第113話「どうするか決めた」

 その後、誰も口を開かないまま時が過ぎたが、やがてタバサが皆に向かって言った。

「もう妖魔砲が発動するわ。下がってなさい」


 見ると光の渦は消え、妖魔砲の先端に強大なエネルギーが集まっていた。


「あれが放たれたら最後、標的を消すまで止まらないわ」

 タバサが妖魔砲を見つめながらそう言った。



「なあ、もし天界と最高神様を消したとして、その後あんたはどうするんだよ?」

 タケルが尋ねると


「兄様を救う手段を考えるわ。たとえ何年かかってでも、必ず」

 タバサは振り向きもせずに答えた。


「え? あ、あのさ、もう一回妖魔砲にエネルギーを集めて使わないの?」


「無理よ。あれはおそらくこの一発で壊れるから」

「それならお兄さんを助ける方に使えよ!」


「仮にそうしたとしても、あいつがいる限り、兄様がまた狙われるかもしれない。いえ、兄様自身があいつに向かっていくかもしれないわ」

 そう言った後、首を横に振り

「って、ダメね。やっぱり私はあの人の事を一番に考えてしまうわ」

 ため息をついて項垂れた。


「それでもいいじゃんか。タバサってさ」

 タケルがタバサの胸の内を言いかけた時


「私の気持ちがわかるなら、ユイの気持ちにも気づいてあげなさい!」

 タバサは彼を睨み、キツく叱るように言った。


「え、え? そうなの?」

 そう言ってキリカやイヨ達の方を向くと


「ええそうよ。あんただけわかってなかったのよ。もう」

 キリカが呆れながら答え

「ホントよ。このバカ弟はどんだけ鈍いんだい?」

 イヨも呆れながら言い

「いや、姉弟揃って鈍いと思うけど」

 ミッチーも呆れながら言うと


「とっくに気づいてるわよ。夢の町でああだったんだからさ」

 イヨがあさっての方向を見ながら言う。

「……え?」

「でもね、今は気持ちが追いつかないわ。だから返事は保留でいいかい?」

 だがミッチーは何も言わなかった。


「……あら?」

 見るとミッチーはよほど嬉しかったのか、顔を真っ赤にして気を失っていた。


「ふふふ。今後どうなるかは分からないけど、皆頑張ってね」

 タバサが優しい笑顔で、皆に向かってそう言った。


 それを見たタケルは、また何も言えなくなった。

 

 やがて

「なあ、キリカ」

 タケルがキリカの方を向き、声をかける。

「え、何?」

「俺達、何の為に戦ってたんだっけ?」

「何の為って」

「いや、最初は世界を覆う闇を祓う為だった。今はそれと、タバサを止める為でもあったけど……妖魔砲を撃てば闇は消えるって言うし、それに」

「止める事を躊躇っているのね」

「うん。キリカはどうなんだ?」

「私もよ」

「そうか。俺思うんだけど、タバサはたぶん遠い昔からずっと変わってないんだよな」

「ええ。あの人は出会った人達の心を、ニムロッドさんも『彼女』も救えるくらい優しく暖かい心をずっと持ち続けている。そしてユイの事を我が事のように思っているのも、わかるわ」

「ああ。そんな人がこれ程まで……もう、どうすればいいか分からなくなったよ」

「こんな事言っちゃダメでしょうけど、タバサが大悪人だったら躊躇わなかったのに」

 そう言った後、二人はまた口を閉ざした。



「ねえイヨ、どうする?」

 気がついたミッチーが尋ねると

「あたしも分からない。タバサ様の邪魔をしたくないけど、本当にこれでいいの?」

 イヨも答えられなかった。



 そして、妖魔砲が発射されるであろう時 

「……え?」

 キリカが空を見上げながら呟いた。


「ん、どうした?」

「今、聞こえたの」

「何が?」

「それはね」


- タケル、あなたにも聞こえるように話すわ -


「え、この声ってまさか」

「ええ。最高神アマテラス様よ」


- そうよ、私はアマテラス。はじめまして、タケル -


「は、はい。あの、何で俺にも神託を?」


- それはね、最後に聞いて欲しかったからよ。私がこれからする事を -


「これからする事? それに最後って?」


- 私は天界付近で妖魔砲を押さえる事にしたの。でも、かつての妖魔砲とてスサノオが阻止しなければ、天界が消えていた程だったわ。そして今度はそれ以上の威力。私でも押さえられるかどうか分からないの -


「え、じゃあ逃げた方が」


ー 天界の者達は避難させたけど、私は逃げないわ -


「何故ですか!?」


- だってこれはタバサを、いえ多くの人々を苦しめてしまった、私の罪だもの ー


「え? だ、だからあえて妖魔砲を受け止めるんですか?」


- ええ。もし押さえきれないなら、それが私の運命よ -


「そ、そんなのって」


- いいのよ。それよりタケル、キリカ。今までお疲れ様でした。後は私が……そうだわ。もし私が消えても世界に影響は無いから、安心してね -


「あ、あの」


- じゃあ、これで。元気でね -


 アマテラスの声は聞こえなくなった。




「なあ、キリカ」

「何?」

「俺、どうするか決めたよ」

「どうすんのよ、って分かってるわよ」

「ああ。だからここで待ってて」

「嫌よ。私も一緒に行くわ」

「いや、もしかすると」

「あのねえ、私は神剣士のサポートをする聖巫女。ううん、私は」

 キリカが何か言いかけた時


「俺はキリカを愛してる。だから死んでほしくない」

 タケルが先に言った。だが


「それは私も同じよ。だから一緒に行きましょ」

「いいのか?」


「いいからそう言ってるの!」

 キリカは真っ赤な顔になって叫んだ。


「……わかったよ。じゃあ」

「ええ」

 タケルとキリカは手を取り合い……。



 そして

「よし、行けえええ!」

 タバサが叫ぶと同時に、妖魔砲の先端から天に向かって黒い光が伸びていった。


――――――


 所変わって、妖魔砲の中 


「とうとう放たれましたか、くっ」

 セイショウが残りの力を使い、外の様子を映し出していた。


「いかに最高神様とて、あれを防ぐのは困難じゃ。これで」

 ヴィクトリカが俯きがちになると


「ちょ、皆あれ見てくれよ!」

 アキナが映像を指さしながら叫ぶと


「え? えええ!?」

 そこにいた全員が驚きの声をあげた。


――――――


「これで、終わり……え!?」

 タバサが空を見上げながら驚き


「ええ!?」

「な、何してんのよ、あの二人は!」

 ミッチーとイヨも同じように驚きの声をあげていた。


 何故なら、タケルとキリカが空高く浮かび上がり、妖魔砲の黒い光を防いでいたから。

 その体から眩い程の光を放ちながら。



「俺達がこれを防いでやる! もう誰にも辛い思いをさせないために!」

 タケルが力強く叫んだ。

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