第76話「雪女、いや……」
タケルは雪女に案内され、小屋に入った。
そこは広々としていて、テーブルと椅子が置かれていて暖炉もあった。
そして奥の方を見るとドアが二つあった。
「へえ、雪女でもこんな暖かいとこに住んでるんだな」
「私って正確には雪女と人間のハーフなの。だから暖かいのも平気なのよ」
雪女が微笑みながら言う。
「あ、そうだったのか。だから似たようなもんって言ったんだ」
「ええまあ。それと私、ユーリっていうのよ」
彼女、ユーリが名乗った。
「ユーリか。いい名前だな」
「ありがと。さ、お腹空いてるでしょ? 晩御飯にしましょ」
そして、食卓に並んだものはパンにキノコとジャガイモと人参のシチュー、山菜サラダに果物だった。
「お、美味いじゃん」
タケルはシチューを一口食べた後、目を見開いて言った。
「よかった。お肉入ってないけど気に入ってくれて」
「いや、無くてもいいよ。俺は好きじゃないし」
「あれ、そうなの? 人間って皆動物の肉が好きなのかと思ってた」
ユーリが目をぱちくりさせて言うと
「皆が皆そうじゃないよ。俺も食えなくはないけど、できれば食いたくないんだよ」
タケルは俯きがちになって言う。
「何で? あ、もしかして動物の言葉がわかるから?」
おそるおそるユーリが尋ねると
「ああそうだよ。魚や鳥の言葉はわかんねえけど、牛や豚のはわかるからさ、一時は何も口にできねえ位つらかったよ。でもある事があってからさ、どうしてもって時は『食材になってくれてありがとう』って心の中で言いながら食べてるよ」
タケルは顔を上げてそう言った。
「……人間が皆あなたみたいだったら、動物もまだ救われるのにね」
ユーリは憂いを帯びた目でタケルを見つめていた。
「そうかな?」
「ええそうよ。さ、シチュー冷めちゃうわよ」
「ああ。そんじゃ食べよっと」
――――――
所変わって、神殿内。
「そうだったんだ。あたい全然気付かなかった」
「私もよ。でも思えばタケルって積極的にお肉を食べてなかったわ。きっと皆に気を使わせない為に言わなかったのね」
セイショウの力でタケルの様子を見ていたアキナとイズナは暗い表情になっていた。
「あれ、気付いてなかったの? 私はそうだろうなと思ってたけど」
「わたしも気付いてたけど、イズナが言ったとおりだと思って聞かなかった」
いつの間にかキリカとユイが帰って来ていた。
「おや、おかえりなさい。で、決着はついたのですか?」
セイショウが尋ねると
「ううん。ユイが調子悪いみたいだから今日はやめにしたの」
キリカが首を横に振って答えた。
「え、大丈夫かよ?」
アキナが心配して駆け寄る。
「うん。ちょっと頭がクラクラしたけど、もう大丈夫」
ユイはそう言うが、まだ顔色が悪いように見える。
「なあ、無理すんなよ。ちょっと横になってろよ」
「……うん、そうする」
アキナはセイショウが何処からか出した毛布を受け取り、それをユイに被せて寝かせた。
「ユイ、本当に大丈夫?」
キリカがユイの顔を覗き込んで言う。
「うん。寝たら治ると思う」
「そう。じゃあ今日はゆっくり休みなさい」
「わかった。でもあとちょっとだけ、タケルの様子を見させて」
「ええ。でも無理しないでね」
「……本当にキリカとユイには敵わないわね」
イズナは皆から少し離れ、小声でそう言った。
――――――
「ふう、いい湯だな~」
食事が終わった後、タケルは小屋の近くにある温泉に入っていた。
「必要以上に動物を、か。今は作物が育ちにくいからさ、たくさん狩って蓄えておくとかってのもあるだろうな。でもなあ」
「ねえ、湯加減どう?」
「ん、いいよ……って、ええ!?」
見るとユーリがそこにいた。
