第69話「それぞれが再び会う事を語って」

「そんな事ないわよ」


「え? あ」

 タケル達が見た先には、いつの間にか多くの老若男女がいた。

 皆この町にいた者達である。


「もう全員記憶は戻り、大半の人はすぐに現実に戻っていったわ。それで私は残っていた何人かに声をかけた後、これまた残っていた人の中から協力してくれる人達を集めてもらったのよ」

 その声の主、とある女性が言う。


「ああ。なんだかんだでいい骨休めになったし、そのお礼にと思ってな。なあソウリュウ」

 そう言ったのはイシャナだった。

「ああ。しかしよう、こんな町を作れる方法があるなら、俺は可愛い幼女だらけの町をつく」



「ふん、またつまらぬものを斬ってしまった」

 戯けた事をほざいた変態ソウリュウをぶった斬り、血がついた剣を持ちながらそう言うのは

「イーセの剣捌き、久々に見たなあ。てか以前より腕が上がってじゃん」

 イシャナが笑いながらその男性、イーセに話しかける。


「ふふ。そう言うお前は王者の風格が出ているぞ」

「ああ、これでも一応王様やってるからな。っと、それは後にするか」



「え、えと。残っていた人を集めたって、何をするために?」

 タケルがおずおずと尋ねると


「決まってるじゃない。町を新たに作る為よ」

 その女性がそう言った。


「え?」

「ここにいる人達は行く当てがない、もしくは誰かの役に立ちたい、そう思っている人達よ。そしてここに引きずり込こまれた事は水に流し、あなたに協力するって言ってるわよ」


「ほ、本当にか!? 儂と一緒に町を作ってくれると!?」

 すると一組の家族が前に出た。それは、

「ああ。ここでまた一からやり直させてもらうぜ」

「父ちゃん、ぼくもお手伝いするからね」

「ああ。頼むぞ」

 かつて家族を虐待していたが、今は改心している男とその家族だった。


 その後、他の人々が町長に話しかける。

 皆この夢の町で町長と接しており、彼の人柄が偽りなきものだとわかっていたから、進んで協力する気になったようだ。


 また、何人かは現在町跡にはいないので後から合流する事も話していた。

 途中で誰かに声をかける事も忘れずに、と。


「おお、おお……ありがとう」

 町長は膝をつき、溢れる涙を拭おうとせず、皆に感謝していた。



「えっと、俺達要らなかったんじゃない?」

「何言ってんのよ、あんたが最初に話さなかったら上手く行かなかったわよ」

 タケルの呟きにイヨが突っ込んだ。


「……うん、ありがとねーちゃん」

「いいって。そうだ、特別サービスしてやるよ」

「え? って、うわあっ!?」

 イヨは突然タケルを抱きしめ、彼の顔を自分の胸に埋めさせた。


「お、おのれこの乳女めコロシテヤル」

 ユイが血の涙を流しながら言う。

「ユイ、今こそ旅の合間に練習した合体魔法を使う時よ!」

 見るとキリカも血の涙を流し、ユイに話しかける。


「待ちなさい。あれを邪魔するのは野暮ですよ」

 セイショウが二人の肩を掴み、顎でイヨとタケルを差す。


「え? あ」


 イヨはまるで本当の弟を見る姉のように、優しい笑顔になっていた。

 そしてタケルもまた、まるで本当の姉に会えたかのように、涙を流していた。


 それを見たキリカとユイは、しばらくそのままにしておこうと思った。



「えっと……」

 アキナがキョロキョロ辺りを見渡していると

「ふん、探しているのは俺達か?」

 そう言って彼女に声をかけた一組の夫婦、それは。


「あ……父ちゃん、母ちゃ~ん!」

 アキナは母親の胸に飛び込み、思いっきり泣きだした。

「ふふ、夢の町のおかげで久しぶりに会えたな」

「本当にね。大きくなったわね」

 

