第77話「人間達を」

「フフフ、さあて。もう私の虜になるくらいヤってあげるわ」

 ユーリがそう言って舌なめずりしながらタケルを抱き寄せる。


「ギャアーー! 離せーーー!」

 タケルは痺れ薬のせいで動けず、叫んで抵抗していた。


「うるさいわね。そうだわ、先に果てさせてからにしよかな? そうすればおとなしくなるでしょうしね」

 ユーリはそう言ってタケルのモノを掴もうと、手を伸ばした。


「うわああ! く、こうなったら!」

 タケルは目を閉じ、気を集中し始める。


「ん? 何する……キャアアーーー!?」

 ユーリは突如悲鳴を上げて大きく飛び上がった。


 見ると彼女、いや彼の尻には太い棍棒が挿されていた。

 そして彼はそのまま落ちてきて、湯に沈んだ。


「ふう、上手く行った。しかしホント何でも出せるんだな、神力って」

 そしてタケルは神力で痺れ薬の効果を消し、その後ユーリを湯から出して近くに寝かせた。

 その顔はなんか恍惚の表情になっていた。


「まさかアレでいってしまった……んだろな」

 先程までその湯は透明だったはずだが、何故か白く濁っていた。

「……小屋の近くに井戸あったな、そこで体洗うか」


――――――


「うう、タケルがユーリさんに……されるとこが見たかったのに」

「そうだよなあ、うう」

 キリカとアキナが泣きながら心底悔しがっていると、

「でもあれはあれでいい。タケルが道具でユーリさんを襲ったようなものだし」

 ユイがなんか戯けた事をほざいた。 


「あ、それもそうだな。それにあれ、タケルの本心が出てきたのかもな~、ケケケ」

 アキナがなんか妖しく笑いながら言うと

「そうね。神力で気を失わせる事もできるはずなのに、しなかったという事は……フフフフ」

 キリカが邪悪な笑みを浮かべ、


「うん、タケルはとうとう目覚めたのよ。アーッハハハハ!」

 ユイは鼻血を出しながら高笑いしだした。

 


