第45話「気がつくとそこは」

「う、ん? あれ?」

 彼が目を覚ますと、そこは何処か部屋の中のようだった。

 

「気がついたようだね」

 その彼、タケルに声をかけたのは

「あ、マオ?」

「そうだよ。よかった目が覚めて」

 大神官マオだった。


「えと、ここどこ? 俺はいったい?」

 タケルはベッドの上で起き上がり、マオに尋ねる。

「ここは解放軍本拠地の医務室だよ。君は丸一日眠ってたんだよ」

「そんなに? てかどうしてマオがここに?」

「前にも言ったけど、僕は君達の様子を見てたんだよ。で、今回もピンチだったから駆けつけたけど、着いた時には既に妖魔王の結界が張られていて城の中に転移できなかったんだよ。でも君が結界を破ったので、姉さんやナナちゃんの力を借りて既の所で君達を救いだしたんだよ」


「そうだったのか。あ、じゃあ皆無事なんだ」

「もちろんと言いたいけど、ツーネ王だけは助からなかったよ」

 マオは首を横に振って答えた。

「え、何でだよ!?」

 タケルが驚いて尋ねる。

「あの方はキリカさんに自己犠牲蘇生術をかけたからね。僕もなんとか王をお助けしようとしたけど、力及ばなかった」

 マオは俯きがちになって言った。

「そ、そうだったのか? キリカはあの人のお陰で……知らなかった」

「あの状況じゃ仕方ないよ……さ、もう他の皆は起きてるから、顔を見せてあげたら?」

「あ、うん」


 そしてタケルは皆は会議室に集まるからと言われ、そこへ向かった。

 

「お、やっと起きたか、神剣士」

 部屋に入るなりそう言ったのは、軍師で狩人のソウリュウだった。

「うん。ソウリュウさんは怪我とかしてない?」

「俺は軍師だから前線には殆ど出ねえしな。でもありがとよ」

「いえ。でも王様は」

「それは武門の習い、気にするな。それに王も聖巫女を救って逝けたのだから本望だろうさ」

「そうだな。陛下は民を思い、国を、世界を思う方だった」

 そう言ったのは解放軍司令官、槍騎士イシャナだった。

「イシャナさん。あの」

「ソウリュウの言うとおり、気にするな。ああ、陛下は最後にこう言ってたんだ」

「え、何て?」

「『許されるなら天から神剣士達の行く末を見守らせてもらう』ってさ。それと、う~ん」

 イシャナは何か言い淀んでいた。


「お前に新しい王となれ、だろうが。まあ自分じゃ言い難いわな」

 ソウリュウがニヤニヤしながら言う。

「え? イシャナさんが王様に?」

「そうなんだよ。マオ殿がご丁寧に王の言葉を記録してたもんだから、聞いてなかった事にもできんしなあ」

 イシャナは困り顔になっていた。

「あのなあ。ツーネ王には跡継ぎがいないんだから、何もなくてもいずれお前が選ばれてただろうよ。お前って遠縁だけど王家の血筋だし」

 ソウリュウが呆れながら言うと

「え、王様って子供いなかったの?」

 タケルがソウリュウに尋ねた。

「そうだ。王妃は体が弱くて出産に耐えられそうもなかったからな。だから王に側室を取れとか言ったアホな家臣がいたが、次の日には遠隔地に飛ばされたわ」

「王妃様を凄く愛してたんだね。あれ? その王妃様は」

「イーセが旅に出た頃に亡くなったよ。今頃は二人で仲良くやってんだろな」

 ソウリュウは天井を見上げてそう言った。


「うーん、でもなあ。俺はこんな大国を治める自信ないぞ」

 イシャナがまだ悩んでいると

「なら国を何等分かして、それぞれ別の人に治めてもらったら?」

 タケルがそんな事を言った。

「ん? ……そうだな。よし、一旦は俺が跡を継ぐよ。そして落ち着いたらタケルの意見も参考にして考えるとするよ」

「うん。あ、そうだ。王様は妖魔王の正体については」

「そこまでは聞けなかったよ。もしかすると書物にでも残してるかもしれんが、城は瓦礫の山になってるし、あったとしても見つけるのは至難の業だろうなあ」

 イシャナが首を横に振って言った。

「そっか……でもいいか。この先の旅でわかるかもしれないし」

「そうだな。俺やソウリュウも復興の合間に調べておくよ」




「あ、タケルさん。目が覚めたんですね」

 扉を開けて入って来たのはディアルだった。そしてその後ろには

「あ、タケルだ~」

「おや、やっと起きたとね」

 ナナとマアサもいた。


「あ、うん。てか二人共、来てくれてありがとう」

「えーとよそんな事、うちも役に立ちたかったもん。さっきまで怪我人の治療しとったし」

「あたしもマアサお姉ちゃんのお手伝いしてたんだよ~」

「そうか。偉いな」

 タケルはナナの頭を撫でてあげた。

「うん。あと修行もちゃんとしてるよ~、回復魔法も使えるようになったし~」

「え、マジで?」

「そうとね。ナナちゃんは魔法使いかと思うとったけど、調べてみたらどんな魔法も使える素質があったとね」

 マアサがナナの頭を撫でながら言った。

「あの、それって賢者じゃないの?」

「それとは違うとね。なんというか、規格外と言うしかなかと」 

「そうか。じゃあいずれは世界最強魔法使いになるかも」

「え~? あたしそんなのよりお嫁さんになりたいな~」

 ナナが頬を赤く染めながら言う。

「え、誰の? ……まさか」

「マオの~♡」

 ズコオッ!


「な、何で? てかお前、ねーちゃんの事が好きなんじゃ?」

 タケルがよろけながら立ち上がって聞くと

「あのね~、マオがあーんな事やこーんな事してくれ」

「おのれロリコン成敗してくれる!」

 タケルは剣を抜いて医務室へ駆けていこうとしたが、

「いえタケルさん、奴は私が捕縛してきます!」

 そう言ってディアルが駆けていった。


「うわ、いいなあ。俺もナナちゃんと(ズキューン!)してえぜ」

「龍鳳神聖剣!」

 チュドーン!


「あ、ガ」

 変態は消し炭となった。


「あーたら落ち着いて話聞かんとね。マオはそげなやらしー事しとらんよ」

 マアサが呆れ返りながら言った。

「え、マジ?」

「うちが見張っとるから、せいぜい水晶球で覗きしかしとらんとね」

「いや、覗きも止めんか!」

 マアサの後ろにいた背の高い女性がそう言った。

「あれ、どちら様?」

 タケルが首を傾げながら尋ねると

「……イーセだ。いや、もうイズナだな」

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