「うん、あのさ」

 アキナは旅の出来事を時間の許す限り話した、そして


「さてと、そろそろのようだな」

「ええ。じゃあアキナ、無事に帰って来てね。カーシュさんと一緒に」

 そう言った後、二人は姿を消した。


「やあ」 

 その後にカーシュがアキナに話しかける。

「あ、カーシュさん、あの」

「うん。僕もどうやら違う場所にいるみたいだよ。だから一旦お別れだね」

「……あのさ、また会えるよね?」

「もちろん。というか絶対にアキナちゃんを探し出すから。そして僕のお嫁さんになってもらうからね」

 そう言って姿を消した。


「……うん! 待ってるからなー!」

 アキナは頬を染めて、嬉し涙を流しながら空を見上げ、手を振った。



 その頃、イーセとイズナ兄妹も抱き合って泣いていた。

「イズナ、苦労をかけたな」

「ううん。私はそんな事思ってない……ねえ、兄さんは今どこにいるの? 生きてるのは間違いないんでしょ?」

 イズナが顔を上げて尋ねるが、イーセは首を横に振り

「それがわからないんだ。落石事故の後、気がついたら大晦日のあの時だったんだ」

「え?」


「俺はあの時既に記憶が戻っていたんだ。でもセイショウさんと話し、時が来るまで言わないようにしていたんだ」

「そうだったの……ん? 兄さんはセイショウさんと以前から知り合いだったの?」

「ああ。俺に妖魔王の事を教えてくれたのはあの人だ」

「え!? に、兄さん、セイショウさんって何者なの!?」


「それは俺も聞きたいな。お前から彼の話を聞いた事ないし」

 イシャナが話しかけると、

「まあ、俺は予想がついてるがな」

 当たり前のように復活した変態、いやソウリュウがそんな事を言う。


「ん? ソウリュウの頭でわかるのか?」

 イーセがややニヤつきながら言うと、

「俺はこれでも軍師の真似事してんだぞ。と、あの人とその妹キリカちゃんの家は北の大陸にある神殿の近くだと言ってたな。そんなとこにいて妖魔王の正体や居場所を知る事が出来る者は、たぶん」

 ソウリュウもニヤつきながら答える。

「……おい、まさか!?」

 イシャナも何かに思い当たったようだ。

「おそらく想像通りだろうな。だがご本人が言うまで口にするな」

 イーセが二人を見つめ、そう言った。


「ああ言わねえぜ。ところでイーセ、お前現実ではあれからずっと眠ったままか、記憶喪失なのかもしれんぞ」

 ソウリュウが真剣な表情で言う。

「……その線もありそうだな。だが仮に記憶喪失だとして、何故ここで記憶が戻ったのだ?」

「それはわからんが、夢の世界でご都合主義だからかもな」

「そうか。では現実に戻ったら、また」

 そう言ってイーセが項垂れると

「心配すんな。いずれお前の自慢の妹、イズナが見つけてくれるだろうさ」

 ソウリュウが親指を立てて言う。


「ああそうだな……どうやらもう時間のようだな」

 そう言ったイーセの体は半透明になっていた。

「俺達もみたいだな。じゃあイーセ、また会おう。そして今度はゆっくり話をしような」

 イシャナとソウリュウは一足早く消えた。


「兄さん、ソウリュウさんの言うとおり、いつかきっと見つけるわ」

 イズナは微笑みながら言うと

「ああ、またな。そしてタケルを頼んだぞ」

 イーセの姿も消えた。


「ええ、また」

 イズナは目を閉じて、静かに泣いた。




 そして

「ふふ、夢の中でだったけど、あんたと姉弟でいれて楽しかったよ」

「俺も。でも、この次は」

「ああ、敵同士だよ」

 そう言ってイヨはタケルを離した。


「さ、仲間達のとこへ行きな」

「ねーちゃん、その前にひとつ聞いていい?」

「ん、何をさ?」

、誰なのか知ってる?」

「……それは」


「え、ちょっと待って!? あの人ってタケルのお母さんじゃないの!?」

 ずっと見ていたキリカが思わず話しかける。

「うん。俺の母さんは俺と同じ黒髪だって聞いてる。だけどあの人は桃色だった」


「それに彼女は儂の息子ケンの妻、マリさんとは似ても似つかんわ」

 そう言ったのは、

「あ、じいちゃん」

 タケルの祖父、オウスだった。


「タケル、しばらく見んうちに立派になったのう。ここに来たおかげで孫の成長を見ることができたわい」

「うん。でもさ、父さんと母さんがここに居ないって事は、もしかして」



「あなたの両親は生きてるわよ」

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