第59話「知らず知らずのうちに」
アキナとカーシュは町の中央にある広場にやって来た。
雨風は丁度止んでおり、嵐の前の静けさが町を包んでいる。
「ここならいいだろ。じゃあ・・・・・・」
カーシュは両手を合わせると、何かの呪文を唱え始めた。
「え、カーシュさんって魔法使えるの?」
「そうだよ。台風も遠見の魔法で確認したんだ」
「や、やっぱ凄え」
アキナは感心してカーシュを見つめるが
「凄くないよ」
カーシュは静かに首を振る。
「な、何でさ?」
「自分で言うのもなんだけど、僕は魔法に関してはかなり優れていたんだよ。これは生まれ持った才能だったんだ」
「じゃあやっぱり凄いじゃん」
だがカーシュはまた首を降る。
「でもある時、僕が生まれ育った村に大雨が降り、近くの川で洪水が起こったんだ。僕は魔法でそれをなんとかしようとしたけど、ダメだった・・・・・・」
「え?」
「家も建物も流されてしまった・・・・・・逃げ遅れた人もいたよ」
そう言ってカーシュは項垂れる。
「僕は知らず知らずのうちに才能に溺れていたんだよ。あの時努力して更に腕を磨いていれば、それに加えて魔法以外の知識もあれば・・・・・・と思ったよ」
「それで天気予報とか、他にも色々と勉強してたの?」
「そうだよ。でもね、それでも自然災害は無くせないとわかったよ」
「な、何でだよ!?」
「知れば知るほど自然は大きかったよ。人間の力じゃせいぜい災害対策して被害を最小限に防ぐ事しか出来ない。でも」
「でも、何?」
「今この時だけは完全に防げるはずだ。じゃあ・・・・・・はあっ!」
カーシュの体から光の帯が現れ、それが町の上空で五芒星を描いていく。
「ふう。さ、アキナちゃん。気を一点に集中するイメージでやればできると思うから」
「あ、ああ。えーっと」
アキナは目を瞑り、腰を落として構える。
すると彼女の全身が光輝きだした。
「これが聖闘気・・・・・・あれ?」
アキナはつい最近もこれを使っていたような気がした。
何処か知らない場所を旅していて、
そこでタケル、キリカ、ユイ、イズナと出会い
困難が訪れる度に、何度もこれを・・・・・・
「いや、それは後でっと・・・・・・はあっ!」
拳を握りしめ、それを上に突き出す。
するとそこから一筋の光が放たれ、空に向かって伸びていった。
「あ、ああ!?」
上空では魔法陣が黄金色に光輝き、その光が町全体を照らしていた。
「すっげえ綺麗・・・・・・って、これで町は?」
アキナが空を見上げながら尋ねる。
「ああ。これなら町は大丈夫だよ」
カーシュも空を見上げながら言う。
「おっしゃああ! やったぜ!」
アキナは喜びのあまりカーシュに抱きつき、彼の頬にキスをした。
「ちょ、ちょっと何を!?」
思ってもみない事に狼狽えるカーシュ。
「え~、いいだろ~?」
「あの、その・・・・・・」
「あらあら、アキナちゃんったら」
「カーシュさんも顔真っ赤だね」
いつの間にかそこにはイヨとミッチー、そしてタケル達がいた。
「でもアキナって、タケルが好きだったような気がするのよね?」
イズナが首を傾げる。
「そういえばそうね、あれ?」
「いいじゃないそんな事。あんなに嬉しそうにしてるのだし」
キリカとユイが続けて言った。
「一発殴ろうかと思ったがやめておくか。町の恩人だしな」
アキナの父親は近くに落ちてた鉄棒を握りしめていた。
「いや、もしやったら殺人事件になりますって」
タケルは呆れながら突っ込んだ。
「本当によかったわい。この町はあの子達がいる限り永遠に安泰じゃろな」
町長は彼等を見つめながら呟いた。
ーーー
その頃、町外れにある高台で
「せっかく台風を起こして町を、と思ったのにあんな手で防がれるなんてね。でも諦めないわよ。この町はいつか必ず消し去ってやるわ」
そう呟く一人の女性がいた。
ーーー
そして、台風が過ぎ去ってから幾日か経ったある日
「なあ母ちゃん、これでどう?」
アキナは普段着ではなく、よそ行きのドレスを着ている。
今日はカーシュの家で勉強を教わる事になっていた。
「そうね。ばっちりよ」
「よっし! じゃあ行ってきまーす!」
アキナは猛スピードで外へ走って行った。
「・・・・・・着飾ってもあれじゃあなあ」
アキナの父親は呆れ返っていた。
「ふふ、行くなとは言わないのね」
母親は笑みを浮かべ尋ねる。
「・・・・・・止めたって行くだろ。あの時のようにな」
「そうね、皆がお腹いっぱいになれるよう、強くなるって旅に出・・・・・・え? 私ったらいったい何を?」
「俺もだ。いったいどういう事だ?」
両親は訳が解らず首を傾げていた。
そして勉強が終わった後
「あ、そうだ。アキナちゃんはクリスマスって知ってる?」
カーシュがそう尋ねる。
「ん? 聞いたことあるけど、あたいの村じゃ何にもしてなかったよ」
「うーん、そうなのか。今度この町でクリスマスのお祭りするそうだけど、よければ一緒に見て回るかい?」
「え? ・・・・・・う、うん!」
アキナは頬を染めて頷いた。
(はは。薄々は好意を抱かれている気がしていたけど、また自惚れてるのかもと思ってた。でも本当なんだね・・・・・・それと僕も知らず知らずのうちにアキナちゃんを、ね)
カーシュは心の中でそう言った。
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