第44話「妖魔王が現れ、そして」

「あ、あれってまさか」

 タケルがその影を見上げながら言うと


「よ、妖魔王様、何故ここに?」 

 イヨがその影をそう呼んだ。


「や、やっぱりか、あれが」


 すると妖魔王は悪の総大将とは思えない程の美しい声、優しい言葉でイヨに語りかけた。 


- イヨ、あなたは死んじゃ駄目。さあ、戻って来なさい -


「え? ですがあたしは」


- 神剣士達をそこまで追い詰めたのだから、それで充分よ。後は私がやるわ -


「は、はい」

 イヨが返事をすると、彼女の体が黒い霧に包まれ、あっという間にその場から姿を消した。


ー よしよし。さて、神剣士達よ。……このまま城と共に消えなさい。 ー


「な、何だと、ってうわああ!?」

 城全体が激しく揺れ出した。


ー ふふ。城には新たに結界を張ったし、傷ついたあなた達に逃げる手段はない ー


「それならその前にてめえを倒すまでだ はあっ!」

 タケルが光竜剣を放ったが、それは妖魔王を素通りした。


「え!? な、何で!?」

「あれはもしやただの幻影か!」

 アキナとイーセが叫ぶと


- ええそうよ。私が直接そこで相手してもよかったけど、それだと厄介な奴が出てくるわ。だから影だけ送ったのよ -


「厄介な奴? 誰だそれは!?」

 タケルが尋ねると


- あなた達は知らないわよね。まあ、死んでから知って。じゃあ -


 そう言った後、妖魔王の影は消えた。


「え……って考えるのは後だ! 皆逃げるぞ!」

 タケルはキリカに駆け寄り、彼女を担ぎながら皆に言った。

「あ、ああ!」


 そして大きく揺れる城の中を全力で駆けていき、門の前まで来たが……。

「ああ!?」

 門はおそらく妖魔王が出したであろう大岩で塞がれていた。



「よし、あたいが……猛虎烈光波!」

 アキナが気孔弾を放つが、大岩はビクともしなかった。

「な、なんでだよ!?」

「あれも妖魔王の結界だろう。私の技でもおそらく無理だな」

 イーセが大岩を睨みながら言う。

「うう、転移魔法はおろか、どの魔法も発動しない。なんて強力な結界なの」

 ユイも悔しそうに言う。

「こ、これまでか。俺もあれを砕ける程の力はもうない」

 イシャナはその場にへたれ込んだ。


「よし、俺がもう一度神力フルパワーで技を……うっ!」

 タケルは突然胸を押さえて倒れた。

「ど、どうしたんだ!?」

 アキナが駆け寄ってタケルを抱き起こす。

「な、何か胸が、あ……」

 タケルは気を失った。

「おい!? し、しっかりしろ、タケル!」

 アキナがタケルの体を揺するが、反応がなかった。

 

「……もしかしてあれは」

「ユイ、何か知ってるのか?」

 イーセが尋ねると

「うん。以前キリカに聞いたんだけど、神力ってそう何度も使える物じゃない。あまり使うと体に異変が起こるって」

 ユイはそのキリカを抱きかかえながら言った。

「え、では今までどうしてたんだ?」

「負担がかかるほど使ってなかったのかも。でもイヨとの戦いで全力を出し尽くして、それが今になって」

「そうか……ではタケルはどうなるんだ?」

「少なくとも今日一日は目が覚めない。いえ、覚めたとしても神力を使えないかも」

 ユイは項垂れながら言った。


「いや、聖巫女なら神剣士の力を元に戻せるであろう」

 そう言ったのはツーネだった。

「え? そうかもしれませんが、でも」

 ユイはキリカを見つめた。

「わかっている。だからこうするのだ」

 ツーネはそう言ってユイとキリカの側に近づき、手をかざした。そして

「……神よ、我が命をもって聖巫女キリカを……はああっ!」

 その掌から神々しい光が放たれ、それがキリカを照らした。


 すると


「ん? あ、あれ? 私はいったい?」

 キリカが目を覚まし、立ち上がって辺りを見渡した。

「え、えええ!?」

「キリカ!?」

 ユイとイーセが驚き叫んだ。


「う、上手くいったようだな……さあ聖巫女キリカよ。神剣士タケルに力、を」

 そう言ってツーネはその場に倒れた。

「へ、陛下!」

 イシャナが慌てて駆け寄り、ツーネを抱き起こす。


「こ、これってまさか、自己犠牲蘇生術?」

 キリカがそれに思い当たって呟くと

「そ、そうだ。さあ、余に構わず……早く」

 ツーネは息も絶え絶えでタケルを指さした。

「え、は、はい!」

 キリカはアキナの側に駆け寄り、驚き戸惑う彼女からタケルを奪い取った。

「タケル……」

 キリカはタケルを見つめ、そっと口づけする。すると二人の体が光り輝き出した。


「ん、あれ? 俺はいったい?」

 そしてタケルが目を覚ました。

「……よかった」

 キリカが涙ぐみながら言う。

「え、キリカ? ここってあの世?」

 タケルがキリカを見つめながら言う。

「違うわ、現世よ。ってそれより早くあれをぶっ壊して!」

 キリカは大岩を指さした。

「あ、うんわかった! よーし、今度こそ神力フルパワーで!」

 タケルは剣を構えると、神力が剣に伝わっていく。


「絶対にこっから出てやる……龍鳳神聖剣!」

 そして技の名を叫びながら勢い良く剣を振り下ろすと、そこから光り輝く神力が放たれ、大岩に直撃した。

 そしてそれは轟音を立てて消え去り、そこから陽の光が差し込んだ。


「よっしゃ! さあ皆、行くぞ!」

「ええ!」

 タケル達がそこへ向かって駆けて行こうとしたが、その時天井が崩れ落ちてきた。


「え、そんな、ウワアアアーー!?」


 そしてタケル達がいた場所は瓦礫の山となった……。

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