第41話「正体」

 凄まじい轟音が響き、爆風が起こった後、辺りは静寂に包まれた。


「う……ど、どっちが?」

 タケルが顔を上げ、イシャナとツーネがいる方を見ると、両者ともその場に倒れていた。


「あ、相打ちか?」

 タケルがそう言った時


「ぐっ……」

 イシャナがよろけながらも立ち上がった。


「あ、イシャナさんが、え?」

 その後すぐツーネも立ち上がった。

 そして彼はイシャナを見つめ、

「……よくやった。イシャナ、お前の勝ちだ」

 そう言って倒れた。

 すると、


「あ、ああ!?」 

 ツーネの体から黒い気が吹き出し、それが人の形となった。


「やっぱり妖魔が憑いていたのか。だけどもう弱ってるな」

 タケルが剣を構えながら言う。


「お、おのれ……戦乱から生まれる悪しき縁は我ら妖魔にとって極上の糧だったのに、よくも」

 妖魔が憎々しげに言う。


「そうかよ。でもこれで終わりだ、はああっ!」

「ギャアアアーーー!」

 タケルが光竜剣を放ち、妖魔を消し去った。




「余は本当に闇に飲まれていたようだな。すまなかった」

 その後気がついたツーネは頭を下げて謝罪した。

「余はただこの世界を覆う闇をなんとかして祓いたかった。その為に軍備を強化し、元凶の妖魔王と一戦交えようとしていたのだが、いつしか……それは余の心の何処かに『世界の覇者になりたい』という欲望があったからかもな」

 ツーネは項垂れながら言った。


「あ、あの? 王様は妖魔王の事を知ってたんですか?」

 タケルが驚きながら尋ねる。

「ん? ああ、イーセが教えてくれたからな。そうだろう?」

 ツーネはイーセを見つめた。

「陛下、この者は我々が知るイーセではありません。だいたいイーセは三年前に亡くなったでしょうが」

 イシャナは「いらん事言わないで」と目をパチパチさせながらツーネに話しかけるが、

「余はまだボケてはおらん。そこにいるのはイーセの妹、イズナであろう?」

 ツーネは空気を全く読まずに言った。


「え、あ、あの、俺は、その」

 イーセは慌てふためいていた時

「ねえイーセ、もう自分は女の子だって言ったら?」

 タケルがしれっと言った。


「な、何を言ってるんだお前は!? 何を根拠にそんな事を!」

 イーセが声を荒げてタケルを睨みつけるが

「根拠ならあるよ。最初に抱きついた時、胸が柔らかかったし股間に感触なかったし」

「な、な、だがそれだけなら」

「そしてマオに水晶球で見せてもらったんだ。イーセの着替えシーンや入浴シーンをさ」

 ドゴオッ!

 タケルはイーセに剣の鞘でどつかれて沈んだ。


「あ、あのエロ神官め。彼なら余計な事は言わないと思ったのが甘かった」

 イーセは握り拳を作ってワナワナと震えていた。


「え? イーセって本当に女の子なの……ん?」

 キリカがある事に思い当たった。

「イテテ……ん、どうしたんだよ?」

 復活したタケルが尋ねると

「ねえタケル、て事は私達のも見たのよね~」

「なあタケル、見物料としてその命貰っていいか~」

「ねえタケル、わたしのは見ていいけど他は見ちゃダメ~」

 キリカとアキナとユイが額に青筋を立て、タケルを睨みつける。

「あ、しまった……ギャアアアーー!」

 タケルは女子達にフルボッコにされた。


「ハハハハ。イシャナ、なかなか愉快な連中を仲間にしたのだな」

 ツーネが笑いながら言う。

「……はい、ですがあの少年は神剣士です」

「そうか。彼がイーセが探していた」

 

「え? あ、あの陛下。私は兄から神剣士の事以外は何も聞いてなかったのですが、何かご存知なのですか?」

 イーセ、いやイズナがツーネに話しかけた。

「そうか、イーセはそなたには話してなかったのか。では余が知っている事を話すとしよう。とその前に」

「はい?」

「あれを止めてこい。彼等にも聞いてもらわないといかんだろうからな」

 ツーネはフルボッコ中のキリカ達とタケルを指さした。

「……はい」




 そしてタケル達も来てからツーネは話し始めた。

「あれは五年前だったか。我が王家に仕え、王国最強剣士でもあったイーセが急に旅に出たいとか言ってきおった。何故かと問うと彼は神剣士を探し出し、共に世界の闇を祓いたいとな」

「俺を探しに」

 タケルが自分を指さした。

「ああ。それとどうやって調べたのかは知らんが、イーセが言うには敵は妖魔王というもので、それは遥か西の大陸にある高き塔にいるらしい」

「え、西の大陸って人が住んでいないと言われる未開の地ですよね?」

 キリカが尋ねると、

「そうだ。だからこそ妖魔王はそこを本拠地にしたのかもな。だが肝心の神剣士の居場所がわからん。ならば余が布令を出そうかと言ったが、それでは敵に感付かれるとも言われてなあ」

「そりゃそうですよ。てか俺もそれ聞いてませんでしたよ」

 イシャナがそう言うと

「ソウリュウはともかくイシャナに言ったら自分も着いて行くと言い出しかねん。それでは国の守りが手薄になると」

「……あの野郎。俺がそんなに信用ならんか」

「まあ、ともかく事を秘密裏に進める為に、イーセは一人旅に出たのだ」


「でも私は着いて行きました。兄からは何度も帰れと言われましたが、最後は根負けしたのか何も言わなくなりました」

「そうだったか。そして」

「はい。あの時……山道を歩いていた時でした。兄は落石から私を庇い、自分が下敷きになった後、道が崩れて谷底へ……私がいなければ兄は、と何度も思いました」

 イズナの目には涙が浮かんでいた。

「そしてそなたはその後、男の格好をして旅を続けていたのか」

「はい、兄の代わりにと思って。そして長い旅の末、タケル達に出会い、今ここにいます」

「ウム。イーセも天で喜んでいるだろうな。さて、後は……そうだ、イーセは妖魔王の正体についても言っておったな」

 ツーネは顎に手をやりながら言う。

「え、妖魔王の正体ですって!?」

 キリカが驚きの声を上げた。

「ああ。これもどうやって調べたのかは知らぬがな。妖魔王は……グアアアア!?」

 その時天井の方から黒い雷が轟音を立てて落ち、ツーネを襲った。


「あ、ああ!?」

「陛下!」

 皆がツーネに駆け寄った時、頭上から声が聞こえてきたので見上げると


「余計な事言うんじゃないよ。まあ、全員死ぬから関係ないかもね」

 そこにはあの使い魔イヨが浮かんでいた。

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