第97話「戦いの後で明かされる事実」

 タケルはキリカと共にイヨを止めようと奮闘していた。


 イヨもパワーやスピードが格段に上がっていて、光心剣を放っても避けられていまう。

 操られているので本来の力ではないのだが、それでも。


「く、龍鳳神聖剣なら止められるかもしれねえが、それじゃ下手すりゃ死んじまうし」

「なんとか止める手を考えないとね。多少の怪我はごめんなさいだけど」

 タケルとキリカがそう話していた。


「なあキリカ、今更だけどねーちゃんに刺された事、気にしてないか?」

「ええ、とっくに水に流しているわよ。だって夢の町ではいいお友達だったし。それに未来の……なんだし」

 後半は小声だった。

「え?」

「あ、な、何でもないわよ!」

 キリカが慌てて取り繕うが、タケルには彼女の呟きが聞こえていたようで

(そっか、キリカも気づいてたんだ。うん、この戦いが終わったらな)

 心の中でそう言った。




 一方、ミッチーと当たっているアキナは

「はっ!」

 神殿での修行の成果を見せ、ミッチーの攻撃をかわしつつカウンター技を放つが、彼は怯まずに攻撃をしかけて来る。


「くそ~! 全然こたえてねえ!」

「それならこれはどうだ!?」

 カーシュが魔法で強風を起こすが、ミッチーの動きは止まらなかった。


 二人はその後も攻撃を繰り返すが、


「う~! 止まったと思ったらすぐ動き出す!」

 アキナが地団駄を踏んで悔しがる。

「よし、あれを試してみるか」

 カーシュが何か思いついたようだ。


「え? 何か手があるの?」

「うん。実戦で使うのは初めてだけど、これならいけるかもしれない」

「初めてでもいいじゃん、何でも試してみようぜ」

 アキナが笑顔で言う。


「そうだね。それじゃ少しの間」

「わかってるって。じゃあ行くぜ!」


 そう叫んだ後、アキナはミッチーの周りを円を描くように、素早く走りだした。


「!?」

 ミッチーは狙いを定める事が出来ずにいた。


「カーシュさん!」

「うん。……はっ!」

 カーシュが呪文を唱えると、ミッチーの周りに重力波が発生し、彼の動きを一瞬だけ止めた。


「おお、あれは古代魔法の超重力呪文。古代文字でしか詠唱方法が記されていないのに、よく解読したのう」

 ヴィクトリカが感心しながら頷き

「後で僕も古代文字教えてもらおうかな」

 マオが目を光らせていた。



「よっし、痛いだろけど勘弁してくれよな! てりゃあっ!」

 それを見たアキナは思いっきり高く飛び上がり、そして


「猛虎聖闘回転脚!」

 凄まじい勢いでミッチーにスピンキックを喰らわせ、彼をふっ飛ばした。


「ど、どうだ?」

 カーシュが倒れたミッチーを見るが、彼は起き上がってこないようだ。


「よっし! マオ、ナナ、いけるか!?」

 それを見たアキナが二人に向かって叫んだ。


「ここは僕がやるから、ナナちゃんは後でイヨさんをお願い」

「うん!」

 マオはナナにそう言った後、光竜神秘法で増幅した浄化呪文を放った。


 光の波動がミッチーを包み込むと

「あ、あれ? 僕はいったい?」

 ミッチーは上半身を起こして辺りを見渡した。


「大丈夫か? あんたさっきまで何かに操られてたみたいだけど」

 アキナとカーシュが彼の側に駆け寄る。


「え? ……痛っ」

 ミッチーが胸の辺りを押さえる。


「あ、ごめん。やり過ぎた」

 アキナが慌てて謝ると

「い、いいよ。でもどうしても気になるなら、そのちっぱいぱい触らせて」


 ゴオオオーーー!


