第22話「ねえ、ちゃんとしたいよ!」

「……あ」

 マオはその場に崩れ落ちた。


「マ、マオ」

 マアサはアキナに支えられながらマオの側に寄った。


「マオ、もう大丈夫とね。あんたを操ってた黒いもんはのうなったと」

 マアサはマオの頬を撫でながら言うが

「……姉さん、それは違うよ。僕は操られてなんかないよ」

「え?」

「ずっと僕は僕のままだったよ。でもあれが消えたせいか、さっきまでよりは心が軽くなったと思う。でもね……」


「やはりまだ許せぬか、神を」

 イーセが近寄りマオに尋ねる。

 

「ううん、僕は僕自身も許せなかったんだ。僕にもっと力があればあの子をと、それもあった」

 マオの目には涙が浮かんでいた。

 

「俺もかつて神を恨んだ事がある」

 イーセはマオの目を見つめながら言った。

「え?」

「俺も不幸な出来事で大切な人を亡くした。その時は神などともな。だが」

「だが?」

「その人は死ぬまで誰も恨むことをせず、ただひたすら世界の闇を祓う事を考えていた。だから俺も誰も恨まず、彼の遺志を継いで旅に出たのだ」

「そうですか……でも僕は」

 するとイーセは片膝をつき、マオと視線を合わせて語りかけた。

「あなたがそんな事ではその少女も浮かばれない。少女は決してあなたを恨んでない、あなたにはもっと多くの人を救って欲しいと願っていると、これは私がそう思うだけですがね」

 そしてマオの頭をそっと撫で、優しい目で彼を見つめた。


(ん、あれ?)

 タケルはそのイーセに違和感を覚えた。


「……いえ、そうかもしれませんね」

 そう言ってマオは立ち上がり、タケル達を見つめ

「皆さんありがとうございます。……僕を止めてくれて、気づかせてくれて」

 そう言って頭を下げた。


「マオ……」

 マアサがマオを抱きしめる。

「姉さん、ごめんね」

「ううん、うちこそごめんとね」

 二人は泣きながら抱き合った。



「これで一件落着、か」

 タケルがそう呟いた時


「いや、まだよ」


「え、誰だ!?」

 声がした方を見ると、そこにはフードマントを着たやや背の高い人物がいた。


「ふふふ、よくそいつの闇を祓ったわね。妖魔をも弾き返すからどうしようかと思ったら、自分で勝手に強大な妖魔になりそうだったから見張ってたのに」

 顔はフードに隠れて見えないが、声と口調からして女性のようだ。


「あ、だからあなたは僕の話に乗ってニセ神剣士になったのか?」

 マオがそいつを見て言った。


「え、あいつがそうなのかよ? あんな気味悪い奴が」

 アキナがそう言った時

「失礼なお嬢ちゃんね。これでも不気味と言える?」

 そう言ってフードマントを取ると、その姿は……。


 黒いショートボブで顔立ちが整っている目の鋭い女性だった。

 肌が余り隠れてない黒のビキニアーマーを纏い、腰には黒い剣を下げている。

 そして胸がやたら大きかった。


「……あいつは魔物、あの乳は……コロス」

「ちょっとやめなさい!」

 ユイは血の涙を流し、底冷えするような声で女性に向かっていこうとしたが、キリカに羽交い締めにされた。

「たしかにでっかいな……あたいもイラッと来た」

 アキナも指をボキボキ鳴らしながら女性を睨みつけていた。

「二人共落ち着いて! 私だって腹立つけどそんな場合じゃないでしょ!」


「フフフ……ってぎゃああーーー!?」

 女性がいきなり悲鳴をあげたと思ったら


「え? な、何してんのよ!?」

 タケルがいつの間にかその女性に抱きつき、その胸に顔を埋めていた。

「ん~、これこれ。これこそ理想のねーちゃんだ~!」


「ちょ、あんた何すんのさ! 離れな!」

 女性はタケルを引き剥がそうとするが、全然ビクともしない。

「やだよ~。折角ねーちゃんに会えたのに~」

 そして戯けた事をほざいた。

「だ、誰があんたの姉よ!? あたしはイヨ、妖魔王様の使い魔よ!」

「ん? 妖魔王って?」

 タケルが顔をあげて女性、イヨを見上げる。

「妖魔達を束ねる王よ! ってし、しまった! 謀ったわね!?」

 イヨはタケルを睨みつけた。


「そうか! タケルはわざと巫山戯た事をして奴の正体を暴こうとしたのか!?」

 イーセがそう言ったが、


「まあそれはいいや。ねーちゃん、俺と一緒に風呂はいろーよ~」


 ズコオッ!


 イーセは盛大にズッコケた。


「うん、ただの変態だったわね」

「そーだなー。なあキリカ、あいつどーする?」

 キリカとアキナが話していると

「あ、マアサがタケル達に近づいていく?」

 ユイが指さしながら言った。


「ちょっとあんた、もう離れるとね」

 マアサがタケルに言う。

「やだよ~」

「ん~、うちも胸なら大きいとね。後でぱふぱふしてあげっからさ」

 そう言ってマアサはローブの胸元をチラッと広げて見せた。

「え? ぱふぱふってあの伝説の……うん、マアサの後でねーちゃんにもしてもら」

 ドゴオッ!


「はあ、はあ……お、おのれ」


 悩んでいる隙をついたイヨはタケルを蹴飛ばした。

「全員始末してやろうかと思ったけど気が削げたわ。だから今回は見逃してあげるけど、この次はないわよ」

 イヨはそう言って姿を消した。


「え、そんな……うわああん!」

 タケルはまるで子供みたいに泣き叫んだ。


「……ねえキリカ、タケルって本当にお姉さんいないの?」

 ユイがキリカに尋ねる。

「ええ、そうだけど?」

「そう。でもあれは本当の姉に会えた人のように見えるの」

「うーん、ただの変態じゃないの?」

「そうかもしれないけど……」



 

「ふう、皆ごめん。俺どうかしてたよ」

 その後どうにか泣き止んだタケルが謝った。


「うーん、あんたって変態街道まっしぐらね」

 キリカが呆れながら言う。

「あのな。……でもさ、あの人って何故か」



「何故かわからないけど、あいつから懐かしい何かを感じたわ……?」

 どこかわからぬ場所でイヨは呟いた。

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