第109話「最強の槍使い対神殺しの槍使い」

 そして闇が消え、タバサの姿が見えた時。

「な、何!?」

 タケル達、イヨとミッチーまでもがその姿を見て驚き叫んだ。


「ふふふ、どう?」

 タバサはイヨと揃いの黒いビキニアーマーを纏っており、そして

 

「そ、そ、それって、堕天使の証じゃない!?」

 キリカが指差した先、タバサの背には漆黒の翼が大きく広がっていた。


「ふふ。言っておくけど、私には元々翼が無かったのよ」

 タバサは妖しい笑みを浮かべながら言う。


「え? じゃあそれって?」

「これは『私』が生まれた時に生えたもの。そしてこの姿を見せるのは、これが初めてよ」

「そのようね。イヨとミッチーも驚いていたものね」



「タバサ様ってあんな格好もするのね。うう、いいわ~♡」

 イヨは頬を染めてうっとりしている。

「でもさ、ぺたんこのビキニアーマーってどうなんだろ」

 ドゴオッ!


 いらん事ほざいたミッチーは、イヨにどつかれて沈んだ。

 


「そしてこれは、あの時以来ね」

 いつの間にかタバサの手には、彼女の背丈より少し長い、黒光りする槍があった。


「そ、それってもしかして、あの混沌より生まれし神殺しの槍?」

 キリカがそれを指差しながら言うと

「そうよ。これもあいつに奪われたはずだったけど、何故か勝手に戻ってきたのよ」

 タバサは槍を見つめながら答えた。


「伝説の武具はたとえ一時は離れても、最後は主と認めた者の元へ戻るらしい。だからその槍もおそらくは、あなたこそ唯一の主と思っているのかもな」

 イーセがそんな事を言うと


「そうだったのね。じゃあ、また力を貸してね」

 タバサがその槍に話しかけ、大きく一振りすると


「うわあっ!?」

「あ~れ~!?」


 一瞬のうちにカーシュとマアサの姿が消えた。


「あら? 全員のつもりだったけど二人だけかあ。でもいいわ、後は一人ずついくわ」

 タバサは身構えながら言った。


「ね、姉さん?」

 マオがその場に膝をつき


「カーシュさ、ん。……コンのヤロー!」


 アキナが怒りの形相で飛び出そうとするが

「待て! そんな闇雲に突っ込んで行っても返り討ちに遭うだけだ!」

 タケルが彼女の肩を掴んで止めた。


「で、でもさあ!」

「タバサは俺以外は殺さないらしいから、皆はとりあえず無事のはずだ」

 

「ぐっ。わ、わかったよ……すう、はあ」

 アキナは深呼吸して気を落ち着かせた後

「それで、こっからどうする?」

 誰にともなく尋ねた。


「ソウリュウのおかげでもう天使の衣は出ないのだから、タケルを中心に攻撃を」

 イーセがそう答えた時

「待て、まずは俺に任せろ」

 イシャナがそれを制し、前に出た。

「ん? 何か策があるのか?」

「いいや。俺、一人の槍使いとしてあの神殺しの槍とサシで戦いたくなったんだよな~」

 イシャナが笑いながら答える。


「ア、アホか! 今はそんな事言ってる場合ではない!」

「すまん。我儘なのはわかってるが、ここはどうしてもやらせてくれ」

「!?」

 イシャナの真剣な眼差しを見て、イーセは思わず怯んだ。


「ふふ、『私』も神槍を持つ世界最強の槍使いと一対一で戦ってみたいわ」

 タバサが槍をしごきながら言うと


「世界最強とは大袈裟だな。大陸最強でも何かこそばゆいのに」

 イシャナが頭を掻きながら言った。


「あら、あなたより優れた槍使いなんてこの世界にいないわよ」

「そうか。でもあんたは別格だろ?」

「どうかしらね。それでどうするの?」

 

「なあ、いいよな?」

 イシャナが振り返って皆に尋ねた。

「ああ。だが気をつけろ」

 イーセが頷くのを見て、皆もそれに倣った。

「ありがとう。じゃあいっちょやるか」

 イシャナが神槍ルーファスを構え、タバサと向かい合った。


「イーセさん、イシャナさんは何を?」

 タケルが尋ねると

「俺にもわからんが、何か策があるみたいだ。一対一の勝負がしたいのも本心だろうがな」

 イーセは苦笑しながら答えた。



 その後しばらく、イシャナとタバサはお互いを睨みながら間合いを取っていたが

「……はあっ!」

 イシャナが先に動き、タバサ目掛けて鋭い突きを放った。

 

「そりゃあ!」

 しかしタバサも同じように槍を突き出し、それを弾く。


「お、やるなあ。それならこれはどうだ!」

 そう言った後、素早く連続で槍を繰り出すが

「はっ!」

 タバサもまた同じように槍を繰り出し、それを尽く受け止めていく。 


「ぐ、ぐ!?」

「そらそらあ!」

 そしてタバサがその速度を上げていくと、イシャナはたちまち防戦一方になった。



「!? タバサ様って武術の類は不得手だと思ってたのに!」

 ミッチーが驚きの声をあげると

「キャー! タバサさま~!」

 イヨはまるでアイドルでも見ているかのようにはしゃいでいた。



「な、イシャナが槍であれ程苦戦するなんて!」

 イーセもそれを見て驚いている。

「どうするの兄さん? まだ出ちゃダメ?」

 イズナが尋ねた。

「あ、ああ。イシャナが何か合図をするはずだから、それまで待つんだ」



「……それなら、これで!」

 イシャナは槍の穂先から気功弾を雨あられのように放った。


「う!?」

 タバサがその連続攻撃に怯んだ時


「天空雷光閃!」

 彼の奥義でもある稲妻のような気を放った。


「はっ!」

 しかしタバサはそれを黒い気で相殺する。


 だが


「でりゃあああ!」

「!?」

 イシャナがいつの間にか飛び上がっており、タバサの頭上目掛けて槍を叩きつけるように振り下ろすが


「はあっ!」

 間一髪でそれを槍で受け止めた後、イシャナを地面に叩きつけた。


「くそ。その槍を叩き折った後、もう少し粘れたら上出来だったのだが」

 イシャナが上半身を起こし、タバサを睨みながら言う。

「並の槍なら上手く行ったでしょうけど、これは神殺しの槍よ。神槍でもそれは無理ね」


「そうか。くう~、俺もここまでか~」

 イシャナの口調は悔しそうに聞こえるが、よく聞くと何か違うようにも取れた。


「ふふ、あなたはとても強かったわよ。さあ」

 そう言って手をかざすと、イシャナが黒い霧に覆われていく。


「……ん」

 そしてイシャナは最後にイーセを見つめた後、消えた。


「ああ、もうわかっているぞ。お前が何をしたかったのか」

 イーセはイシャナがいた辺りに剣を向けながら言った。


「あの、もしかして陛下は」

「まだ言ってはダメだ」

 ダンが何か言いかけたが、イーセはそれを止めた。


「でも、あと少し必要なんですよね?」

「ああ。だがよく知っているな」

「はい、ディアル団長に教わりましたから。なので次は僕が行っていいですか?」

「いや、ここは俺が」

「イーセさんはタケルさんを最後まで守らなきゃダメですよ」


「えっと、二人共何を?」

 タケルが首を傾げながら尋ねる。


「それはまだ言えん」

「そうですよ。じゃあ行ってきます!」

「あ!?」

 皆が止める間もなく、ダンが飛び出して行った。

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