第23話「邪神、降臨」
それから数日の間、タケル達は神殿に滞在した。
マオが神殿には旅の役に立つ書物や古代のアイテムがある、もしよければ持って行ってもいいと言ったので、休息も兼ねてそれらを見る事にしたからだ。
「これが……ふむふむ」
キリカは充てがわれた部屋でマオから借り受けた「光竜神秘法の書」を読んでいた。
「これ、難解すぎて私には出来ないわ、はあ」
キリカは頬杖をついてボヤいた。
「改めてマオって凄い人だと思った」
ユイも一緒に読んでいたが、彼女にも無理なようだった。
「そうよね。しかしこんなのどうやって習得するのかしら?」
「キリカ、作者はそこまで考えてn」
「ど、どうしたのいったい!?」
キリカはいきなり倒れたユイを抱き起こしていた。
「……あれ? わたし何してたんだろ?」
ユイは辺りを見渡し目をパチクリさせていた。
「な、何か知らないけど口は災いの元、かもよ」
キリカは冷や汗ダラダラになっていた。
所変わって、ここは神官達の詰め所。
アキナはそこにいた若い神官達と仲良くなり、楽しそうに話していた。
「へえ、そんな食い物があるんだ?」
「そうですよ。荒れ地でも育つしとても美味しいですよ。私の故郷の名物です」
神官の一人が言う。
「そっか~、そんなのがもっと広まったら皆お腹いっぱいになれるだろな~」
「そうですね。あ、ここにもたくさん備蓄してますから、もしよければ」
「うん! あちこちで広めるよ!」
また所変わって、神殿内にある訓練所では、タケルとイーセが剣の稽古をしながら話していた。
「ふむ、タケルの祖父殿はそれほど強いのか?」
「うん。もう歳だから体力ないけど、まだまだ俺より強いよ」
「そうか。なら俺もいつか手合わせ願いたいものだ」
「俺も帰ったら今度こそ一本取ってやるんだ」
「しっかしええ男やねえ」
少し離れた場所でマアサとマオがそれを見ていた。
「イーセさんもよかけど、タケルもよかとね~」
マアサはうっとりした目で二人を見つめている。
「姉さん、タケル君はともかくイーセさんをいい男っていうのは違うよ」
マオはやや呆れながら言った。
「なんでとね? あ、イケメン言うた方がよかったと?」
「……いや、わからないならいいや」
「?」
そして夕方、食堂に皆が集まった時
マオは「カピラ教団は残務処理が済み次第解散する」とタケル達に話した。
「え、本当に解散するのか?」
タケルが驚いて尋ねる。
「うん。今まで多くの人達に迷惑をかけたからね。でも」
「今度からは福祉団体みたいなんでやっていくとね。教祖じゃなくても着いて行くって人もいるけんに」
マオとマアサが言った。
「そっか、頑張れよ」
「そっちもね。僕も陰ながら応援するよ。さ、今日はささやかだけど宴の席を用意したよ」
「あんたらの前途を祝すのと、うちらの新たな出発に乾杯すると」
「うん、ありがと」
そして
「はぐはぐはぐ、うー、うめえ!」
アキナは次々と器を空にしていく。
「よ、よく食べる娘だな」
イーセはそれを見て引いていた。
「へえ、これ美味しいわね」
キリカはマアサが持ってきたワインを飲んでいた。
「そうとね~、これうちのとっておきとよ~」
マアサは既に出来上がっていた。
「姉さん、飲み過ぎないようにね」
マオがマアサを窘める。
「わーとるとね。さ、ユイちゃんもどうね?」
「わたしはいい」
ユイは頭を振って断った。
「あれ? ユイちゃんはお酒ダメとね?」
「うん、成人の儀式の時に飲んだ事あるけど記憶が飛んじゃって。その後皆から飲んじゃダメって言われたの」
ちなみにユイは十五歳、この世界では成人である。
「あ~、そうやったとね。でもこれアルコール度数あんまないからいけると思うけんど?」
「どうしよ……よし、ちょっとだけならいいかな」
「うん、どうぞどうぞ」
マアサはユイのグラスにワインを注いだ。
「ねえ、マアサ、何してくれんのよ」
「ご、ごめんとね。まさか一口でああなるなんて思わんかったとね」
「ユ、ユイ……いや、あれは」
マアサ、キリカ、アキナは床に突っ伏していた。
「フフフ。さあタケル、イーセに後ろから(ズキューン!)されて」
ユイは酔っ払ったせいか魔法力全開で暴れだした。
それはまるで腐の邪神。
そしてタケルとイーセを魔法力で操り人形の様にしていた。
「な、なんで光竜神秘法で放った催眠魔法が効かないんだよ? あわわ……」
マオは恐怖のあまりガタガタ震えていた。
「フフフ、さあ~、薔薇の世界を見せて、ハアハア」
「や、やめんかー! 俺は女の子の方がいいんじゃー!」
「待てー! 俺はタケルの後ろに(ズキューン!)なんて無理だー!」
タケルとイーセが必死で叫んでいる
「あれ、イーセは攻めは嫌なの? じゃあ受けにしてあげる」
ユイは邪悪な笑みを浮かべ、二人の体勢を変えた。
「ゴラー! 何の解決にもなっとらんわー!」
「あ……も、もうこのままやられても、いや駄目だ!」
「フフふ、にゅう? ……ZZZ」
ユイは突然倒れて寝てしまった。
「え? あ、助かった~!」
「ふ、ふうやばかった。今一瞬気持ちが揺らいだ」
タケルとイーセは安堵の表情を浮かべていた。
「え、どうしたのよユイは?」
「酔いつぶれちゃったんじゃなかと?」
「ま、まあ今後ユイには絶対酒飲ませねえようにしないとな」
キリカ、マアサ、アキナが立ち上がってユイを見つめていた。
「今何か妙な気を感じたけど、気のせいかな?」
マオは天井を見上げて呟いた。
「あれ? あたし何であいつを助けたんだろ? ……ま、いっか」
神殿の上空でタケル達の様子を伺っていたイヨは首を傾げた。
どうやら彼女がユイを眠らせたようだった。
翌朝、神殿の前
「うう、何も覚えてない。何かしたならごめんなさい」
ユイは頭を下げて謝った。
「ま、まあいいよ。さ、皆行こうか」
タケル達はマアサとマオに見送られ、先へと進んでいった。
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