「セイショウさん、あの娘達の腐れ魂をなんとかして下さい!」

 イズナが半泣きになってセイショウにすがるが、

「無理です。たとえ最高神様でもこればかりは」

 セイショウは顔をしかめ、頭を振った。


――――――


 翌朝

「うう、昨日は調子に乗り過ぎたわ。ごめんなさい」

「いやいいよ。俺もやり過ぎたし」

 ユーリとタケルは互いに頭を下げていた。


「さてと、俺そろそろ行くわ」

 タケルが外へ出ようとすると

「待って、私の髪の毛持って行ってよ。もし結界を通り抜けられなかったらこれを手に巻いて」

 ユーリはそう言ってその長い髪を一本抜き、タケルに手渡した。


「ありがと。じゃあまたな」

「うん。気をつけてね」

 その後タケルは元来た山道へと歩いて行った。



「さてと、今日も動物達を連れてこようかな」

 タケルが見えなくなった後、ユーリがそう呟いた時

「ええ。そして人間達を」


「え? ……キャアーーー!?」




 タケルは元の道に戻り、そこから登ること一時間で頂上付近に着くと、そこから先は透明な薄い膜のような結界が張られていた。


「えっと、まずは自力で通れるか試すか」

 タケルがそう言って結界に触れると、静電気が走ったかのようにバチッと火花が飛んだ。


「チェッ、ダメか。じゃあ」

 ユーリの髪の毛を手に巻いて触れると、何事も無くあっさりと結界をすり抜けた。


「しかし通れなかったって事は、神様の血が薄くて効果ないって事なのかな?」

 そう呟きながら頂上目指して歩いていく。


 頂上に着くと、そこには赤く光る魔法石が所狭しと転がっていた。

「ホントにたくさんあるんだな、さてと」

 タケルは魔法石を一つ手に取り、それを袋に入れた後、来た道を戻っていった。


 そしてあの洞窟への道近くに着いた時。


「キ、キュ(た、助けて)」

「え?」

 最初に会ったあの兎が倒れていた。


「お、おい! どうした、何があったんだよ!?」

 タケルが兎を抱きあげて尋ねると

「(み、皆が突然おかしくなって暴れだしたの。ユーリさんも変になって……だからタケルさんを呼ぼうと思って逃げてきたの)」

「暴れだした? ん、まさか? ……よし!」

 タケルは兎をまた懐に入れ、洞窟へと走っていった。




 そして洞窟の異空間内に着くと、

「な、何だこりゃ!?」

 そこには何百匹もの獣型モンスターがいて、奇声を発していた。


「(あれはここにいた皆だよ。さっきはあんなに大きくなかったのに)」

「そうなのか? やっぱこれって」


「私がやったのよ」

 そう言ったのはユーリだった。

 だが彼からは別の気配も感じ取れる。


「う、やっぱ妖魔に憑かれてるようだな。そしてあいつらは」


「ええ。魔法石で皆をパワーアップさせたのよ」

 ユーリが妖しい笑みを浮かべて言った。


「おいユーリ! 正気に戻れよ!」

 タケルが彼を説得しようとしたが

「戻れって? 私は正気よ」

 ユーリは何を言ってるかわからない、というふうに答える。


「あのな、お前は妖魔って奴に憑かれているんだよ!」

「ふーん? もしそうだったとしても、私は私よ」

「……そうかよ。で、あいつらをあんなふうにしてどうするんだ?」

「決まってるじゃない。あの子達を害するものを滅ぼすの。そうすればもう安全だし」

「何!?」

「そうよ。ここに隠して守っていても、いつか攻め込んで来るかも……だったらこっちから攻めるわ!」

「待て、そんなの逆に返り討ちに遭うだけだ! だからやめろ!」


「うるさいわね。邪魔するならたとえあなたでも容赦しないわ。さあ皆!」

 ユーリの号令を受け、モンスター達がタケルに襲いかかった。


――――――


 神殿内


「セイ兄ちゃん、もう修行どころじゃないでしょ! 私達を今すぐタケルの所へ飛ばしてよ!」

 キリカがそうセイショウに頼むが


「いや、ここはタケル君に任せよう」

「え、何でよ!?」

「ほら、見てごらん」

「え、ああ!?」


――――――


「ふふ、いくらあいつでもあれだけの数を正気に戻すなんて出来ないはず。かと言って傷つけたり殺したりも出来ない……これで終わりね」


 ユーリに妖魔を憑かせたのはイヨだった。

 彼女は物陰からタケル達を見つめていたが


「でも、ちょっと胸が痛むわね」

 イヨは自分の胸に手をやり、目を閉じて呟いた。


「もし叶うならタケル達をこっちの味方に、とか思ってる?」

 ミッチーもそこにいて、そんな事を尋ねる。

「ええ。そんな気持ちなんてない、と言えば嘘ね」

「僕もだよ。敵だと割り切ろうと思ったけど、夢の町で仲良くし過ぎたせいかな」

 

 ドオーン!


 その時、突然爆音が聞こえた。

 

「え!?」

「あ、ああっ!?」


――――――


「はあ、はあ、上手く気絶してくれたようだな」


 タケルが剣で放った衝撃波が地面に炸裂し、その爆風を受けたモンスターは一人残らず吹き飛ばされて気を失っていた。


「やっぱりあなたは優しいわね。誰も傷つけたりしなかったもん」

 ユーリは笑みを浮かべながら言う。


「そうか? 俺なんて全然だ」

「そんな事ないわよ。ねえ聞いて、人間全てとは言わないの。動物を食べる連中だけ死んでほしいのよ」

 

「それだとおそらく大多数が死ぬ事になる。だからやだ」

 タケルが首を横に振って断ると、


「そう……じゃあ、これを見て」

 ユーリがそう言って手をかざした。


「な、ウワアアーーー!?」

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