 戯けた事ほざいたミッチーは、額に青筋立てたカーシュが放った大火炎呪文で真っ黒焦げになった。




「へえ、なるほどな。よしキリカ、俺に力を送ってくれよ」

「ええ、わかったわ。……はあっ!」

 キリカが放った光がタケルに吸い込まれていき


「よし、はっ!」

 タケルがイヨに向けて手をかざすと


「え!?」

「あ、あれは!?」


 彼女の周りに凄まじい重力波が現れ、イヨの動きを封じた。


「神力で同じ事をだなんて、タケル君って結構頭が切れるね」

 マオがそれを見ながら呟く。


「よし、今だ!」

 タケルが後ろに向かって叫ぶと

「うん! イヨお姉ちゃん、元に戻ってー!」

 ナナがそう叫びながら浄化呪文を放った。


 そして

「あ、あれ? あたしは?」

 イヨも正気に戻ったようだ。


「ねーちゃん、大丈夫?」

 タケルとキリカがイヨに駆け寄ろうとすると


「お姉ちゃーん!」

 ナナが先にイヨに抱きついた。


「え、ナナ……相変わらず可愛いわね、ハアハア」

 イヨはヨダレを垂らして興奮しだした。


「おーい、ねーちゃーん?」

 タケルが呼びかけるが、反応がない。

「そういえばイヨって、ロリコン百合だったわね。夢の町じゃミッチーと恋人だったから忘れていたわ」

 キリカがそう言った時


「あれって僕の願望が強かったんだろうね、たぶん」

 いつの間にかミッチーがそこにいて、後ろにアキナが、カーシュやマオや他の主立った者達も来ていた。


「あ、ミッチーも大丈夫か?」

 タケルが話しかけると

「回復魔法かけてもらったからもう大丈夫だよ。それより皆さんありがとう。僕達を助けてくれて」

 ミッチーが皆に向かって頭を下げた。


「いいって。それにそんな事言うなら、そっちだってユイを助けてくれたじゃんか。改めてありがとうな」

 タケルも頭を下げた。


「そうだったね。あの時は彼女を死なせたくないって、心の底から思ったよ」

 ミッチーが目を閉じて答えると

「それはあたしもね。あの子があのまま死んじゃったらって思ったら、胸が張り裂けそうになったわ」

 ナナを抱きしめ、充分堪能したイヨも同じように目を閉じて答えた。



 その後、戦っていた者達が治療を受けていた時


「そうだ。タケル、君はもう気づいているんだろ?」

 ミッチーが話しかけた。

「ん? ああ、ミッチーはタバサに教えてもらったとか?」

「いや、はっきりとは聞いていないよ。でも無言で僕の考えを肯定してくれた」

「そっか……」


「ちょっとあんた達、何の話してるのよ?」

 イヨが二人に尋ねると


「精霊女王様、あなたはご存知ですか?」

 ミッチーはヴィクトリカの方を向いて尋ねた。


「うむ。私もセイショウから聞いて知っておるが、話してもいいか?」

 ヴィクトリカが頷きながら答える。


「ええ。おそらく間違いないでしょうけど、確実に知ってる方が言ってくれた方がいいかと」

「そうか。イヨも良いか?」

 ヴィクトリカがイヨに確認する。

「え? ええいいわ。全部教えて」


「では……まずイヨ、お前の両親はな、あの塔の中にいるのじゃ」

 ヴィクトリカが塔を指さしながら言う。


「え、塔の中って、まさかアレに!?」

 イヨが驚き叫ぶと

「そうじゃ。アレに取り込まれた夫婦や恋人同士は何組かいるが、イヨの両親であろう年の夫婦は、二組しかいないはずじゃ」

「ええ。聞いている通りだとナナの両親と……タケルの両親よね」

「そしてお前は間違いなく純血の人間。となると?」

「……え、あたしはまさか!?」

 イヨもどうやら気づいたようだ。


「そうじゃ。お前はタケルの両親、ケンとマリの娘。そしてタケルの実姉なのじゃ」

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