第68話「もし誰も来なかったら」

 そして一同は町長の家に着いた。

「さて、どう言おうか?」

 タケルが誰にともなく尋ねると

「どうと言われてもねえ。ありのまま言うしかないんじゃないかい?」

 イヨが少々投げやりに答えると、


「うん、イヨねーちゃんが言うならそうするよ!」

 タケルは目を輝かせて言った。


「あんたねえ……ふん、弟ってこんなもんなのかね?」

 イヨは後半小声でそう呟いた。


 その時、

「おや、こんな早くに皆そろってどうしたんじゃ?」

 家から出てきた町長が皆に声をかけてきた。


「町長さん。大事な話があるんだよ」

 タケルが前に出て、町長の目を見つめて言う。

「おお、何じゃ?」

「あのさ、この町は町長さんが見ている夢なんだよ。本当はもう廃墟となってるんだよ」

「はあ? 何を言ってるんじゃ? 町はこのとおりあるじゃろが」

 町長は訳がわからん、とばかりに言うが


「町長さん。あなたは生涯かけて町を作ろうとしたが、それは叶わぬままだった。その無念さを妖魔に利用されかけたけど、逆に妖魔を取り込んでしまったんだ。そしてその力で出来たのがこの夢の町だよ」


「妖魔? そうじゃ、この町にも一度出たがタケル君達がやっつけてくれたじゃろ。それを見て思ったんじゃ。君達がいる限りもう妖魔に怯える事はないと、ん?」

 町長は顎に手をやりながら考えこむ。


「ど、どうしたの?」

「はて、儂はなぜ妖魔というものを知っとったんじゃろか? いや、以前どこかで見たような……う?」

 町長は突然頭を抱えて蹲った。


「ちょ、町長さん!?」

 タケルが駆け寄ろうとしたが、それをセイショウが止めた。

「待ちなさい、どうやら今のがきっかけになったようですよ」

「え?」


「そうじゃ。あの時に来たんじゃ、儂が町を見つめながら嘆いていた時に現れたんじゃ、妖魔が。そしてあれは儂の中に入ってきおった」


「え、中にって? ……妖魔✕老人のびーえるもありかな、ハアハアハア」

 ゴン!

 ゴン!

「想像させんな! 気色悪いわ!」

 タケルとミッチーが同時にユイの頭をどつき倒した。


「何で今でも息ぴったりなのよ?」

「というか何か似てるのよね、あの二人って」

 イヨとキリカが呆れながら呟いた。



「そしてあやつは自分と力を合わせれば儂が夢見た町を作れる、と言った。そして気がついたらこの町にいて、儂は町長となっていたんじゃ」

「その後、あなたは妖魔の思惑通りに旅人達をここに誘い込んでいきましたが、あなたの想いの方が勝り、妖魔はそれに耐え切れず消滅し、夢の町だけが残ったんです」

 セイショウが後に続いて言った。


「……そうか、ここは儂の夢なのか」

「ええ。ですがただの夢ではありません。ここは幾つもの偶然が重なり、今は全世界をも覆っているのですよ」


「あの、わたし思ったんだけど、いくら想いが強いからって、妖魔を取り込んだからって、全世界に広まるものを作り出すなんてできるの?」

 ユイがそう呟き、

「もしかするとさ、タケルの神力も吸い取ったからじゃねえか?」

「あ、そうかもね。それに広がる途中にあった聖地の力も取り込んだのかも」

 アキナとキリカが続いて言うと


「だいたい当たりですよ。タケル君だけでなくあなた達の力も合わさって夢世界が広範囲に広がり、その途中で聖地の力をも取り込んだが為に神や妖魔王ですら手を出せないものを作り出したんです」

 セイショウが振り返り、それに答えた。


「あの、町長さんはもう元に戻ってますよね? それなのにまだ町が消えないのは何故ですか?」

 イズナが辺りを見渡した後に尋ねた。

「ふむ、どうやら町長さん自身がその気にならない限り消えないようですね」

 


「町長さん、もう夢は終わりにしない?」

 タケルがまた町長に話しかける。

「でものう、長年夢見た町がここにあるのじゃ。そして永遠に消えぬのなら、このまま皆で平和に暮らせばいいではないか」

「違う、ここではもう新たな命が生まれないんだ。そして皆生物である以上、いつかは……そして町も、全て消えてしまうんですよ」

 タケルがその事を話すと

「そ、そうなのか? じゃあ、どうすればいいのじゃ?」

 町長が縋るように尋ねる。


「現実に戻ってもう一度やればいいでしょ。一人じゃ無理でも、協力してくれる人だっているはずだし」

 だが町長は首を横に振り、

「いや、これまでも協力してくれた人はいたのじゃ。だが皆途中で諦めて去っていったわい」

「そうだったんですか、でも」

「それより、君達は協力してくれぬのか?」

 町長はタケルを見つめて言う。

「……すみません、俺達には他にやる事がありますから、留まって町を作る事はできません。でも行く先々でこの事を伝えて、協力してくれる人を見つけますよ」

「そう言ってくれるが、もし誰も来なかったらどうするのじゃ?」

「そ、それは」

 タケルが言葉に詰まったその時、後ろから声が聞こえてきた。



「誰も来ない? ううん、そんな事ないわよ」

「え?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る