第43話「聖巫女が倒れ、神剣士と妖魔剣士の勝敗が」

「……え?」

 タケルは何が起こったかわからずにいた。

 たしかに胸を突き刺すような音がしたが、彼は生きている。

 そしておそるおそる目を開けると、


「あ、ああっ!?」

 タケルはその光景を見て声を上げた。


「タ、タケル」

 イヨの剣はタケルではなく、その前に立ち塞がったキリカの胸に突き刺さっていた。


「な、あんたまだ動けたの!?」

 イヨも予想外の事に驚いているようだった。


「え、ええ。私は蹴り飛ばされただけだったから、グフッ!」

 キリカの口から血が流れる。


「ま、まあいいわ。ふん!」

 イヨはキリカの胸から剣を抜いた。

「さて、ん?」


 するとタケルがキリカに駆け寄った。

「キ、キリカ、何で!?」

「何で、って、あなたは死んじゃダメ、でしょ」

 キリカは息も絶え絶えだった。

「そ、そんなのキリカだって同じだろが!」

「う、ううん、あなたは、神剣士。この世界を覆う闇を祓える、のはあなた、だけ」

「で、でも俺は」


「まあ、少し待ってあげるわ」

 イヨは剣を降ろし、じっと二人を見つめていた。



「タケル、イヨと戦いたくないかもしれないけど、ね……あいつを放っといたら、アキナも、ユイも、イーセも、お祖父さんも、皆も……だから、ゴホゴホッ!」

 キリカは喉に血が詰まったのか、苦しそうに咳き込む。

「いいからもう喋んなよ!」

「う、ううん。……もう私、回復魔法、効かない。だから、最後に、言うわ」

「な、何を」

「私は、あなたが……す」

 最後まで言い終わらないままキリカは目を閉じた。


「え……あ、そんな……ウワァーー!」

 タケルはキリカを抱きしめて泣き叫んだ。


「う、嘘だ、キリカが」

「ぐ、そんな」

「キリカ、それずるい……うう」

 アキナ、イーセ、ユイがそれぞれ倒れたまま呟き、目に涙を浮かべた。


「ふふ、そんなに悲しまなくてもいいわ。すぐに後を追わせてあげるから」

 イヨはそう言って剣を振り上げ、タケルに近づいた。


「ねーちゃん。いや、イヨ」

 タケルがそのままの体勢でイヨに話しかけた。

「ん、何よ?」

「俺……あんたを倒す。そして妖魔王も」

「ふん、あんたに出来るの?」

「ああ、やってやる!」

 タケルが立ち上がり、キッとイヨを睨みながら剣を抜いた。


「さっきまでとは違うわね。でも気合だけであたしは倒せないわよ」

 イヨも剣を構え直し、タケルを睨む。


 そして

「でりゃああ!」

 タケルがイヨに斬りかかる。


「ぐ!? お、重い!」

 イヨはタケルの剣撃を受け止めたが、その威力に驚いていた。


「はあっ!」

 タケルはすかさず後ろに下がって間合いを取り、


「そりゃあ!」

 右に左にと斬りかかった。


「や、やるわね。正直これ程とは思ってなかった……いや、もしかして怒りでパワーアップしてる?」

 イヨは内心動揺しながらもそれを受け止めていき、反撃の機会を狙う。

 

「おりゃあ!」

「キャアっ!?」

 だがタケルが先にイヨを蹴り飛ばし、息を整えながら構えをとった。


「これが、未完成だけど今俺が撃てる最強の技だ」

 タケルの全身から気が、いや神力が湧き出て、それが剣に伝わっていく。


「……ふふ、いいわ。あたしの最強奥義でその技ごとあんたを葬ってやるわ!」

 イヨは気を取り直し、己の剣に黒い気を集め、構えをとった。



「な、両者ともなんという気だ」

 イーセはそれを見て足が竦み、

「あ、ああ。俺なんかじゃ勝てないくらいの」

 なんとか近くまで這ってきたイシャナもそれを見て眉を顰める。

「あ、あ、凄え」

「う、うん。どう言えばいいの」

 アキナとユイは倒れたキリカの側で二人を見つめていた。


「皆の者、余の後ろへ来るのだ」

 いつの間にか気がついたツーネが立ち上がって言う。

「え? へ、陛下。何を?」

 イシャナが這ったまま尋ねる。

「あれ程の技が激突すればこちらにも余波が来るだろう。だから余が気で防御壁を張るが、多少の衝撃は覚悟してくれ」

「え、ええ。陛下、すみません」

「気にするな。お前は余やディアルと違って防御壁は張れぬであろう」



「行くよ、イヨ……龍鳳神聖剣!」

「ええ、タケル……妖魔漆黒剣!」


 二人が同時に技の名を叫びながら放った。


 


 玉座の間が吹き飛ぶ程の大爆発が起こった。

 やがて視界が晴れ、辺りを見渡すとそこは瓦礫の山となっていた。そして


「あ。タ、タケルが」

 アキナが指さした場所では、タケルが片膝をついて息を切らしていた。

 そして、


「イヨは」

 ユイが見た先には、イヨが仰向けに倒れたいた。



「ど、どうやらタケルが勝ったようだな」

 イシャナが安堵の声をあげるが

「ああ。だが代償は高くついた……うう」

 イーセは涙声でそう言った。


「はあ、はあ……イヨ」

 タケルが立ち上がり、イヨに声をかける。


「ぐ、お、おのれ、こうなるならさっさと殺っておけばよかったわ」

 イヨは自分が甘かったと憎々しげに言う。


「イヨ、ねーちゃん」

 タケルはイヨをまたそう呼んだ。

「……ふん、何よ?」

「なあ、どうあっても妖魔王の味方するのか?」

「ええ……でも、こんな無様を晒しては。さあタケル、あたしを殺りな」

 イヨが目を瞑って言う。

「やだ。俺はやっぱねーちゃんを殺したくない。何でか知らないけど、俺はあんたを本当のねーちゃんのように感じるんだ」

「……実を言うとね、あたしもよ。あんたって何か弟みたいに感じる時があったの。……まあいいわ、さあ」

「だから俺は」

「あたしはあんたの仲間の仇よ。さっさとしな」

「う、ああ」

 タケルが躊躇いがちに剣を振り上げたその時、突如辺りが揺れ出した。


「え、地震かよ!?」

 タケルが驚きながら辺りを見渡す。


「ち、違うわ。これはまさか」

 イヨが何かに思い当たる。


 すると天井近くに人型の黒い影が現れ、それが声を発した。


- ふふ、よくイヨを倒したわね。神剣士タケル -

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