体にはタオルを巻いていて、その下には何も着けていないようだ。
「ちょ、おい、今俺が入ってんだぞ!」
「いいじゃない。一緒に入ろ」
「一緒にって、お前雪女だろが!?」
「さっき言ったじゃない、ハーフだって。だからお湯に浸かっても平気よ」
「い、いや……あ、いいか。見たところあんま大きくないけど」
タケルはやはりドスケベであった。
「え? そんな事ないわよ。ほら」
ユーリがそう言ってタオルを取ると……。
「え、ギャアアアーーー!」
――――――
「あ、あ、すげえ」
アキナはただそう呟き
「きゅ~」
イズナは鼻血を出して倒れ
「ちょ、しっかりして!」
キリカはイズナを抱き起こし、彼女に回復魔法をかけていて
「ハアハアハア……この後タケルが」
さっきまでの調子は何処へやら、ユイは興奮しながら映像を見ていた。
「……アレは流石にねえ」
セイショウは苦笑いしていた。
――――――
「ど、どうしたのよ!?」
ユーリが驚きながら尋ねる。
「あ、そ、それ」
「ん?」
「ソレって……てめえ男だったのかー!」
そう、ユーリの股間には大きくいきり立つモノがあった。
「え? そうだけど」
「じゃあ雪男じゃねえかー!」
「あなたが勝手に間違えたんでしょ、じゃあ入るね」
ユーリはそう言って湯に浸かった。
「ひっ、まさか」
タケルが思わず後退ると
「さてと、さっき言ってた別の手を教えてあげるわ」
ユーリが優しい笑みを浮かべ、手招きした。
「え、それ? ……ああごめん。じゃあ」
タケルは安心して近くへ寄った。
「じゃあ話すわね。あのね、普通の人間が結界を通る為には雪女や雪男など、雪に連なる者の一部を身に付けておかないといけないの」
「え、そうなのか?」
「そうよ。あなたなら大丈夫かもしれないけど、私のでも効果あるから念の為に渡しておこうかなと思ってね」
「あ、ありがと。でも一部って、体の……あ、髪の毛か?」
「それでもいいんだけど、一番効果あるものをあげる」
「え? それ何」
「それはね、私の精よ」
「は?」
「フフフ、ぶっかけるだけでもいいけど、どうせなら中へ注ぐのが……ハアハアハア」
ユーリはヨダレを垂らしながらタケルに近づいていく。
「ギャアーー! 来るな寄るなーーー!」
タケルが尻を押さえ、叫びながら後退る。
「いいじゃない。だって女の子みたいに見えてたんでしょ?」
「さっきまではそうだったけど、ソレ見せられたらもう思えんわー!」
ユーリのソレはワインの瓶位になっていた。
「怖がらなくてもいいじゃない。さ」
「嫌だって……うっ!?」
タケルの体が急に痺れて動かなくなった。
「フフフ、薬が効いてきたようね。じゃあ」
「やめろー!」
――――――
「え、えと。助けに行かなくていいのか?」
「アキナ、正直に見たいと言えばいい。フフフ」
ユイが妖しい笑みを浮かべてアキナに言う。
「う、うん。あたいも見たい。ハアハアハア」
「そう、それでいいの、フフフ」
ユイとアキナは鼻血を出しながらナニかを待っていた。
「ま、まあタケルなら大丈夫よね、たとえ最後までヤっても。ハアハアハア」
キリカも鼻血を出しながらなんかほざいていた。
「セ、セイショウさん。タケルを助け、て」
まだ回復しておらず、息も絶え絶えのイズナがセイショウに頼むが
「あれも修行のうちです。手は出しません」
彼はすまし顔でそう言った。
「そ、そんな……」
イズナが涙目になっていると、セイショウがこう言った。
「彼はイーセさんが、あなたのお兄さんが認めた男ですよ。このくらいどうにかしますって」
「……え?」
「ふふ、どうなるでしょうね?」
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