第52話「声の正体」

 町は領主が倒された事により解放された。

 残っていたチンピラ兵士や領主の側近は逃げ出そうとしたが、王都からやって来たディアル率いる部隊に全員捕縛された。


 そしてタケル達は領主の館でディアルと対面していた。

 部隊の本陣をここにしたからである。

「そっか。マオが見ていたからこんなに早く来れたんだ」

「ええ。それに元々部隊を編成していましたから、知らせを受けてすぐ出陣できましたよ」

「部隊を編成していた? 何で?」

「それはですね、今回のように王都から遠い場所で悪事を働く輩を成敗する為ですよ。それとタケルさん達の後方支援、も兼ねてます」


「え、俺達の支援?」

「ええ。兄イシャナは出来る事なら自分も一緒に旅したいが、それは無理だからせめて、と言ってました」

「……ありがとうございます。ディアルさん、イシャナ王様によろしく伝えて」

 タケルが頭を下げて言った。

「ええ、わかりました」


「さて、ダン君」

 ディアルはダンの方を向き、彼に話しかけた。

「は、はい!?」

 ダンは王国聖騎士・解放軍副司令でもあったディアルに声をかけられて緊張していた。

「イシャナ陛下からの伝言を。『申し訳なかった。当時王国騎士団長であった自分がもう少し早く気づいていたら』と」

「い、いえ。そんな」

「それとね、君さえよければ王家に仕えてくれないか、って」

「え、え? 僕がですか!?」

 その言葉にダンは慌てふためく。

「そうだよ。君のような勇気ある者が家臣になってくれたら心強いって」

「で、でも僕一人だけで領主を倒した訳じゃ」

「最後の決め手は君だったと聞いてるよ。ダメかな?」

 ダンはディアルに問われ、暫く考え込んだ後、口を開いた。

「あの、もし王家に仕えたら何処に配属されるのですか?」

「ん? もし希望があるならなるべくそうするけど?」

 ディアルが首を傾げながら言うと

「じゃあ、僕も後方支援部隊に入りたいです!」

 ダンは大きな声で答えた。


「え、何で?」

 タケルが驚きながらダンに尋ねる。

「もちろんタケルさん達の手助けがしたいからですよ。それと先程ディアル様が仰ってたように、遠い所で悪事を働く奴をやっつけたいです」

「……そっか、わかったよ」

 タケルはダンの真剣な目つきを見て頷いた。

「はい。あの、ディアル様、いいでしょうか?」


「うーん、君は十三歳だよね? 他はともかく兵士は十五歳以上じゃないと志願出来ないよ」

「え、そんな」

 ダンの顔に落胆の色が浮かぶ。だがディアルの次の言葉を聞くと

「でも私の小姓としてなら従軍は可能だ。それでいいかな?」

「は、はい!」

 満面の笑みを浮かべ、元気よく返事をした。


「お小姓は主君の夜の相手もするはず。だからディアル様とダンが……ハアハア」

「あ、そうね。ディアル様は既婚者だけど、欲求不満で美少年を……ハアハア」

「おいおい。でもそれもありかな……ハアハア」

 ユイ、キリカ、アキナがヨダレ垂らしながら何かほざいていると

「……」

 ディアルは額に青筋を立て、無言で剣を抜いた。


「じ、冗談ですってば!」

 女子三人は慌てて後退った。


「ったく。私は妻のレイラ一筋。たとえ相手が何だろうと浮気などしませんよ」

 ディアルは剣を収めてそう言った。


「よかったな、頑張れよ」

「でも無理はしないでね」

 タケルとイズナがダンの肩に手を置いて言う。

「は、はい。一生懸命やります!」

 



 その夜、ささやかではあるが祝いの宴が催された。

 明日にはタケル達もディアル率いる部隊も町を出る事になっていたので。


 その席でタケル達はダンと戦いの時の事を話していた。

「という事はさ、ダンはその謎の声のおかげで力が出せたのか?」

「はい。あれが誰だったのか……後で話すとは言ってましたが、あれから何も言ってきませんし」

「女の人、だったんだよな? もしかして最高神様かな?」

「そんな訳ないでしょ。最高神様は聖巫女かそれに近い力を持った女性にしか神託を授けないのだから」

 キリカがタケルの答えを否定した。

「そうか。じゃあ誰だろ?」

 タケルは首を傾げる。

「あのさキリカ。いっそ最高神様に聞く、てのはダメ?」

 アキナがそう言った時、


「知りたければ教えてやるのじゃ」

「!?」

 いつの間にかタケル達の側にいたのは、

 金色の長い髪、蒼い目がぱっちりとして可愛らしい顔つき。

 服装は桃色のドレスで、歳は見たところ十四、五歳といった感じの少女だった。


「え、え? 君誰?」

 タケルがおそるおそる尋ねると、

「私は精霊のリカ。ダンの力を解放する手伝いをした者なのじゃ」

 少女が名乗った。

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