第114話「それぞれの想い」

「あ、あなた達、何してるのよ! 早くそこから離れなさい!」


 タバサが二人に向かって叫ぶ。


「そうよ! いくら何でもそれは無理よ!」

「早く逃げて!」

 イヨとミッチーも同じく二人に向かって叫んだ。


 だが、二人はその場から引く事をせず、妖魔砲の黒い光を抑え続けた。


――――――


「な、なんて事をしやがるんだ!」

「あいつら死ぬ気か!?」

 イシャナとソウリュウが映像を見ながら叫び

「あ、あんな事するより妖魔砲を破壊すればよかったのに!」

 イズナが涙目になって叫ぶと

「いや、それだと俺達が危ないと思ったのかもな」

 イーセが項垂れながら言った。

「な、なあ。どうにか出来ねえのかよ?」

 アキナも涙目になって言うが

「普段ならともかく、今は……ぐ」

 セイショウは拳を握りしめ、歯切りしていた。


 すると

「いや、あの二人なら防げるかもしれんぞ」

「え!?」

 皆が一斉にヴィクトリカの方を見た。


「あの光はまさに心力。あれならば」


――――――


「ぐ、きっつ」

「そりゃそうよ。天界を消せる程だもの」

「そうだった。じゃあこれを防ぎきれるなら、時空に穴を開けるくらい出来るかもな」

「ええ、出来るわよ。それでセイ兄ちゃんのお父さんを助け出すわ」

「キリカにとって、でもいいのかな?」

「そうね、お父さんってどんな人かな~」

「セイショウさんのお父さんだからイケメン、いや今はダンディかも?」

「セイ兄ちゃんはお母さん似らしいわよ」

「ありゃ、そうなのか。じゃあお母さんは美人なんだな」

 そう言ってタケルがニヤけ顔になると


「むう、早速浮気?」

 キリカはふくれっ面になった。


「あのなあ、そんな事」

「ユイが相手だったら?」

「うっ」

 タケルが口篭る。


「って、そんな会話がもっと出来るよう、頑張りましょ」

「あ、ああ」


 二人が互いを見て頷いたその時。



- タケル! キリカ! 無茶しないで引きなさい! -


 アマテラスが声を荒げ、二人にテレパシーを送った。


「いいえ。俺達はタバサもだけど、失礼ながら最高神様も守りたいんです」

 タケルが顔を上げて言った。


- 何故? 私は何もしてあげられなかったのに -


「何もって事はないでしょ。セフィトス師匠に頼んで俺達が強くなるようにしてくれたじゃないですか」


- でもそれは結局のところ、私達の都合 -


「でも、今はそんな事考えていないでしょ?」


- え? -


「もしもですが、俺達がタバサの考えに同意して一緒に最高神様を討ちにいったとしても、抵抗しないつもりだったんじゃないですか?」


- ……そうよ。あなた達が向かって来るなら、討たれても構わないと -


「でも、そうするとヴィクトリカ様や分神精霊様達や天使達、それにセイショウさんが悲しみますよね」


- ヴィクトリカ達はともかく、セイショウはどうかしらね? 私はあの子から両親を奪ったのだから -


「たしかに兄は、一時はアマテラス様をお恨みしていたと思います。でも今はもう分かっていますよ」

 キリカがそう言うと


- ……そうかしら? -


「納得いかないのでしたら、全部終わった後でゆっくりお話されてはどうですか?」


- 終わった後で、ね。あなた達は本当に皆救うつもりなのね -


「ええ、だから待ってて下さい」

「俺達が終わらせますから……はあっ!」


 タケルとキリカの体が更に光輝いた。




「え、まさか、押し返している?」

 イヨが言ったとおり、黒い光はタケル達の光に押されていた。

「もしかすると……よーし、やっちゃえー!」

 ミッチーは心の底からタケルとキリカを応援し始めた。



「う、う」


 タバサは思った。

 このままでは本当にタケル達が黒い光を消してしまう。

 それを防ぐには、彼等を討つしかない。

 だが、二人を殺したくもない。


 その時


” ねえ、あいつらはわたしが討つわ。だからまた代わって ”


 もう一人のタバサ、いや……が彼女に話しかけた。


「ううん、やるなら私がやるわ」


” ダメよ。そんな事をしたら、あなたの心が壊れるわ ”


「心配してくれてありがとう。でも、いつまでもあなたに頼る訳にはいかないわ」


” それは気にしないで。わたしはあなたを脅かすものを貫く槍になりたいの ”


「あなたは元から槍でしょ」


” あ、そうだったわ。わたしは「神殺しの槍」だったわ ”


「ふふふ、もう」


” ねえ、どうしてもやるの? ”


「ええ」


” わかったわ。でも、全部終わった後で死なないでね ”


「……行くわよ」


 タバサはそれに答えず、タケル達のいる上空へ飛んだ。




「あれ、下から何か飛んでく……あっ!?」

 タケルが下を見ると、タバサが二人に向かって飛んでいた。

 

「そうだったわ。タバサが妨害してくる事なんて予想できたはずなのに」

 キリカも下を見つめて言う。

「いや、最後まで信じよう。タバサを」



 そして、タバサが二人の側に着くと、

「最後通告よ。そこから離れなさい」

 二人を睨みながら言った。


「やだよ。俺達はあんたもアマテラス様も、皆を助けるんだからさ」

 タケルはタバサを見つめながら言った。


「何故、そこまでするの?」

 タバサが訝しげに言うと、


「それは……いや、理由なんて色々言えるけど結局のところ、俺達がそうしたいからだよ」

 タケルがそう答えた。


「そうしたいから、ね。うん、変に飾った言葉だったら、迷わなかったのに」

 タバサが俯きがちになると


 ” ねえ、やっぱりわたしがやるわ ”

 彼女が、槍がタバサに話しかけた。


「いいのよ……タケル、キリカ。覚悟はいい?」

 タバサが槍を構えた。



「くそ、黒い光を抑えながらじゃ、防げねえよな」

「ええ。でも、タケルだけは殺させないわよ!」

 キリカがタケルを庇うように移動した。


「キリカ!?」

 タケルの脳裏にはあの時、キリカが一度命を落とした時の光景が浮かんだ。


「心配しなくても、二人纏めて貫いてあげる」


 そう言ったタバサだったが、やはりまだ迷っているようで、槍を突き出さずにいた。


「ぐ……」

 

 ” わかるわよ。本当言うとね、わたしもあの二人は殺したくないわ ” 


「え、何故?」


” だってあの子達からも、あなたと同じ暖かさを感じるもの。でもわたしが一番大切なのはあなた。だから汚れても構わないわ ”


 それを聞いたタバサは


「……ありがとう。でもね、貫くのはあなただけど、やるのは私だからね」


” うん ”


「タケル、キリカ……ごめんなさい!」


 タバサが勢い良く二人目掛けて、槍を突き出した。



「キリカ、そこどけ!」

「嫌よ!」



 ドスッ!

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