第37話「言外の会話」
「さてと、まあ座ってくれや」
ソウリュウがそう勧めるのでイーセは彼のすぐ近くに座った。
「で、話とは?」
イーセが尋ねると
「なあ、イーセって本名か?」
ソウリュウがいきなりそう言ったが、イーセは表情を崩さず何も言わなかった。
「なあ、どうなんだ?」
「……」
その後暫く二人が互いの目を見つめたまま沈黙が続いた。
そしてどの位経ったか、ソウリュウが口を開き
「悪かったな。言えねえならもう聞か」
「あなたは私の兄の友人なのか?」
イーセがソウリュウの言葉を遮って尋ねた。
「ふふ、それは肯定と取っていいんだな?」
ソウリュウは口元をニヤリとさせて言う。
「……どうなのだ?」
イーセは彼を睨みつけるように尋ねる。
「ああ。俺とイシャナ、そしてあんたの兄貴は親友同士だったよ」
ソウリュウはニヤけ顔で答えた。
「そうか。私はあなた達と会った事は無いし、兄からは心の中で呼んでたという愛称しか教えてもらってなかった。だからあなた達がそうだと気付けなかった」
「ほう? ちなみにあいつは俺達を何て呼んでたんだ?」
「ソウりんとイシやん」
イーセは真顔でそう言った。
「……ま、まあ呼びたければそう呼べばよかったのに。妙な遠慮があったよな、あいつは」
「そうだな。まったく難儀な兄だ」
イーセは表情を柔らかくしていた。
「なあ、本当に不慮の事故だったのか?」
ソウリュウがまた尋ねる。
「ああ。だがあれは私を庇っての事だった……私が無理に着いて行ったばかりに、兄は」
イーセは目を手で覆って俯いた。
「だからか?」
ソウリュウの言葉は一言であるが、イーセは何を尋ねられているのかわかった。
「ああ、兄はずっと神剣士を探していた。そしてそれに仕え、共に世界の闇を祓おうとしていたんだ。だから私が代わりに。でも」
「でも何だ?」
「兄の代わりにじゃなく、私自身として彼の仲間になりたい。神剣士、いやタケルの側にいるうちにそう思うようになった」
「なればいいじゃんか。あいつだってきっとそう言うだろさ」
ソウリュウの口調は軽いが、目は真剣そのものだった。
「……そうだな。だがもう少し、私自身の気持ちに決着がついたその時に、彼に全てを話すつもりだ」
イーセは顔をあげ、ソウリュウを見つめた。
「そうか。ん、話してくれてありがとな。それとな」
「何だ?」
「タケルはあれで結構モテるだろ?」
ソウリュウはまたもニヤけ顔になって尋ねる。
「は? ……まあそうだな。アキナは彼を友人としか見てないが、キリカとユイ、そしてここにはいないがもう一人、ナナという子も彼を好いているかな。といってもあの子の場合は恋心なのかどうか?」
イーセが指折り数えながら答えた。
「そっか。まあライバルは多いようだが、頑張れや」
ソウリュウはニカっと笑いながら言った。
「ふふ、あなたは本当に鋭く賢く、そしていい人ですね。ロリコンでなければ普通にモテるでしょうに」
いつの間にかイーセの口調が完全に変わっていた。
「アホ抜かせ、俺から幼女愛を取ったら何も残らんわ! 俺は命尽きるまでこのロリ魂道を歩き続けるぜ!」
ソウリュウは握り拳を作って力説した。
「何故この人と兄さんが親友なの?」
イーセは額に手をやりながら呟いた。
「あれ、知らんのか? あいつは超シスコンでお前のぱんつを隠し持ってた」
「兄さんがそんな事するかー!」
イーセがいきなり剣を抜いて斬りかかったが
「お、落ち着けイズナ、冗談だってば!」
ソウリュウはそれを真剣白刃取りで受け止め、イーセを別の名で呼んだ。
「ぐ、そうね。あなたが私の名前知っていても不思議じゃないわね。よし、放っておいたらいずれアキナやユイを襲いかねないし、バラされるかも。だからこの場で斬ってしま」
「襲わねーって! それと絶対言わねー! 信じろ!」
ソウリュウは必死になって叫んだ。
「本当に?」
イーセはソウリュウを睨みつけながら言う。
「ああ、俺だってさすがに親友の妹を貶めたりしねえよ!」
「……そうか。わかった。信じよう」
そう言って剣を収めた。
「なんだ、もうそっちの口調に戻すのかよ?」
「ふふ。さっき言ったように、もうしばらくはこのままでいるさ。でも今回あなたと話した事で久々に素の自分に戻れた。礼を言う」
イーセは頭を下げた。
「うーん。姿形だけじゃなく、そういう妙に拘る所もあいつにそっくりだな。やっぱ兄妹だからかな?」
「さあな。ではそろそろ俺は」
「ああ。まあ気をつけろよ」
「ええ」
イーセは扉を開け、会議室から出て行った。
そして一人になったソウリュウはドアの方を見つめ
「……イズナよ。お前が女に戻る日が来たら、お前の知らない兄貴の話を聞かせてやるぜ」
そう言った後、天井の方を見上げ
「イーセよ。どうせそこから見てんだろうがまあ、いつか俺がそっちに行った時に詳しく話してやるよ。あいつらの物語をな」
亡き親友に語りかけた。
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