第110話「強く想う魔闘士、後に続く大神官」

「あら、今度はダン、あなたなの?」

 タバサがダンに話しかける。


「ええ。今言うのも何ですが、夢の町ではうちの店を御贔屓にしていただきありがとうございました」

 そう言ってダンが頭を下げた。


「ふふ。ダンって商売上手だったものね。ついつい釣られてたくさん買っちゃってたもの」

 タバサはころころと笑いながら答えた。


「そうでしたか。ではこれからもご贔屓にしてもらうために、あなたを倒さないと」

「あらら。どんな商人なのよ、あなたは」

「商人ですが、『魔闘士』でもあるんですよ」

 ダンが身構えながら言う。


「じゃあ、こっちも全力で」

 タバサも身構えた後


「はあっ!」

 ダンに向けて素早く槍を突き出すが、彼はそれをあっさりかわし、そして


「えっ!?」


 なんとダンは槍の先に飛び乗り、そのまま槍の上を駆け


「たああっ!」

「!?」

 飛び上がってタバサの後ろをとった後 


「てりゃああ!」

「キャアアアーー!?」

 バックドロップを決めた。


「どうですか?」

 ダンが間合いを取りながら尋ねた。


「い、痛いわよ! てかあなた、本当に容赦無いわね!」

 タバサが頭を押さえながら立ち上がる。


「ええ。お得意様へのサービスです」

「何処の世界にそんなサービスがあるのよ!」

「ここに。ってもひとつどうぞ」

 ダンはそう言った後、連続で魔力の弾丸と気功弾を放った。

「う!?」

 不意を突かれたタバサは防戦一方となった。




「凄え、ダンってあたいより強いかも」

 アキナが感心しながら見つめ

「でも、この半年であそこまでだなんて。いったい誰に格闘技習ったのかしら?」

 キリカがそう言った時

「それね、実は僕なんだよ」

 ミッチーがタケル達の側に近づきながら言った。


「え!?」

「どういう事よ!?」

 皆が驚きながら尋ねると


「いやね、夢の町でダン君が格闘術を教えてくれって言ってきてね。護身術程度のつもりだったけど、あんまり筋がいいもんだから知ってる技、全部教えちゃったんだ」


「そうだったのかよ。でも」

「うん。まさかタバサ様が苦戦する程になるなんて思わなかった」



「つ、強いわねあなたって」

 タバサも感心しながら言う。

「ええ。僕はもっと強くなりたかった。誰も守れず、何も出来ず、悔しい思いを二度としたくなかったんです。それと」

「?」

「いつだったか、僕の両親が既に亡くなっている事を話した時、あなたは泣いてくれましたね」

「そんな事もあったわね」

「その時、いや今もですけど、僕はあなたを優しい人だと思っていますよ」

「そう? 今の『私』は私じゃないわよ」

「同じですよ。あなただって優しい人です」

「そうかしら?」

「ええ。だから、全力で止めます」


 ダンの体がほんの少しだが、光り輝いた。


「え?」

「あ、あれって……何でダンも使えるのよ?」

 タケルとキリカがダンを見つめながら言う。



「その力は抱くものは違えど、純粋に何かを強く想う者が使えるのかもね。ならば、卑怯だけどこの手で……はあっ!」


「ーーー!?」


 タバサが手をかざすと、ダンは何故か鼻血を出して倒れた。


「な、何が起こった!?」

「おそらく何か幻覚を見せられたのでしょうが、いったい何を!」

 イーセとマオが叫ぶと


「え、あれ? 『私』はただ、セクシー衣装の女の子達を見せて惑わせようとしただけよ?」

 タバサが首を傾げる。

 彼女もこれは予想外だったようだ。


「いや、そんなもん純粋なダンが見たら倒れるのは当たり前……あれ? じゃあ何で今のタバサを見て平気だったんだ?」

「そうよね? おまけに抱きついてたんだし」

 タケルとキリカも首を傾げると


「ふふふ……『私』じゃ貧相だから惑わされなかったのかもね」

 タバサは涙目になっていた。


「いや、あなたが年上過ぎるからそんな気にならなかったのでは?」

 見かねたマオがフォローしたが


「年上過ぎか。そうよね、私はもうセンジュウナナサイだものね」

 涙を流してボソッと呟いた。


「あの、聞こえちゃったんですが」

 マオが冷や汗をかきながらツッコんだ。


「う、嘘だろ?」

「まさかそんなお歳だったなんて」

 ミッチーとイヨもタバサの歳は知らなかったようだ。

 


「はっ? お、おのれ! ダンもあなたもあっちへ行きなさーい!」

 タバサが怒り狂いながらダンとマオに向けて黒い霧を放ったが


「く、避けるのか精一杯で、ダン君を助けられなかった」

 マオはなんとかそれをかわしたが、ダンは黒い霧に包まれて消えた。


「気に病むな、後で救い出せばいいのだから。それより」

「ええ。あれでなんとかなりますよ」

 イーセが言い終わる前に、マオが答えた。


「流石大神官殿、気づいていたか」

「ええ。それと皆さんはそう呼んでくれますが、僕は正式な大神官ではありませんよ」

 マオはゆっくり首を横に振る。


「おや、そうだったのか?」

「ええ。いつの間にかそう呼ばれるようになったんです」

「そうか。まあ、戦いが終わったら王であるイシャナに儀式をしてもらえばいいだろう」

「はい。ではその為に」



「うう、今度こそ妖魔砲の中に送ってやるわ!」

 タバサがイラつきながら言うと


「そうなるでしょうけど、タダではやられませんよ。はあっ!」

 マオが光魔法を何度も放つが、どれもあさっての方向へ飛んでいった。


「は? あなた何がしたいの?」


「もちろん、あなたを倒すんですよ」

「あれでどうやって?」

「こうやって、です……はあっ!」

 マオが気合を入れると、タバサの周りに光の膜が現れた。


「え、これってまさか」

「ええ、それは『五芒星大結界爆』です。それは結界の中で大爆発を起こして、その威力を一点に集中させるもの」




「でもあれって、聖なる気で五芒星を描かないと現れないはずよ? いつの間にそんな事……あ」

「さっきのイシャナさんとダンの攻撃か!?」

 キリカとタケルがそれに気づくと

「そうだ。イシャナは一人で五芒星を描こうとしていたが途中で……だから俺が行こうとしたが、ダン君も気づいてくれたので助かった」


「いくらあなたでも、天使の衣無しにこれを受けて無傷でいられるはずがない」

 マオはその手に魔法力を集めながら言う。


「ぐ、ま、ますいわ」

 タバサの顔に焦りが見える。


「さあ、受けてみろ!」

 マオが全魔法力をタバサに向けて放つと、結界内で轟音が鳴り響き大爆発が起こった。

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