第108話「変態が遮るものを取り除く」

 そして……。


「ふふふ。その程度?」


 全員がタバサに向かっていったが、天使の衣に防がれて傷一つつけられなかった。


「く、くそ、あれさえなければ」

「さっきまでと違って、気を逸らす事も出来ないわ」

 アキナとイズナが悔しそうに言う。


「てか、セイショウさんでもあれはどうにもならなかったのか?」

 タケルがタバサを睨みながら言うと、


「いいえ、セイショウはさっきのタケルのように搦め手を使い、あと一歩まで私を追い詰めたわ。けど土壇場で私を殺すのを躊躇った。私はその隙を突いて、彼を倒したのよ」

 タバサがそれに答えた。


「そして妖魔砲の中に?」

「ええ。事が終わるまで、あそこにいてもらうわ」

 タバサはそう言って塔を、妖魔砲を指差す。

 

 見れば闇が妖魔砲の周りを覆い始めていた。


「発動まではもう少しかかりそうね。その前にあなた達も……はあっ!」

 タバサがまるで大津波のような黒い気を放った。


「ウワアアーー!?」

 全員それをまともに受け、倒れた。



「もう抵抗するのはやめなさい。あなたさえ死ねば、他には手出ししないから」

 タバサが倒れているタケルに向かって話しかける。

「ぐ、や、やられてたまるか」

 タケルがそう言って立ち上がろうとするが、まだ体が動かせないようだった。


「苦しまないようにしてあげるからね」

 そう言って手をかざそうとした時


「うりゃあああ!」

「!?」

 

 ソウリュウがタバサに体当たりを喰らわせ、彼女の体勢を崩した。


「や、やらせてたまるかってんだ」

 ソウリュウが息を切らしながら言う。


「一瞬の隙を突くなんてやるわね。でももう通じないわよ」

 タバサが身構えながら言う。


「そうだな。だが俺はこれでも軍師の真似事をしてんだよ。天使の衣、封じる手立てが浮かんだぜ」


「な、なんだって!?」

 タケル達はその言葉を聞いて思わず叫んだ。


「へえ? 何か知らないけど、やってみなさいよ」

 タバサは余裕の表情で言う。


「ああ。だがその前に、あんたには一つ感謝しておくぜ」

「はい?」

「こう言っちゃアレだが、あんたがいなかったら俺はアイリスと二度と会えなかったかもしれねえしな」

 ソウリュウはニヤけ顔で言う。


「え、ソウリュウさんは前にもアイリスと会ってたの?」

 タケルが倒れたまま尋ねた。


「ああ。彼女こそ俺が追い求めた理想のロリだった」

「おーい」

 タケルが呆れながらツッコんだ。


「……まあ、何か言いたいなら聞いてあげるわ」

 タバサも呆れながら言う。


「ありがとよ。じゃあ」


――――――


 あれは十年以上前、俺が先王の小姓になった頃だった。

 

 俺は先王から命じられた任務、てかお使いのようなもんだったが、とにかく初任務を受けて浮かれながら目的地へと向かっていたが、その途中にあった森の中を歩いていると、何故かいきなり熊に襲われてしまった。


 今なら倒せるが当時はまだヒヨッコ、立ち向かったものの返り討ちに遭い、もう少しで食われそうになった時だった。


 空から小さい女の子が現れ、熊を魔法で倒しちまったんだ。


「え?」

「大丈夫?」

 薄れゆく意識の中で見えたのは、まるで女神のような笑顔だった。


 気がつくと森の外にいた。

 傷も塞がっていたから、彼女が治してくれたんだろうな。


 俺はその後、折を見ては彼女を探した。


 後で聞いたが、彼女は当時世界中を旅して周ってたんだってさ。

 それじゃ見つかりっこねえな。

 

 だが俺はずっと彼女を探していた。

 もう一度、どうしても会いてえって思いながら、ずっと。


――――――


「アイリスにもう一度会って、お礼を言いたかったの?」

 タケルが立ち上がって尋ねた。

「それもあるが、俺はあの時からずっと彼女に惚れていたんだよ」

「その割にはあっちこっちで幼女をナンパしてたじゃねえか」

「それとこれとは別だ。そして月日は流れ……あの夢の町でやっと彼女と出会えた。もっともあそこでは記憶が曖昧になってたんですぐには気づかなかったがな、彼女と話しているうちにわかったんだよ。あの時のって」


