第38話「決戦は大平原」

 そして決戦の日がやってきた。


 まだ夜は明けておらず、辺りは薄暗い。


 そんな中、解放軍の総勢二千名全員が砦の前に整列していた。 


 そして解放軍の司令官、イシャナが全軍に向かって言った。

「皆、我が国の未来はこの一戦にかかっている! だが敵は王国軍ではない!」


 全員が静かにイシャナの言葉を聞いている。 


「敵はこの世界を覆う闇、人の心に潜む闇だ! 我々はそれに惑わされる者達を解放する為に戦うのだ!」

 そしてイシャナは槍を掲げ

「行くぞ皆! 我が国の、いや世界の未来の為に!」

 オオオーーー!

 

 全軍がそれに答えるかのように武器を掲げ、鬨の声をあげた。


「す、すげえなイシャナさんって。えーと、なんて言えばいいのか」

「あれこそ将の器、か?」

 言葉が見つからないタケルにイーセが声をかける。

「あ、そんな感じ」

「俺もそう思う。そして副官のディアル殿、軍師ソウリュウ殿もそれぞれの役割を果たしているな」

「そうだね。皆凄えな」


 そして騎乗したイシャナを先頭に、全軍が王都を目指して駆けて行く。


 タケル達はトランに乗り、低空飛行でその後を追った。



 そして城下町まであと数キロの大平原まで来た時

「お? どうやら情報通り待ち構えていた、って?」

 そこには王国軍が陣を敷いていたが、その数は二倍や三倍とは思えない程だった。

 

「申し上げます! 敵の数はおよそ二万! 鶴翼の陣で待ち構えています!」

 先行していた偵察兵がイシャナに報告した。

「な!? いきなり全軍を出してきただと!?」

「チッ、どうやらどっからかデキる軍師を連れてきたようだな。鶴翼の陣なんてあの王の性格からして、無い」

 ソウリュウは敵軍を見ながら呟いた。

「で、軍師殿。何か策は?」

「あるぜ。でもちょっと待て。おい、キリカちゃんよ。頼みがあるんだが」

 ソウリュウは後ろにいたキリカに声をかけた。

「え、頼みって?」

「あんたって水晶球で遠くを見れるんだろ? それで敵軍の陣容見てくれや」

「あ、はい。でも何故知ってるんですか? まだ言ってなかったのに」

 キリカが首を傾けると

「それはな、昨夜ユイちゃんの寝室を覗きに行った時に、そこであんたやアキナちゃん、ユイちゃんが話してたのを聞いて……ギャアアアーー!?」


 ソウリュウはキリカやユイ、アキナやイーセにフルボッコにされた。


「あのー。お怒りはごもっともだが、それより敵軍見てくれないか?」

 イシャナが顔に縦線走らせながら言った。

「はあ、はあ……はい。では」

 キリカは道具袋から水晶球を取り出し、気を集中して映像を映し出した。


「お、よく見えるじゃねえか」

 毎度の事だが速攻で復活したソウリュウが水晶球を覗き込む。

「てかキリカってそんな事できたんだ?」

 タケルが首を傾けながら尋ねると

「ええ。お師匠様に修行つけてもらったお陰で出来るようになったのよ」

「あ、そうだったんだ」


 そして一通りの陣容を映し出した後、

「よし、わかったぜ。ありがとよ」

「あの、これで何が?」

「敵軍の弱い所を探してたのさ。見た限り中央に魔法兵や竜騎兵、重装歩兵等の精鋭部隊に傭兵部隊、左翼と右翼はあまり強くない一般兵がほとんど。これなら……よし」

 ソウリュウはイシャナやタケル達に作戦を話した。

「わかった。では全軍に伝令! 敵中央部に突撃だ!」




 所変わって、こちらは王国軍の中央部にある本陣。

「将軍! 反乱軍が一斉にこちらに向かってきます!」

 伝令兵が王国軍を指揮する将軍に報告した。


「何? 奴等は血迷ったのか? まあいい、迎撃せよ!」

「ははっ!」

 伝令を受けた王国軍の魔法兵達が一斉に解放軍目掛けて魔法を放った。


「来た。でも今のわたしなら……えい!」

 トランに乗っていたユイが杖をかざすと、先陣を切る解放軍の手前に光の壁が現れた。


「な!? あ、あれはまさか、ウワアアーーー!?」

 光の壁は魔法を跳ね返し、それが王国軍の魔法兵達を次々と襲った。


「な、な、あれ程広範囲に呪文反射を張れる術者が反乱軍にいたのか!?」

 将軍はその光景を見て驚いていたが、すぐに気を取り直し

「だがこちらは数で勝っている。よし、竜騎兵と精鋭部隊を前線に! そして左翼、右翼の軍勢で敵を囲い込め!」

 中央上空から竜騎兵が、陸から重装歩兵や騎兵隊が解放軍に向かって進軍していった。 



「お、竜騎兵が出てきたな。よっし、ちょっと本業に戻るとするか」

 ソウリュウはそう言って愛用の弓を構え、空を翔ける竜騎兵に狙いを定める。

「はっ!」

 そして先頭の竜騎兵目掛けて矢を撃つと


「キシャァァァ!」

「うわあああ!?」 

 その一矢で何匹もの竜達がバランスを崩して落ちていった。


「ま、こんなもんか。あいつらもあの高さなら死にゃしねえが、動けなくなってはいるだろな」

 ソウリュウは口元をニヤりとさせて言った。

「うわ、あんな遠くの敵を、しかも何匹も射抜くって……マジで凄い腕」

 タケルはソウリュウの腕前に驚いていた。

「おい、感心してねえであれふっ飛ばしてくれや」

 ソウリュウは向かってくる騎兵隊や重装歩兵を顎で指した。


「あ、うん。じゃあイーセ、アキナ」

「ああ」

「よっしゃ!」

 三人がそれぞれ構え


「鳳凰一文字斬!」

「風神斬!」

「猛虎烈光波!」

 騎兵隊目掛けて技を放つと


「なああああーーー!?」

 兵達は左右に吹き飛ばされ、中央がガラ空きになった。


「よし、イシャナ!」

「ああ。フルパワーでやってやるさ!」

 イシャナは馬から降り、右手で槍を持ち、左手を突き出すように構えた。


 すると槍に気が集まって光り出した。そして


「奥義・天空雷光閃!」

 そう叫んで槍を正面に突き出すと、そこから稲妻のように放たれた気が王国軍の間を通り過ぎていった。


「え? あ、当てないの?」

 タケルが尋ねると

「いや、あれはな」


 ドオオーーン!

 遠くの方から凄まじい爆発音が聞こえてきた。


「こ、この音はいったい何だ!?」

 王国軍の将軍が叫ぶと、

「も、申し上げます! 城門が先程のあれで破壊されたようです!」

「な、何だとぉーー!?」


「な、な……大陸最強の名は伊達じゃない」

 タケル達もキリカの水晶球で状況を知り、ただ驚いていた。


「これで敵さんもパニックになってるだろな。さて、後は俺達が引きつけておくから、イシャナとタケル達は城へ向かってくれや」

 ソウリュウがそう言った。

「あ、うん!」

「ああ。ディアル、指揮は任せたぞ!」

 イシャナが弟ディアルの方を向いて言った。

「わかったよ兄さん。絶対に戻ってきてよ」

「ああ。じゃ、行こうか」

「うん。トラン、頼むよ」


 タケル達は飛竜王トランに乗り、猛スピードで城へと向かった。

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