第28話「大神官は見た!」

 声がした方を見ると、そこにいたのは

「やあ皆さん、しばらくぶり」


「え、マオ!?」

 あの大神官マオだった。


「な、なあマオ。どうしてここにいるんだよ?」

 タケルがマオに尋ねた。

「いやね、実は時間のある時に君達を見てたんだよ。これでね」

 そう言ってマオはローブの袖から水晶球を取り出した。

「今も見てたけどさ、君達がピンチになったから転移魔法で助太刀にと飛んできたんだよ」

「そ、そうだったのか……ん? マオ、ちょっと」

 タケルはマオに近寄り、小声で話しだした。

「なあ、それって何処でも見れるのか?」

「うん、見れるよ」

 マオも小声で返す。

「て事はさ、うちの女子達の着替えや風呂も?」

「見たよ」

 マオはさらっと言った。

「聞いた事あるんだけど、そういう水晶球ってたしか」

「皆まで言わなくていいよ。それらはこれにしっかり記録してあるよ。後で見る?」

「うん。なあマオ、あんたって結構スキモノなんだな~」

 タケルがニヤニヤしながら言う。

「いやいや、君には負けるよ」

 マオもニヤけ顔になって返す。

「またまた~。マオの方が」


「フフフ~、もういいわよね~?」

「「え?」」


 振り返るとそこにはドス黒いオーラを出してる女子達がいた。


「え、え~と、これ冗談だから本気にし……ギャアアアア!?」


 タケルとマオは女子達と何故かイーセにフルボッコにされた。


「……こいつら馬鹿なの?」

 イヨは凄まじく呆れ、

「キャハハ、おっかし~!」

 ナナはケラケラ笑っていた。




「う……と、とにかくここは僕に任せてよ」

 マオは自分に回復魔法をかけながらナナに話しかけた。

「ねえ、ナナちゃんだっけ? ちょっといいかな?」

「な~に?」

 ナナは首を傾ける。

「僕と勝負しようよ。魔法でね」

「え~?」

 

「ええ!? な、何言ってんのよ!?」

 キリカ達はマオの言葉を聞いて驚きの声をあげた。


「ダメかな?」

「いいよ~、負けないからね~キャハハ~」

 ナナは笑いながら了承した。

「よし決まった。じゃあ」

「うん!」

 

 そして両者間合いを取り、呪文を詠唱し始めた。


「マ、マオは何を考えてるのよ?」

「イテテ……あ、もしかして」

 タケルがよろけながら立ち上がった。

「え、何かわかったの?」

「ああ。たぶんマオはナナの服を燃やして(ズキューン!)しようと」

 タケルはキリカにエルボー・ドロップを打たれて沈んだ。



「行くよ、光竜神秘法・烈光弾!」

 マオが叫ぶとその掌から光球が現れ、ナナ目掛けて飛んで行く。


「えーい!」

 だがナナの掌からも同じものが放たれ、それがぶつかり合って消滅した。


「げ!? ぼ、僕は光魔法を何倍にも増幅してるってのに、素であの威力だなんて!?」

 マオは冷や汗をかきながら言う。


「いっくよ~、それ!」

 ナナの両手からさっきと同じ光球が無数に放たれる。


「何いい!? って負けるか!」

 マオも同じく光球を放ち、それを相殺していく。

 その後しばらくはその応酬が続いた。


「な、何よあれ?」

「わたしじゃ全然敵わない……」

 魔法を使えるキリカとユイもただ驚くしかなかった。


「お、思ってた以上の魔力ね。ナナを味方にできてよかったわ」

 イヨもあれがもし敵だったら、と背筋が凍る思いだった。




 そして

「ゼエ、ゼエ」

「はあ、はあ」

 二人共疲労が見えてきた。


「こ、ここまで互角かよ」

 タケルが冷や汗をかきながら呟いた。


「……よし、そろそろ僕のとっておきを見せてあげるよ」

 マオが俯きながら呟いた。

「え? なにを見せてくれるの~?」

「君ならこれを喰らっても死にはしないだろう……行くよ!」

 マオの右手に光が集まり、それが竜の形になった。そして、


「光竜神翔空波!」

 その手から光の竜が翔び立ち、勢い良くナナに向かっていく。


「え、キャアーーー!?」

 ナナは避けきれずそれに飲み込まれ、その体は宙に舞った。


「ああ!?」

「ナ、ナナ!?」

 タケルとイヨが同時に叫ぶ。


 そしてナナは地面に落ち、そのまま倒れた。


「ど、どうだ?」

 マオは手を掲げたまま呟いた。


「な、ナナが!? あたしの可愛いエンジェルが~!?」

 イヨは狂ったように泣き叫び

「ゴラー! 殺してどーすんだー!?」

 タケルは怒り狂いながら叫んだ。


「タケル! ここは一時休戦してあのクソ神官を殺るわよ!」

「ああ! わかったよねーちゃん!」

 タケルとイヨが何かすごく息ぴったりに身構えた時


「う、うう」

 ナナがムクリと起き上がった。

「「え!?」」

 

「うーん……あはは~、負けちゃったけど何かスッキリした~」

 ナナは座ったままケラケラ笑っていた。


「ふ、ふう。上手くいったみたいだ」


「え~と、どういう事?」

 タケルがマオに尋ねると、

「いやね、ナナちゃんって今までおそらく全力で戦った事ないと思うんだ」

「へ? それが何なんだよ?」

「だからさ、思いっきり暴れさせてストレスを発散させたんだよ」

「あ!」

「わかった? これでもう物騒な事は考えないと思うよ」


「え、え? じゃあもうあたしの事も? ……うええええ~~ん!」

 イヨは泣きながら姿を消した。


「え~? お姉ちゃん、もっとして欲しかったのに行っちゃった~!」

 どーやらナナの百合魂は消えてなかったようだ。早まったな、イヨ。


「あ、クソー! 俺もねーちゃんにあんな事やこんな事して欲しかったのにー!」

 ……タケルはやはり平常運転だった。

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