第29話「キスってどんな味だよ、おい?」
その後タケル達はマオの転移魔法でかの宿屋へと戻った。
老人はイヨに眠らされた為、ナナが連れて行かれた事に気づいてなかったようだ。
「皆さんありがとうございました。もしナナの身に何かあったら儂は」
老人が目に手を当てながら言った。
「いや、ねーちゃんにナニされ」
「シッ!」
キリカはタケルの口を手で塞いだ。
その後イーセが老人に尋ねる。
「ところで御老体、ナナを攫った敵が言ってたのですが、あなたはかつて魔王に仕えていた魔族なのですか?」
「……ええ。儂は魔族でヴェルス様の部下でした。そして儂の亡き妻が姫、この子の母親の乳母だったのです」
老人は語った。
ナナの母親はとある人間の漁師と恋に落ち、ナナを身篭った事。
それを知ったヴェルスは普段の彼からは考えられない程大激怒したという事。
怒りのあまり地上を消してやるとか言い出したのを元部下全員でなんとかなだめすかして止めた事。
ナナの父親が必死で懇願し、ようやく二人の仲を認めたという事を。
そして時は流れ、ナナの両親は世界を覆う闇をなんとかしようと旅に出た事。
ナナは幼かったから連れては行けず、かと言って村に置いて行ったらナナの魔法が目立ち、悪意のある者に攫われるおそれがあったので老人が人里離れた場所で匿っていたと。
「そうだったんですね、ナナのご両親もまた。でもあなたやナナの両親は人間達に迫害されたとも聞きましたが?」
キリカがおそるおそる尋ねると
「ああ、酷い目にこそ遭いませんでしたが不審な目では見られてましたよ。ですがナナの父親が元々皆に慕われていた事、姫様が一生懸命皆と仲良くしようと努力され、やがて皆に受け入れられましたよ」
「そうでしたか。……まだまだ人の心から光は消えてないわね」
キリカは胸を撫で下ろした。
その話の最中、ナナはずっと俯きがちだった。
「あれ、どうしたんだ?」
タケルが心配そうに話しかけると、ナナが顔をあげて叫んだ。
「やっぱあたし旅にでたいよ~! パパとママのお手伝いした~い!」
「ダメじゃ。お前はまだ魔法力をコントロールできんからの」
「え~、あたしだって!」
「あの、それならナナちゃんを僕に預けてもらう訳にはいきませんか?」
マオが自分を指さしながら言った。
「え、それはどういう事で?」
老人が訝しげに尋ねる。
「ナナちゃんはあなたが思ってるよりは上手く魔法を使えてると思いますよ。ですがまだ危なっかしい所もあるので僕が手ほどきを、と思うんですが」
「うーん、しかしのう」
「ねえ、マオがあたしに教えてくれるの?」
彼を見つめて言う。
「うん。僕が手取り足取り腰をと、ギャアアアア!」
マオは女子達にボコボコにされた。
「ま、まあとにかく、マオはああ見えても当代きっての術者ですし、悪い話ではないと思います……よ」
イーセがやや詰まりながら老人に言った。
「そ、そうですか。あなたが言うなら信じましょう」
話は決まった。
「では後ほどお迎えにあがります。僕は皆を送っていきますので」
タケル達はマオの転移魔法で大陸中央部にある王国付近まで行くことになった。
最初は歩いて行くのも修行、と断ったタケル達だが、マオは言った。
「これは最高神様のお考えでもあるんだよ」
「え、それどういう事?」
キリカが尋ねると
「うちの姉さんがね、何故か神託を受けられるようになったんだよ。それでね」
――――――
タケル達があそこへ行けばもっと強くなるとね。
でもそこまで歩いていたら時間が掛かるし、着いてから強くなるまでには更に……それじゃいくら時間があっても足らんとね。
だからマオ、あんたが送ってあげるとね。少しでも時間を節約するために。
――――――
「って言ってたよ」
「そうだったの? でも何で私にそれ言わないのかしら?」
キリカは首を傾げていた。
「こっちに言った方が事がスムーズに運ぶと思われたからじゃない?」
「あ、そうよね。それにナナの事もあって」
「そうなんだろね、きっと……ちょっとは手助けしてくれてるんだね」
マオは天井を見上げて呟いた。
「それじゃまたな。マオやマアサと仲良くしろよ」
タケルはナナの頭を撫でながら言った。
「うん。あ、そうだタケル」
「何?」
「あのね~、ちょっとしゃがんで~」
「ん? ああ、これでいいのか?」
タケルは言われたとおりに屈んだ。すると
「えい」
「!?」
ナナはタケルに口づけした。
「ちょ、ちょっとナナ!? あなた何してんのよ!?」
キリカが驚きながら叫ぶと
「怪我させちゃったお詫び~。これ、あたしのファーストキスだよ~(笑)」
ナナは笑いながら言った。
「あのねえー!」
「うわ~、キリカのもだったけど、ナナの唇も柔らけえし、甘い……」
タケルはやや呆けなから言った。
「え、タケルとキリカってキスした事あるの?」
ユイが尋ねる。
「あ、ああ。最初の頃にな」
「……ねえタケル、わたしともしよ。なんならその後も」
「ユイ~?」
キリカが鬼の形相でユイを睨んだ。
「何? キリカはタケルの恋人じゃないんでしょ。だったら誰としようともいいじゃないの」
「私は聖巫女で神剣士タケルのパートナーよ! だから、その」
キリカは顔を真っ赤にして横を向いた。
「……いずれキリカと本気で争う事になるのかな」
ユイは寂しそうに言った。
「さてと、そろそろ行くよ。……転移魔法!」
タケル達はマオの魔法で一気に目的地、王国付近まで飛んだ。
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