第53話「もう昔のようには……」

「え、ええええ!? せ、精霊だって!?」

 タケル達は驚きの声をあげた。


「せ、精霊なんて初めて見た」

 ユイはリカを見つめながらそう言い

「たしか精霊って、滅多に人間の前に姿を見せないんじゃなかったっけ?」

 アキナが思い出したかのように呟く。

「……可愛らしい。お人形さんみたいね、ちょっと……って危ない危ない」

 イズナは思わずリカを抱きしめたくなった。


「え、えと何で精霊様がダンに?」

 タケルが尋ねると

「ん。それはの、恩返しなのじゃ」

 そう言って精霊リカはダンの方を向き、

「一年前じゃったかの、お主は枯れかけた花に水をやったじゃろ?」

「え? あ、そういえば」

 ダンは記憶を辿って頷いた。

「そうじゃ。あの花は水を得て息を吹き返し、実をつけて種をつけ、それがまた新たな芽を……自然界の主として礼を言うのじゃ」

 リカは頭を下げる。

「そ、そんな。僕はただ水をあげただけですよ」

「その水は残り少ない貴重な水だったのじゃろ?」

「え、まあ。でも可哀想だと思って」

「その優しい心のおかげで我が眷族の命は後に繋がったのじゃ。だから少しでも恩返しを、と思っていて今回やっとできたのじゃ」

「あの、少しどころか充分すぎるくらいですよ」

 ダンは苦笑いしていた。



「自然界の主? ……え、リカ様、まさかあなたは!?」

 キリカが何かに思い当たって尋ねると

「言うでないわ。時が来るまで黙っとくのじゃ」

「は、はい」

 リカに睨まれたキリカはそれ以上何も言わなかった。


「ねえリカ様。恩返しなら領主をやっつけるってのは駄目だったの?」

 タケルがリカに尋ねる。

「そうしてやりたかったが、それは掟で禁じられているのじゃ。だからダンが仲間を揃え、領主と戦う事になった時に潜在能力を解放してやろうと思ったのじゃ」

「そういう事か。ところでリカ様、ちょっと違う事聞いていい?」

「ん、何じゃ?」

「いや、妖魔王の正体知ってる?」

「……知ってるのじゃ。だが言えないのじゃ」

 リカは俯きながらそう言った。

「え、何で? それも掟とか?」

「掟ではない。ただ私の口からは言えない、いや、言いたくないのじゃ」

 そう言ったリカの目には涙が浮かんでいた。

「あ、ごめんなさい……」

 その表情を見たタケルは何かを察した。


「いや、いいのじゃ。今私が言わずとも、いずれキリカの兄が教えてくれるじゃろ」

「え?」

 そしてリカはキリカの方を向き

「キリカ、兄上に面倒を押し付けてすまない、と言っといてくれ」

「は、はい、リカ様」

 キリカは詰りながら返事した。

「っと、すまなかったのじゃ。宴の席を暗くして」

「いえそんな。元はといえば俺が。そうだ、リカ様も一緒に騒がない?」

 タケルがリカを誘うが

「ふふ、遠慮しておく。私はもう帰らないといかんのじゃ」

 リカは笑みを浮かべて答える。

「そっか。あの、また会える?」

「縁があればな」

「わかった。じゃあまた」

「ああ、では……と、その前に」

 そう言ってリカはユイの前に近づき、懐から銀色のネックレスを取り出し

「これは精霊界の秘宝なのじゃ。持っていてくれ」

 そう言ってユイにそれを渡した。

「え? あの、何故わたしにこれを?」

「いずれわかる……すまんのじゃ。これくらいしかしてやれんのじゃ」

「え?」

「ではなのじゃ」

 そう言ってリカは姿を消した。


「いったい何?」

 ユイは首を傾げていた。


「ところでさ、さっきリカ様に何か聞こうとしてなかった?」

 タケルがキリカに尋ねる。

「ええ。でも言わなくても肯定してくれたわ。私の予想を」

「そうか。それっていったい何だよ?」

「それはここでは言えないわ。北の大陸、私の家に着いた時に教えてあげる」

「? ……ああ、わかったよ」


――――――


「……ふふ、昔と変わってませんね」

 タバサは一人、映像を見ながら呟いた。そして


「けど私は……あの時のようにあなたに甘える事は出来ない」

 その瞳から溢れた涙が彼女の頬を濡らした。


――――――


 そして翌朝

「じゃあディアルさん。ダンをよろしく」

 タケルがそう言ってディアルと握手をする。

「ええ。任せてください」


「皆さんありがとうございました。ご武運をお祈りします」

「うん、ありがと。ダンも元気でな」


 タケル達は再び北の大陸へと歩いて行った。

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