第96話「真実を知った後、何かが……」

 その頃、タケル達は最後の魔物達を倒した後、塔の前まで来ていた。


「もう残りはイヨねーちゃん、ミッチー、そしてタバサだけか」

 タケルが塔を見上げながら呟いた時


「そう、あたし達だけよ」

「!?」

 イヨとミッチーが彼らの前に立っていた。


「皆さんようこそ。そして、ここで終わりだよ」

 ミッチーは左手を腹部にあて、右手を後ろに回してお辞儀をしながら言う。


「おいてめえら、たった二人で俺達全員を相手にして、ただで済むとでも思ってんのか?」

 ソウリュウが二人を睨みながら言うが


「以前までならそうだったけど、今の僕達は違うよ」

「ええ。あたし達はパワーアップしてるのよ」

 二人は余裕の表情で答えた。


「たしかに凄まじい力を秘めている……いや、あの二人なら不思議ではないか」

 ヴィクトリカが怯みながら言う。


「え? ねーちゃんとミッチーって人間だろ? まさか違うの?」

 タケルが尋ねると

「いや、人間なのは間違いないがのう」

 ヴィクトリカは俯きがちになって口を閉ざした。


 そして、それを見たイーセが口を開いた。

「俺が知る限りではあの二人は拾われたのではない。攫われたのだ」


「え!?」

「な、なんだって!?」

 その言葉にタケル達だけでなく、イヨも驚いていたが


「うん。他の誰かが言ったらデタラメだと言う所だけど、守護神から話を聞いているであろうあなたが言うなら、そうなんだろうね」

 ミッチーは冷静な口調で言った。


「じゃあ、二人は赤ん坊の時に?」

「いや、だ」

「へ?」

 イーセの言葉にタケルは思わず間の抜けた声を出してしまった。


「それ、どういう事か教えてくれますか?」

 ミッチーがイーセに話しかける。

「信じてくれるのか?」

「ええ。イヨもそうだろ?」

 ミッチーが尋ねると

「……どうだかね。でも話は聞いてあげるわ」

 イヨは内心これから聞く事は事実なのであろうと思っていたが、嘘であってほしいとも思っていた。


「そうか。では」

 イーセは続きを話し出した。


 君達は生まれながらというのも変だが、とにかく常人離れの力を秘めていた。

 そこに目をつけたタバサは、君達がそれぞれの母上の胎内にいた時に、その超魔力で手元に呼び寄せたのだよ。

 君達を育て、自分の忠実な部下にする為にな。


「でもさ、胎内にいた時にだなんて、なんでだ、あ」

「子供が『流産』だったら二人のご両親も諦めがつく、とでも思った?」

 アキナの後にキリカが続けて言った。


「それでも親が傷つかない訳がないけど、それがタバサの思いつく精一杯の配慮だったのかもしれないわね」

 イズナが目を閉じて呟いた。



「そうなんだ。僕達はタバサ様に攫われたんだね」

「じゃあ、タバサ様はあたし達を」

 二人が俯きがちになった時


「いいや。当初はともかく、今は君達を実の子当然だと思っているはずだとセイショウ様も仰っていたよ」

「え?」

 二人は顔をあげてイーセを見つめる。


「俺も夢の町で彼女を見ていたが……いや、君達は誰よりもよく知っているはずだ。彼女の本来の姿を」


「うん。優しくて、暖かくて……やっぱり僕にとってあの人は『母さん』だよ」

「あたしも同じくね。夢の町でタバサ様が『お母さん』になってたのは、あたしの願望が現れてたのかもね」


「ああ。そして俺は彼女に命を救ってもらったが、利用する為ならもっと強力な洗脳術、いやいっそ妖魔を憑かせる事もできただろうに」


「そ、そうよ。タバサ様は、誰も殺したくない……けど」


「神剣士タケルだけは無理、か?」

 イーセが問いかける。


「そうよ。タケルは世界の希望。生かしておく訳には」

「だが、君達はタケルを殺したくないのだろ?」

 イーセが尋ねるが、二人は何も言わなかった。


「それなら他の道を探さないか? 誰も死なせずにそちらの目的を達成できる方法だってあるはずだ」


「そう言われても……」

 イヨはどうしていいかわからず、ただ戸惑っていた。


「あ、そうだ。元はと言えば最高神がタバサ様のお兄さんを消し、お姉さんを封印したのがいけないのですよ。だからお二人を元に戻せば解決するかも」

 ミッチーが思いついた案を言ったが


「ランはなんとかなるやもしれぬが、彼は魂が消滅したから無理じゃ」

 ヴィクトリカが首を横に振って言う。

「そうですか。でもそれなら、お姉さんだけでも戻せば」

「仮にそうしても、タバサは止まらぬ。愛する者を奪われた恨み哀しみは」

 また首を横に振って言う。

 

