第54話「皆いつものように暮らしている……?」
「あ、あれ? ここはどこ?」
彼はベッドの上で目を覚まし、辺りを見渡す。
タンスに机があり、木の板で囲われた部屋が見えた。
そこは、
「って、俺の部屋じゃんか。うーん、もうちょっと寝るか」
そう言って彼は再び目を瞑る。
「寝るか、じゃなくて起きろバカ弟」
そう言ったのは黄緑色の服を着たショートボブの少女。
「あ、イヨねーちゃん。うーん、あとちょっと」
「タケル、早く起きないとそのベッドの下に隠してるエロ本燃やすわよ」
「え、うわああ!」
彼、タケルは慌てて寝間着を脱いで着替えようとする。
「……本当に隠してたのか。冗談だったのに」
「え? し、しまった!」
タケルは顔面真っ青であたふたしていた。
「まあいいわ。あたしに欲情せずそれで発散してくれるなら」
イヨは腰に両手をあて、呆れながら言った。
「あのね、いくら俺でもねーちゃんは襲わないって」
「どの口が言うか。隙あらば胸に飛び込んでくるくせに」
「いいじゃん、姉弟なんだから」
「あのねえ……」
そう言いながらタケルが着替えた後、二人でリビングへと向かった。
「おはよう二人共。もう朝ごはん出来てるわよ」
そこには桃色の髪でとても二人の子供がいるとは思えないくらい若々しく、それでいてエプロン姿が似合う彼等の母親がいた。
「おはよ、ってあれ?」
タケルは何か違和感を覚え首を傾げる。
「ん、どうしたの?」
「母さんってそんな若くて綺麗だったっけ?」
「あらあら、おだてたって何も出ないわよ」
母親は口元を押さえ、ころころ笑っていた。
「いや……あれ、何か変だな?」
「あんたまだ寝ぼけてるの?」
イヨがジト目でタケルを見つめる。
「うーん、そうかも」
そこにタケル達の祖父もやって来た。
「じいちゃんおはよう」
「ああ、おはよう」
そう言いながら祖父はイヨの胸を掴む。
「きゃあああ!? なにすんのよーーー!」
イヨはその手を払いのけ、慌てて後退る。
「いや、また一段と大きゅうなったと思って」
「このエロジジイー!」
イヨは祖父を殴ろうと追い掛け回すが、祖父は歳の割に素早く、全然捕まえられなかった。
「まったくいつもあれだね。って、父さんは?」
「何言ってるの? お父さんはお仕事で西方大陸へ行ってるでしょ」
「……うん、そうだった。まだ寝ぼけてるのかな?」
「タケル、具合が悪いなら無理しちゃ駄目よ」
「大丈夫だよ。さ、ごはんごはんっと」
とまあ、なんやかんやとあって朝食後、タケルとイヨは家を出た。
今日は町の若者たちが町長の家に集まり、秋祭りの準備や打ち合わせをする事になっていた。
その道すがら、
「イヨ、タケル。おはよう」
二人に声をかけてきたのは、黒髪でやや童顔の少年だった。
「おはよう、ミッチー」
イヨはその少年、ミッチーに微笑みかけるが
「おい、ねーちゃんに近づくな!」
タケルがイヨの前に立つ。
「何でだよ。僕達は恋人同士なんだからいいだろ」
「いいから離れろ!」
「やだね」
タケルとミッチーが取っ組み合いの喧嘩を始めた。
「もう、この二人はいつもこうなんだから」
イヨは二人を見て呆れ返っていた。
「んじゃ、行ってきま~す!」
「アキナ、忘れ物」
「あ、サンキュー」
アキナは母親に手渡された馬鹿でかい弁当箱を持って出かけていった。
「もう、あの娘ったら」
アキナの母親は笑みを浮かべて娘を見送る。
「ははは、子供は元気が一番だろ」
そう言ったのはアキナの父親だった。
「あなた。あの娘は十五歳、もう成人なのよ」
「わかってるさ。しかし幼い頃のアキナには満足に食べさせてやれなかった。その事を思うと、ついな」
「でもこの町に越してきてからはその心配が無くなったわ」
「そうだな、俺達を誘ってくれた町長さんには本当感謝だよ」
「今日こそタケルを連れて帰り、お前と結婚させるぞ」
「だからそれはダメだって言ってるでしょ!」
とある兄妹が町長の家に向かう途中、そんな事を話していた。
「何故だ? お前だって彼が好きなのだろ?」
「うっ。で、でも無理矢理なんて」
「あいつの腕は俺やお前以上、いや町一番。それに困った人を放っておけず損する事もあるが、それがあって男女問わず人気者。こんないい婿他にいないだろが」
「私の婿というより兄さんが弟にしたいだけでしょ」
「そうだ。タケルと義兄弟になって……ふふ」
彼女は兄に殺意を覚えた。
「……イーセさんとタケルがあんな事やこんな事を、ハアハア」
鼻血を出しながら何かほざいている少女がいた。
「お、ユイちゃんじゃないか。おはよう」
兄妹の兄、イーセはその少女、ユイに声をかけた。
「はい、イーセさん、イズナさん。おはようございます」
ユイは軽く頭を下げ、二人に挨拶する。
「なあ、ユイちゃんもイズナに言ってやってくれ。タケルを婿に取れと」
「……それは聞けません。タケルの嫁はわたしですから」
ユイは鋭い目つきでイーセを睨んだ。
「い、いや。それじゃ俺がタケルと兄弟になれない」
「遠い国では盃をかわして兄弟となるという風習があるそうです。そうしたらどうですか?」
「あ、そうなのか。じゃあそれで」
「おのれらーーー!」
イーセとユイはイズナにハリセンで引っ叩かれた。
「あいつは本当にタケル君好きだな。というかそんな理由で妹を嫁にやろうとするなよ」
「そうよねー。私は兄ちゃんのお嫁さんになるわ」
「あのなあ、俺達は兄妹だろが」
「血が繋がってないんだからいいでしょー!」
「それでもダメ。俺はキリカを妹としか見てない」
「うにゃー! じゃあせめて抱いてよー!」
「アホか!」
「はあ、あの超イケメンお兄さん相手じゃ敵わないよなあ」
タケルは遠目でキリカを見つめ、ため息をついていた。
「何言ってんだよ。諦めたらそこで試合終了だよ」
「そうよ、あんたもキリカちゃんを射止めたいならもっと頑張りなさい」
ミッチーとイヨがタケルを慰めていた。
「ほっほ。皆いつも通りじゃな。本当にこの町を作ってよかったわい」
自宅から彼等を見つめていた老人、この町の町長はそのしわくちゃな顔に笑みを浮かべていた。
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