第60話「クリスマス前」

「ねーちゃんに近づくんじゃねー!」

「やだね。僕はイヨと結婚するんだから」

「誰がてめえを義兄と認めるかー!」

「タケルが認めようが認めまいが、僕達の愛は変わらないよ」

 

 タケルとミッチーが言い争いながらどつき合いしていた。 


「またやってるのね、もう」

 イヨが呆れながら二人を見つめている。

「ふふ。普段は仲がいいのに、イヨの事になるとああなんだから」

 イヨとタケルの母親はコロコロ笑って彼等を見ていた。

「ええ。しかしもう姉離れしてよね、あのバカ弟は」

「……だから、せめて」

 母親が何やら小声で呟く。


「え? お母さん、何か言った?」

「ううん、何でもないわ。さ、そろそろ二人を止めたら?」

「うん、じゃあ行ってくる」

 そう言ってイヨは二人の間に割って入り、それぞれどつき倒した後、説教を始めた。


「たとえ……だったとしても、ありがとうね」

 母はまた小声で何やら呟いた。



 説教が終わり、イヨがその場を去った後

「なあタケル、今度のクリスマスパーティーでは頑張れよ」

 ミッチーがタケルにそう話しかけた。

「う、何をだよ?」

「決まってるじゃん。キリカちゃんにプレゼントでも渡して、その後二人っきりに」

「……上手くいくかな?」

 タケルが首を傾げ、不安な表情を浮かべる。


「大丈夫だって。タケルは贔屓目なしにいい男だよ。顔は彼女のお兄さんに負けてるけど、中身は町一番、いやこの世で一番かもね」

「そりゃオーバーだろが」

「いいや、僕は本気でそう思ってるよ。何というか、英雄とはこんなもんかな? って感じだよ」

 そう語るミッチーの目に嘘は見られなかった。


「……なあ、ミッチー」

「なんだい?」

「……ねーちゃんといつまでも仲良くしてくれよな」

 タケルはあさっての方向を見ながらそう言った。

「ああ。時の果てまでも変わらないよ、この想いは」




「ユイちゃん、それでいいか?」

「ええ。でもいいのですか? イズナは?」

「俺はあいつの兄になれるならそれでいい」

「……わたし、頑張ります」

 イーセとユイは何やら悪巧み?をしているようだ。


「うう、何故か兄と親友を討たなければいけない気がしてきた」

 イズナは急に涙を流し、そんな事を呟いた。




「ねえ兄ちゃ~ん、クリスマスの時はデートしようよ~♡」

 キリカが猫なで声で兄に擦り寄るが、

「いや、当日はちょっと別の用事があるんだ。すまない」

 兄は申し訳なさそうに断る。

「ヤダヤダ~! 兄ちゃんとデートしたいしたいしたい~!」

 キリカは子供のように駄々をこねた。

「年越しは一緒にいるから我慢してくれ。そうだ、当日はタケル君と一緒にいたらどうだ?」

「ええ~? ……うん、それも悪く無いわね」

 それを聞いた途端に機嫌が治った。

「そうそう。まあ、もしタケル君がキリカを無理矢理……しやがったらぶっ飛ばすがな」

「タケルはそんな事しないわよ!」

 キリカは兄に掴みかからんとばかりに怒鳴る。


「ふふ、冗談だよ。しかしなんだかんだ言って彼に気があるんだな」

「……うん、何故か気になるの」

 キリカはうつむきがちにそう言った。


「何か嬉しいような、寂しいような……なんだろな、この気持ち」

 兄はボソッと呟いた。




「なあカーシュさん。クリスマスプレゼントは何がいい?」

「ん? そうだなあ、何でもいいよ」

「じゃあさ、あたいの初めてを」

 アキナは顔を真っ赤にしながら言う。

「……それは僕が学者として一人前になってからで」

「あ、嫌じゃないんだ」

「そ、そりゃそうだよ。僕だってアキナちゃんの事が好き」

 カーシュの顔も真っ赤になっていた。


「ふっふ~ん。じゃあさ、初めての口づけならいいだろ?」

「えと、それなら」


「なあ、父親の前でそういう事を話さんでくれないか?」

 そこにはアキナの父親もいたのだが、二人共すっかり忘れていたようだ。

「す、すみません!」

 慌てて謝るカーシュだった。だが

「まあいい。早いが俺からもプレゼントだ。よろず屋で買った黒い槍で君のどてっ腹を……」

 父親は槍を構え、カーシュに近づいていく。


「ひいいいっ!?」

 カーシュは恐怖のあまり腰を抜かした。


「ちょ、やめてくれよ父ちゃん!」

 アキナが慌てて止めに入ると、


「ふん、冗談だ。しかしこの程度で怯えているようでは先が思いやられるな」

 父親は槍を降ろし、しかめっ面になって言うが、


「まあ、いざという時は体を張ってアキナを守ってくれるのだろうけどな」

「え?」

「父ちゃん?」


「さて、当日は俺も妻と二人で過ごすから、勝手にやってくれ」

 父親はそう言ってその場から去っていった。


「えと、認めてくれたという事かな?」

「そうみたいだぜ。じゃあ遠慮無く」




「クリスマス、聖誕祭を祝うなんて久しぶりじゃのう。本当に皆がここに来てくれたおかげじゃわい」

 町長は自宅の窓から町を見つめ、そのしわくちゃな顔に笑みを浮かべていた。

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