第39話「合戦、決闘、そして決着」

 トランに乗り空から王城へと向かうタケル達だったが


「行かせてなるか!」

 その行手には新手の竜騎兵達が待ち構えていた。


「く、まだいたのかよ!」

「慌てるなタケル。俺に任せておけ」

 足元のトランが話しかけてきた。

「どうするんだよ? まさかあの飛竜達ってあんたの言う事聞くの?」

「聞かんだろうな。だからこうするのだ。……カアアッ!」

 トランがいきなり吠えたかと思うと


「シギャッ!?」

「ガル!?」

 敵側飛竜達の動きが止まった。


「お、おいどうした!?」

「こら! あいつらに近づけ!」

 竜騎兵達が飛竜に命じるが、その場から動かない。

 どうやら怯えてるようだった。


「え、何があったの?」

「俺の気迫で奴等を怯ませたのだ。これでしばらく奴等は動けんだろうな」

 トランが前を見たままタケルに言う。

「そ、そっか。凄え」

「ふふ、では行くぞ!」

 トランは再び猛スピードで城へ飛んで行った。




「よーし、副司令官。全軍に号令を」

 ソウリュウがディアルに声をかける。

「ええ。解放軍、中央に再び突撃!」


 解放軍約二千名は敵主力部隊と戦闘開始した。

 

「小癪な! 全軍で囲い込め!」

 王国軍の将軍が命令したが

「将軍! 今の攻撃を見て怯んだ傭兵達が脱走しています!」

「一般兵達は命じてもその場から動きません!」

 伝令兵が次々と報告してきた。

「な、何だとぉ!?」


「ふふ、金で雇ったゴロツキ傭兵なんてもんはな、不利だと悟ったら即逃げ出すのがオチだ。そして一般兵はほとんど無理矢理兵士にされた領民。そいつらは動かないだけでもありがたいが……どうなるかな?」

 ソウリュウは口元をニヤリとさせた。



 

 その頃、敵陣右翼のとある場所で一般兵の男二人が話していた。

「な、なあ。このまま王国軍が負けたら俺達も」

「馬鹿な事言うな! イシャナ様はそんな事許さねえだろ!」

「そ、そうだよな……なあ。黙って見てるだけでもお咎めはないだろけどさ」

「……解放軍に寝返る、か?」

「うん。そして少しでも役に立とうぜ。このままじゃ自分が情けなすぎるよ」

「そうだよな。今まで悪政に逆らいもせず……俺も自分が情けねえぜ」

「なあ」

「ああ。おい、皆はどうする!?」

 男が他の兵士達に声をかけると、皆口々に賛同の声をあげた。

「よーし! 皆行くぞー!」

 オオー!


 きっかけは二人だったが、それが十数人に、そして百人、二百人と増えていき……やがて右翼にいたほとんどの一般兵が王国軍に襲いかかった。

 それを見た左翼の一般兵も「自分達もやってやる」と解放軍に寝返った。



「よっしゃあ! これで逆転したぜ!」

 ソウリュウが指を鳴らしながら叫んだ。 


 王国軍は負傷した兵を除いて残り六千人程、解放軍は寝返った兵士達を加え、約一万二千人に膨れ上がった。

 そして王国軍からも次々と離脱者、投降者が出てきた。


 

「お、おのれ」

 将軍は戦局を見ながら歯軋りしていた。

「も、申し上げます! 敵軍がすくそこまで……あっ!?」

 伝令兵が言い終わる前に解放軍騎馬兵達が本陣に入って来て、その中からディアルが前に出てきた。


「あなたが前線司令官でしたか。将軍」

 ディアルは将軍に声をかけた。

「……ああ。貴様は反乱軍副司令官だったな。あの弱々しかった小僧が立派になったものよ」 

 どうやら二人は古くからの知り合いらしい。

「将軍、我々は解放軍ですよ」

 ディアルが訂正するが、

「フン! 王家に反旗を翻しておいて解放軍などとは片腹痛いわ!」

「民を苦しめる王を諌めるのが反乱ですか?」

「グッ……だが王が世界を治めれば」

「もっと多くの人達が苦しむでしょうね。それでは妖魔王の思う壺です」

「ん、何だそれは?」

「妖魔王とはこの世界を覆う闇を出した張本人。そして妖魔達は人々の……」

 ディアルはタケル達から聞いた事を将軍に語った。


「という訳です。ですから将軍、剣を収めてくれませんか?」

「ふふ、他の者が言えば何を戯けた事をだが、お前がそのような戯言を言う男でないのは知っている。しかし儂はどんな事があっても王を裏切らん。どうしてもと言うなら……儂を倒してみろ!」

 将軍は腰に差していた剣を抜き、構えをとった。

「わかりました。では」

 ディアルも剣を抜いて構えた。


「他の者達は手出しするな! これは決闘である!」

 将軍の声が辺りに響くと、敵味方関係なく一斉に武器を降ろした。



「せりゃあ!」

 将軍が踏み込み、ディアルの頭上目掛けて剣を振り下ろす。


「はっ!」

 だがディアルはそれを己の剣で受け止め、素早く体を捌く。

 そして今度はディアルが将軍の腕目掛けて剣を振るが、


「ふん!」

 将軍は素早く剣を振り、それを弾き返す。

 そして間合いを取りながらディアルに話しかけた。


「流石だな。だがまだ本気ではあるまい?」

「そんな事ありませんよ。これでも」

「これは戦争だ、遠慮無くかかって来い! お前の実力がその程度でない事は儂とて知っているわ!」

 将軍がディアルに向かって大喝すると、


「そうですね。手を抜いてるつもりはありませんでしたが、なるべくならと……失礼しました。では」

 そう言った途端、ディアルの目つきが鋭くなり


「でりゃああ!」

「!?」

 先程までとは段違いのスピードで将軍に迫り、その剣を叩き落としたかと思うと、


「どうですか?」

 将軍の首筋に剣を当てていた。


「見事だ。さあ斬れ」

 将軍が手を降ろして言うが、

「いえ、斬りませんよ」

 ディアルは首を横に振った。

「敵に情けをかけるな!」

「情けではありません。あなたから騎士としての誇り高き死を奪い、生き恥を晒してもらう為に斬らないだけです」

「ぐっ、物は言いようだな。……わかった、勝者の権利だ。好きにしろ」

 将軍はその気になれば自害する事もできたが、ディアルの気遣いを無駄にしない為に抵抗せず、そのまま捕縛され解放軍の捕虜となった。


 そしてディアルは残りの者達は逃げるに任せるか降伏を受け入れる事にすると宣言した。

 徹底抗戦するなら受けて立つとも言ったが、もう誰も解放軍と戦おうという者はいなかった。

 

「よし、後は……兄さん、タケルさん達、頼んだよ」

 ディアルは城の方向を見つめながら呟いた。

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