねたような容姿の男性。


「ケン殿。たいした助力も出来ず、申し訳ありませんでした」

 セイショウがその男性、ケンに声をかけ、頭を下げた。


「守護神様、それはお気になさらずに。あの時は妹さんの修行もあって忙しかったのでしょ?」

 どうやらケンはあらかたの事情を知っていたようだ。


「ええ。そしてその妹はあなたの息子さんが連れて行きました。まだ嫁にやる許可を出してないにも関わらずねえ」

 セイショウがドス黒いオーラを放ちながら言う。


「え? そ、それは申し訳ありません! 後で息子を連れてご挨拶に!」

 ケンは土下座する勢いで謝罪した。


「ふふ、冗談ですよ。あの子が選んだのなら……ふう」

 セイショウは寂しそうにため息をついた。


「さて、後はタケル達が戻ってくるのを待つだけじゃな、ん?」

 ヴィクトリカが何かの気配に気づいた。


「どうしまし、え」

 セイショウも何かに気づいた時

 

 大地が大きく揺れ出した。


「こ、これはまさか!?」

 セイショウは妖魔砲の方を向いて叫んだ。


――――――


 時は少し遡る


” 成功よ。イヨは生き返ったわ ”


「よっしゃあ!」

「やったわね!」

「うん、よかった」

 槍の言葉を聞いたタケル達は、手を取り合って喜んだ。


 そして

「よっし、じゃあ皆のとこへ戻ろうか」

 タケルがキリカとユイに言うと


「待って。タバサはもう一つ何かしたかったようだけど?」

 キリカはまだ気を失っているタバサを指さしながら言う。


「そうだった。ねえ、あなたは知ってる?」

 ユイが槍に話しかける。


” 知ってるけど、今のあなた達がそれをするのは危険よ。だからまたの機会にしましょ ”

 槍はそう答えた。

 

 あの光を出した為、三人の体はもう限界に近くなっていた。


「そうか。まあ、おおよその見当はついてるけどな」

 タケルがタバサを見つめながら言った。


「そうよね。さて、私達がタバサを担ぐから、タケルは槍を持ってね」

 キリカがそう言うと

「いや、タバサは重そうだから、俺が」


「誰が重いって~?」

 急にタバサが起き上がり、タケルを睨みつけた。


「うわあっ! い、いや、槍よりはって意味だよ!」

「それは分かるけど、それでも重そうなんて言われると腹が立つわ!」


「ね、ねえ。怒るのは戻ってからにしよ」

 ユイがタバサを取りなすと


「戻る、ね。いいえ、私は」

 タバサが何か言い淀んだ時



 辺りが大きく揺れ出した。



「え、何これ!?」

「地震!?」

 キリカとユイが辺りを見渡しながら叫ぶと


” 違うわよ、核に残っていたエネルギーが暴走し始めているのよ! ”

 槍が皆に向かって叫んだ。


「え、じゃあ早く逃げましょ!」

 キリカがそう言うが


「いえ、私達は残るわ」

 タバサが首を横に振って答えた。


「何言ってんだよ! 早くしねえとここが崩れて、ぺしゃんこになるだろが!」

 タケルがそう叫ぶと


” あのね、このエネルギーは想像以上に強力よ。放っておいたらこの辺り、いえ西方大陸が吹き飛ぶ程になるかもしれないわ! ”

「だから私達がこれを防ぐわ。あなた達は外の皆を出来るだけ遠くに避難させて」

 槍とタバサが続けて言った。


「いや、それは俺が抑えこんでやる!」

「それを言うなら俺達が、でしょ。ユイ、タバサ達と先に戻って」

 キリカが当然の如く言うと


「ううん。わたしも残る。てか二人っきりになんてさせてたまるか」

 ユイがキリカを睨みながら言った。


「え? あなた、もうタケルの事は諦めたんじゃなかったの?」

「うん、タケルの奥さんになるのは諦めた。わたしは愛人になる」

「愛人なんか認めるかー!」

「是が非でも認めてもら……ううん、その話は後にしよ」

「え、ええ。じゃあ三人で抑えましょ」


「いいえ、全員でよ」

 タバサが三人を見渡して、そう言った。


「え、でも」

「あなた達も引かないなら、その方が確実でしょ」

「けど、この異変を皆に知らせないと」

「外も揺れているでしょうし、セイショウやリカ姉様ならこれに感づくでしょうから、大丈夫だと思うわ」

「そ、そうか。うん、わかった」



「じゃあタケル、中心はあなたにお願いするわ」

 タバサはタケルに微笑みかけた。

「ああ!」

 タケルは剣を抜き、それを高く掲げた。


「キリカ、ユイ」

 タバサが二人に声をかけると


「わかってるわよ。はあっ!」

「破邪聖光!」

 二人共最後の力を振り絞り、それをタケルの剣を目掛けて放った。


「私達もやるわよ」

” ええ。そして皆で帰ろうね ”


「……ええ。はあっ!」

 タバサと槍も、あらん限りの力を放った。


 するとタケルの剣が輝き出した。


「それで核を斬って! そうすれば暴走は止まるはずよ!」

 タバサがタケルに向かって叫んだ。


「よーし、はあっ!」

 それを聞いたタケルが気合を入れると、剣だけでなく、体全体が白く光り輝いた。

 そして

 

「そりゃあああ!」

 タケルが勢い良く剣を振り下ろし、剣先が核に触れた時


 大爆音と共に、辺り一面が真っ白になった。


――――――


 一方外では、セイショウ達はタバサの予想通り、離れた場所に避難していた。

 

 だが、突如爆音と共に木っ端微塵になった妖魔砲を見つめ、誰もが呆然としていた。


「な、なあ。皆は大丈夫だよな?」

 アキナが涙目になり、誰にともなく尋ねる。


「ぐぬぬ。セイショウ、どうじゃ?」

 ヴィクトリカは自分が見えた事が信じられない、と思って尋ねるが

「……うう」

 セイショウはその場に崩れ落ち、涙を流した。


「あ、あたしが生き返ったって、タバサ様やあんた達が死んだら意味ないだろ。ウ、ウワアアアアー!」

 イヨが妖魔砲があった方に向かって泣き叫んだ。

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