第42話「妖魔剣士の刃が神剣士を」
「ふん。ツーネ王まで元に戻せるなんて、もう放っとけないわね」
イヨが冷たい目でタケル達を睨みつける。
「ね、ねーちゃん」
タケルがイヨを見上げて呟く。
「だから誰が……と言いたいけどね。ちょっとだけあんたにそう呼ばれて喜んでいる自分もいたわ。何故かわからないけど」
そう言ったイヨの顔には優しい笑みが浮かんでいたが
「でも、もう終わりよ。全員ここで死んで」
すぐに険しい顔になった。
「で、でも。俺はねーちゃんと戦いたくない」
「タケル! 今はそんな事言ってる場合じゃないわよ!」
キリカが叱り飛ばすが、タケルは俯いて何も言わずにいた。
「ああもう! それなら私達だけで戦うから、あんたは倒れた王様を守ってて!」
そう言って構えを取り、他の者達もそれに続いた。
「ふふ、あたしはそこいらの雑魚とは訳が違うわよ」
降り立ったイヨがキリカ達に言う。
「そうだろな。てかあんたって妖魔っぽくないな。見た目は人間そのものじゃんか」
アキナが身構えながら言うが、
「ううん、あれは魔物よ。あのでかい乳……ブチ殺す」
ユイは血の涙を流しながらイヨを睨みつける。
「ふふ、冥土の土産に教えてあげるわ。あたしは妖魔じゃなくて人間よ」
イヨが妖しい笑みを浮かべながら言った。
「え、ええ!? マジで人間なのかよ!?」
それを聞いたアキナは驚き叫び
「それなら何で妖魔王の……あ、洗脳されたか妖魔に憑かれてる?」
ユイがそう言ったが、
「違うわよ。あたしは自分の意志で妖魔王様に仕えているのよ」
「な、何故!?」
「あたしは赤ん坊の頃に親に捨てられたのよ。それを妖魔王様が拾って育ててくれたのさ。だからあたしはあの方に忠誠を誓っているのよ」
イヨは己の出生をも語った。
「で、でもそれって、妖魔王があなたを利用してるだけじゃないの?」
キリカが尋ねるが、
「……まあ、そう思った事もあったわね。でもね、そう、あれはあたしが子供の頃だったわ。妖魔王様は病に侵され高熱を出したあたしを三日三晩寝ずに看病してくれた。そしてあたしの手を握りしめながら涙声で『大丈夫だからね』と言ってくれた。あれは演技なんかじゃなく、本当にあたしを想ってくれていると感じたわ……だから、ね」
そう言ったイヨの目に涙が浮かんでいた。
「え、よ、妖魔王って悪しき縁の塊かと思ったけど、もしかして」
「それはたとえ死んでいく者にでも言えないわね。さ、もうお話はおしまいよ。使い魔と言ったけど、あたしは妖魔剣士でもあるのさ!」
そう言ってイヨは腰に差していた黒い剣を抜き、構えをとった。
「あ、あいつ強そうだぞ」
それを見たアキナはイヨが相当な使い手だと感じた。
「だがやるしかなかろう。タケルが呆けてる今、私達だけでなんとか」
「ええ。ねえイーセ、いやイズナだったわね」
キリカがイズナに話しかける。
「今はイーセでいい。で、何だ?」
「じゃあイーセ。これが終わったら女子会しましょうね。ゆっくり話聞きたいし」
「……ああ。そうだな」
イズナ、いや今はイーセだが、彼女は笑みを浮かべながら答えた。
「よっし、猛虎烈光波!」
「大爆発呪文!」
「彗星弾!」
アキナ、ユイ、イーセが技を、呪文をイヨ目掛けて放つ。
だが
「はああっ!」
イヨはそれを剣の一振りでかき消した。
「な、何だと!?」
三人はそれを見て驚き叫んだ。
「ふふ、この程度であたしを倒せるとでも?」
イヨは余裕の表情で言った。
「それならこれはどうだ!? 天空雷光閃!」
イシャナが槍をかざし、稲妻の如き気を放つ。
「む? てりゃああ!」
イヨが大きく剣を振ると、そこから黒い竜の形をした気が放たれ、その二つが互いの中央でぶつかって消えた。
「何いい!? 城門どころか山をも砕く俺の奥義が相殺されただとー!?」
イシャナはそんなバカなとばかりに驚き叫んだ。
「な、なああれ」
「ああ。黒い気ではあるが、あれは」
「タケルの技と同じ?」
アキナ、イーセ、ユイがそれぞれ言った時
「はああっ!」
イヨが放った凄まじい衝撃波が三人を襲った。
「ウワアアーー!?」
「ふん、呑気に話してるからよ」
イヨは倒れた三人を睨みながら言う。
「み、皆!? ……それならこれはどう!? はあっ!」
キリカの掌から蒼い炎が放たれ、それがイヨを包んだが
「ふふ、そんなものあたしには効かないわよ」
炎はすぐに消え、イヨは何事も無かったかのようにそこにいた。
「うう、私の最強技でもダメ……キャアア!?」
キリカはいつの間にかすぐ側まで近づいていたイヨに蹴り飛ばされた。
「おのれえ! でりゃああ!」
イシャナががむしゃらにイヨに突撃していくが、
「む? はあっ!」
「!?」
彼はイヨの気孔弾を喰らい、壁際まで飛ばされた。
「あ……み、皆」
タケルが顔を上げて皆を見つめると
「ふふ、あんたは何もしないの?」
イヨがタケルに話しかけた。
「お、俺は……ねーちゃんを倒したくない」
「そう。でもあたしはあんたを殺すわ」
そう言ってイヨがタケルに斬りかかった。
「うわっ!?」
タケルは慌ててそれを剣で受け止める。
「やるわね。でも」
イヨはタケルを突き飛ばし、
「これで終わりよ! 死ね、神剣士タケル!」
そして彼の胸目掛けて剣を突き出した。
「……!」
タケルは思わず目を瞑った。そして、
ドスッ!
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