第36話「何話す気?」

 その後一夜を明かしたタケル達は、飛竜トランの背に乗って砦へと戻った。


「ま、マジで連れてくるか? しかも飛竜族の王だなんて」

「さ、流石というか何と言うか」

 ソウリュウとイシャナはトランを見て仰天していた。


「ふふ、遠慮なく俺達を使ってくれ。司令官殿に軍師殿」

 トランが二人に頭を下げた。

「あ、ああ。助かるぜ、正直一匹でもいれば上等だったが、これ程とは」

 トランの後ろには五十匹もの飛竜がいた。


「よし、早速作戦会議と行こうか。と言ってもトラン殿は部屋に入れんな」

 イシャナがそう言うと

「心配ない。俺はこういう事もできる……はあっ!」

 トランの体が煙に包まれ、それが晴れると、


 そこにいたのは深緑色の髪に苦み走った顔立ちの四十代位の男性だった。

 背はタケルより少し高く、黒い軍服を着て白いマントを羽織っていた。


「えええ!? あ、あんたがトラン!?」

 タケルが驚きながら尋ねると

「ああ。俺は竜神の力で人型にもなれるのだ」

「そ、そうだったんだ」


「へえ、何か渋いおじ様って感じで素敵」

「あ、ああ。あたい惚れちゃいそうだぜ」

 キリカとアキナは頬を赤く染めて呟いた。


「……はっ? いかんいかん」

 イーセも何故か頬を染めたが、すぐに首を横に振った。

「あ、やはりイーセはソッチのケがあるんだ。さあ、遠慮せずトランに抱かれ……ハアハア」

 ゴン!


「おーい、それはいいから早く部屋に入ってくれー」

 イシャナがそう言ってきたので全員会議室へ入っていった。

 ユイはイーセに頭をどつかれて気を失ったので、引き摺られながら……。




「さてと、作戦を説明するぜ」

 ソウリュウが壁に貼った地図を示しながら話しだした。 


 まず城の正面へ全軍で突撃していく。すると敵さんも三倍位の数は出して迎撃してくるだろう。

 だがその程度なら飛竜達が加わった俺達の敵ではない。

 そいつらを倒せばおそらく残りの全軍が出てくる。ツーネ王ならそうするだろう。

 それをディアルと俺が率いる本隊で引きつけ、トランに乗ったイシャナとタケル達突撃部隊が城へ潜入する。

 そして玉座の間で王と戦い、妖魔を追い出してそいつを倒す。


「てな具合だ。何か質問あるか?」

 するとタケルが挙手してソウリュウに尋ねた。

「あのさ、城に守備兵がいないはずないだろ。王様んとこまで無傷で行けるかな?」

「心配ないぞ。俺は城の隅から隅まで知ってるから、玉座の間まで敵に会わずに行けるさ」

 イシャナが自分を指さしながら言う。

「あ、そうか。王国騎士団長だから」

「いや、ガキの頃からいろんなとこに忍び込んではイタズラしてたからだよ。いつだったか王妃様の着替え覗いて見つかっちまった事もあったなあ」


 ……静寂が辺りを包んだ。


「よ、よく殺されずに済んだね」

 タケルが言葉に詰まりながら聞くと

「ああ。友人が王に取り成してくれたので、なんとかな」

 イシャナは笑いながら言った。

「ホントあの時は生きた心地がしなかったよ。兄さん、イーセさんにはいくら感謝しても足りないくらいだぞ」

 ディアルが苦笑いしながら呟いた時


「え、イーセ?」

 キリカがイーセの方を見た。

「いや、俺じゃないぞ」

 イーセは首を横に振る。

「ああすまない、ディアルが言ってるのは俺とソウリュウの親友の事だよ」

 イシャナが補足した。

「あ、そうでしたか。あの、もしかしてその方もここにいるんですか?」

 キリカがイシャナの方を向いて聞くと

「いないよ。彼は三年前、旅の最中に不慮の事故で亡くなったんだよ」

 イシャナは俯きがちになった。

「そうだったよなあ。聞けば妹がいたそうだが、彼女も行方不明だしなあ」

 ソウリュウも手で目を覆い、俯きがちになって言った。


「え? ま、まさか?」

 イーセが何か思い当たったが


「っといかん。それは置いといて、他に質問はないか?」

 顔を上げたソウリュウがさっさと話を戻した。


 その後もいろいろと打ち合わせを行い、作戦決行は予定通り四日後となった。


「では今日はこれで。後は自由に過ごしてくれ」

 イシャナがそう言ったのでタケル達は部屋を出ようとしたが、

「あ、イーセは残ってくれないか? 少し話があるんだ」

 ソウリュウがイーセを呼び止めた。

「え、俺にか?」

「おいソウリュウ。まさか?」

 イシャナが思い当たったようだが

「そうだよ。まあ俺に話させてくれや、イシャナ」

「あ、ああ。わかった」


「あの、俺達も出てった方がいいんだよね?」

 タケルも一応は、と聞いてみたが

「ああ。すまんが俺とイーセの二人だけで話したいんだ」

 ソウリュウは真剣な目つきでタケルを見た。

「あ……うん、わかったよ。皆、行こう」

 そしてソウリュウとイーセを残し、他の者達は部屋から出て行った。


「何話す気だろ? まさかあれかな?」

 タケルが道すがらボソッと呟いた。

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