「それ、彼女が三百歳の魔女だって知ったから?」

「ああ。聞いた時は驚いたが、考えてみりゃ理想のエターナルロリだよな」

「……まあ、最後まで聞くよ」

 タケルは一瞬ソウリュウをぶった切ろうとしたが、彼の目を見て思い留まった。


「それでよ、俺は彼女と再会出来たが、そもそもタバサが世界を闇で覆わなければ俺は彼女と出会えただろうか? って思ったら、感謝したくなったんだよ」

 ソウリュウがタバサを見つめながら言った。


「じゃあその彼女も待ってる妖魔砲の中に行きなさい」

 タバサはそう言って手をかざそうとする。


「待てよ、その前に礼をさせてくれや」

「あら、何かくれるの?」

「ああ。……はあっ!」


 ソウリュウが気合を入れると、彼の体が光り輝きだした。


「え!?」

「あ、あれってタケルやイヨの、あの気に似ているわ!?」

 それを見たタケルやキリカが驚き叫び

 

「な、何よそれ!?」

 タバサも思わずたじろぐ。


「これが俺の、全ての幼女を愛する心の力だ!」

 ソウリュウが口元をニヤリとさせながら言った。


「待てやゴラー! アイリスだけならまだ納得するが、全ての幼女ってなんじゃー!?」

 タケルがブチ切れて叫ぶと


「まあ、あいつは筋金入りの変態ロリコン野郎だからな」

「ああ。おそらく生まれた時からな」

 イシャナとイーセがボソッと呟いた。


「何とでも言えや。俺にとっちゃ幼女こそ全てだ! たとえ相手が最高神様であっても、この想いは消せやしねえ!」


「そ、そんな変態の気で何をする気よ!?」

 タバサが引き気味になって言うと、


「決まってんだろが! この心の力、あんたにぶつけてやる!」

 ソウリュウはその気を両手に集めると、それは光の弓矢と化した。


「さ、させないわよ!」

 タバサがソウリュウに向けて黒い気を放つと、それが彼に直撃して轟音を立てた。


 だが、彼は黒い気に覆われながらもその場に立っていた。


「え!? な、何でまだそこにいるのよ!」


「これをあんたに喰らわせるまでは消えねえ! はあっ!」

 ソウリュウは弓を引き絞り、タバサに向けて光の一矢を放った。


「キャアアー!?」

 そして光の矢が「天使の衣」を貫き、タバサの胸に突き刺さったが、すぐに消えた。



「え、えええええ!?」

「な、何故あれが天使の衣を貫けるんだ!?」

 皆が驚き叫ぶと


「思った通りだな。想いの力なら天使の衣を貫けるって。そしてもうこれであれは発動しねえ」

 ソウリュウは黒い気に包まれ、その姿が見えなくなりながらもそう言った。


「な、何故よ!?」


「俺の想いを封印の力に変えてぶつけてやったんだ。絶対効くはずだ!」


「そ、そんな訳が……え!?」

 タバサが天使の衣を出そうとしたが、本当に封じられているようだった。


「やったぜ。だが俺はここまでだ。皆、後は頼むぜ」

 ソウリュウは満足そうな笑顔を浮かべた後、黒い気の中に消えた。


「ま、まさか変態に天使の衣を封じられるなんて!?」

 タバサは明らかに狼狽えていた。



「ソ、ソウリュウさん……いや、今は」

 タケルが剣を構えて技を放とうと、気を溜める。


「よし、俺達も!」

「おお!」

 そして全員で遠隔攻撃技を、魔法をタバサに向けて放つと


「!?」

 それがタバサに全て直撃し、彼女は倒れた。



「これで、決まった?」

「いえ、まだよ」

 ミッチーとイヨがタバサの方を見つめながら言うと



「天使の衣を封じられたのは誤算だったわ。でも『私』はこの程度では倒せないわよ」

 タバサが身に纏う服はボロボロだが、彼女の体には傷一つついていなかった。


「でも、あの変態ですらあの力を出した。もしあなた達全員があの力を出してきたらやられるかもね……だからその前に、全力で潰すわ」


 そう言ってタバサが手を上にかざすと黒い霧、闇が彼女を覆い始めた。


「な、何をする気だ?」


 やがて闇が消えると


「え!?」

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