「え!? ね、ねえ、それどういう事!?」

 イヨが詰まりながら尋ねると

「私の口から言えぬ、察してくれ」

 ヴィクトリカは目を閉じて俯いた。


「え? ……そうか、そうなのね」

 どうやらイヨは気づいたようだ。

 タバサの心に、誰がいるのかを。



「なあ、ねーちゃん」

 タケルがイヨに話しかける。

「な、何よ?」

「この期に及んで甘いかもしれないけどさ、俺はねーちゃんとミッチーとは、できれば戦いたくないよ」

 タケルがイヨを見つめながら言うと


「……もし夢の町であんたと姉弟やってなかったら、あたしは今、迷わずあんたの

首を刎ねていただろうね」

 イヨは目を閉じて俯いた。



「それとさ、ここまでの事を俺なりに纏めたんだけど、もしかしてイヨねーちゃんは」

 タケルが何か言いかけた時


「う、な、何?」

「あ、頭が……ぐ!?」

 イヨとミッチーは突然苦しみ出した。


「え、大丈夫か!」

 タケルが慌てて近寄ろうとすると

「……」

 二人がいきなり剣を抜き、タケルに斬りかかった。


「うわあ! ね、ねーちゃん、ミッチー、どうしたんだよ!?」

 タケルはそれをかわして二人に話しかけるが、返事はなかった。


「え、どうなってるのよ!?」 

「どうやら何者かに操られておるようじゃ」

 キリカの言葉にヴィクトリカが答えた。

「操られて……まさかタバサが」

「それはあり得ん。タバサがあの二人を操る意味がない」

「では、いったい誰が?」

「わからぬ。私でも察知できぬとは……ぬ!?」


 ミッチーがキリカとヴィクトリカに斬りかかっていった。


「させるか! これでもくらえ!」

 それを見たタケルがすかさず光心剣を放ったが、素早くかわされてしまった。

 だがそのおかげでキリカ達から気が逸れたようだ。

 

「やばかった。でも、俺の剣じゃ当てられないみたいだ」


「タケル君。僕とナナちゃんで二人に浄化呪文をかける準備をするから、時間を稼いでくれないかな?」

 マオがそう言うと

「あ、ああわかった。じゃあねーちゃんは俺が押さえるよ」

「待ってタケル、私も手伝うわ」

 キリカが前に出て、タケルに話しかけた。

「う、うん。一緒にやるか」

「ええ」


「よっし、そんじゃあたいがミッチーを押さえるぜ」

 既に闘衣を纏っていたアキナがミッチーの前に立つ。

「待ってアキナちゃん。僕にも手伝わせてよ」

 カーシュがアキナの隣に立って言った。

「え? でも」


「カーシュは魔法力においてはマオやナナには及ばぬが、伝説の古代魔法をいくつも習得しておるのじゃ。だから大丈夫じゃろう」

 ヴィクトリカが頷きながら言うと


「え、そうだったの!? うわ~、あたいの旦那様ってすげー!」

「あの、まだ結婚してないんだけど」

「どうせするんだからいいじゃん!」

「え、えと、そうだね」

 なんかラブラブな雰囲気になった時


「おのれらいちゃついとらんで、さっさといかぬかー!」

 ヴィクトリカがキレ気味に叫んだ。



「さすがロリコン同盟名誉総帥。俺の一歩先を行ってたか」

「勝手にそんな団体の名誉総帥にしてやるな」

 イシャナはソウリュウの呟きに突っ込んだ。



 とにかく、イヨをタケルとキリカが、ミッチーをアキナとカーシュが抑える事になったようだ。

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