第40話「主君と家臣の戦い」

 タケル達はその後王城のバルコニーに降り立ち、前線に戻るべく飛び立ったトランと別れ、イシャナを先頭に玉座の間へと向かう。


 その途中、誰とも会わずに長い廊下を走り、玉座の間までやってきたが、

「……誰もいない?」

 玉座を見ながらタケルが呟く。

「ああ。もしや逃げたか?」

 イーセが辺りを見渡して言った時、


「よく来たな、イシャナ」

 いつの間にか玉座に座っていたのは、髪型はオールバック、目つきは鋭く口元に髭を生やしている四十代位の男性。

 服装はイシャナが着ている物と同じデザインの軍服。

 そして赤黒い柄の槍を手にしている。


 イシャナは黙ってその男性を見つめていると、

「どうした? 余を討ちに来たのであろう?」

 その男性、タイタン国王ツーネが話しかけてきた。

 

「いえ陛下。俺達はあなたに巣食う闇を倒しに来たのです!」


「ほう、それはまた面白い事を言うな。余に闇が巣食っているとはな」

 ツーネはイシャナの言葉を聞いて笑っていた。

「陛下。以前のあなたは民を思い、国を思い、空を覆う闇を見上げては憂えていました。ですが今はあろう事か世界征服などと」

「イシャナよ。余は民を思うからこそ、我がタイタン王国の元に世界を統一しようとしているのだ」

「民に重税を課して兵に仕立て上げ、逆らう者を始末し、他国を侵略する。それでですか?」

「そうだ。そして余が皇帝となり、世界を治めるのだ」

 

「ですがもう陛下に従う者はいません。王国軍の兵士達は降伏、あるいは逃げ出しました」

「それなら心配無用だ。余は新たな力を得た。このような力をな」

 そう言ってツーネが手をかざすと


「え? あ、アアア!?」

「な、何これ? う、頭が割れそう」

 イシャナやタケル達がその場に蹲った。


「ほう? これは洗脳術なのだが、即座に効かないとはイシャナはともかくその小僧や小娘達も相当な強さなのだな」

 ツーネが感心したかのように言うが

「だがじきに効いてくるだろう。そして余に忠実な部下として生まれ変わるのだ。フハハハ」




「ぐ、ウウ、クソ、負けてたまるか……よし」

 タケルが気を集中し始めると、額の紋章が光り輝き出し

「効いてくれよ……はああっ!」

 そして気合を入れると、額の光が仲間達を照らした。


「アアア……あれ? 治った?」

「え? こ、これはいったい?」

 キリカ達は正気に戻った。


「な、何!?」

 ツーネはそれを見て驚きの声をあげた。


「ふう、神力なら、と思ったけど上手くいってよかった」

「タケル……どんどん神剣士らしくなってるわ」

 キリカはタケルを見つめ、頬を染めていた。


「よっしゃ! 今度はこっちから」

「待ってくれ」

 アキナが飛び出そうとしたのをイシャナが止めた。

「え、何だよ?」

「陛下とは俺一人で戦わせてくれ」

「へ? でもさ」

「アキナ、イシャナさんの言うとおりにしよう」

 タケルがそう言ってアキナの肩を叩いた。

「う~、そうだ。皆はどう思うんだよ?」

 アキナがそう言うと、


「イシャナ殿。万が一あなたが敗れそうになった時は俺達が割って入るが、いいか?」

 イーセがイシャナに尋ねる。

「ああ構わんよ。その時は俺、自害するから」

 イシャナはしれっとそう言った。

「……それ、ようするに『手を出すなよ!』ですよね」

「そうだよ。君の兄貴なら俺の言うとおりにしてくれたんだけどなあ」

 イシャナは小声でイーセにこう言った。

「え、あの、もしかしてソウリュウ殿に聞いた?」

 イーセが冷や汗をかきながら尋ねる。

「いいや。もしかしてその話をしていたのかと思ってな、カマをかけたが正解だったようだな」

「うっ!? ……あ、あの」

「言わないって。でも手を出すならどーしよかな~」

 そう言って顎に手をやり、ニヤニヤしながら考え込むフリをする。

「わかりました。黙って見てます」

 イーセはすごすごと引き下がった。


「私は止めませんよ」

「わたしも」

 キリカとユイも賛成し、アキナは

「皆が言うなら……いいよ」

 しぶしぶ同意した。


「ありがとう。では」

 イシャナは手にしていた槍を構え、ツーネと向かい合った。

「ほう、余に槍で勝負を挑むか。よし、余も小細工は抜きでやってやろう」

 ツーネも槍を構え、イシャナを睨みつける。


「……はっ!」

 イシャナが槍を突き出しながら踏み込む。

「ふん!」

 ツーネはそれを己の槍で弾き、イシャナの胸を目掛け槍を突くが、今度はイシャナがそれを弾く。

 そしてしばらく槍の打ち合う音が続いた。


「す、凄えぜ。ツーネ王ってホントにイシャナさんと互角なんだ」

 アキナが二人の攻防を見て驚き、

「ああ。しかし何故王の実力が知られていなかったのだ?」

 イーセは首を傾けながら言う。


「ふん。余が全てにおいて目立ってしまうと家臣の立つ瀬がないからなあ」

 ツーネはイシャナと打ち合いながら呟いた。

「……そうですね。あなたは本当に部下を、民を思う方でした。そして俺はそんなあなたに憧れていました」

 イシャナは涙ぐみながら言う。

「そうか……せりゃあ!」  

「うっ!?」

 ツーネはイシャナの槍を叩き、後ろに下がって間合いを取った。


「イシャナよ。裏切りはしたが、それまで余に尽くしてくれた事に礼を言おう。そして」

 ツーネの槍先に黒い気が集まっていく。

「新たに得たこの技で貴様を葬ってやる」


「そ、それは? 陛下、やはりあなたは」

「余は余だ。さあ、どうする?」

「……ならば俺も」

 イシャナは先程城門を破壊した技の構えを取った。


「やはりそれで来るか。かつて余が授けた奥義で」

「ええ。これは本来なら王家嫡流のみに伝えられるもの。それを俺に」

「ふん、そのような事に拘っていては世界征服など出来んわ。さあ」

「ええ」


 両者の気が高まっていく。

 

「……行きます! 天空雷光閃!」

 イシャナの槍先から稲妻の如き気が放たれた。


「暗黒雷光閃!」

 そしてツーネの槍先からは黒い稲妻の如き気が。



「やばい! 皆伏せろ!」

 タケルの叫びを聞いてキリカ達がその場に伏せた。


 そして凄まじい轟音が玉座の間に響いた。

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