第17話「へん、しん! とおっ!」

「え、それってどういう事!?」

 キリカが戸惑いながら尋ねる。

「マオはもう説得しても無駄とね。それにこのまま行けば教団がどっかの国と戦争になるかも」

「あ、そういや大陸中央部にある王国が最近軍備を整えてるって聞いた事ある」

 アキナが言うとユイも続けて

「……たぶん目障りな教団を叩こうとしてるのかも。あの国の王は以前から世界征服を企んでいるって噂もあるし」

「そうなったら多くの人が死んじゃうとね! だからその前にマオを」


「なあマアサさん、あの」

 タケルが手をあげてマアサに話しかけた。

「うちの事は呼び捨てにしてーな。で、なんね?」

「じゃあマアサ。俺思ったんだけどさ、もしかしたらマオは妖魔に憑かれているのかもしれないよ」

「は? それなんね?」

「妖魔というのはね、人の心の隙を突いてその人を操るものよ」

 キリカが説明した。

「うーん、マオがそんなもんに取り憑かれるとは思えんけんど?」

 マアサは首を傾げる。

「お姉さんでも知らない悩みがあったのかもしれないわ。とても深い悩みが」


「そうかも……で、もし妖魔というのが憑いてたらどうすると?」


「俺達が妖魔を倒す。そうすればマオも元に戻るだろうさ」


「え、マオが元に戻るとね? でももし違ったら」


「その時はふん縛ってどっかに閉じ込めるとかでいいか?」

 タケルがそう言うと


「……うん、それでいいとね」

 マアサは項垂れながら了承した。


「マアサと同じ顔なら絶対美男子。それを縛って毎夜タケルが……ハアハアハア」

「ユイ。それっていいわね……ハアハアハア」

 ユイとキリカが鼻血出しながら何かほざていた。



「で、これからどうするよ?」

 アキナが尋ねるとマアサは

「そうやね。とりあえず教団の本拠地がある町に戻るとね」 

「え、でもそれじゃマアサはまずいんじゃ?」

「大丈夫とね。変身魔法で姿を変えっから。ちょーっと待って。……へん、しん! とおっ!」

 マアサは何か伝説の改造人間っぽく飛び上がった。


 そして

「何でそんな姿?」

 マアサは全長40㎝程の緑色の毛玉妖怪(?)になった。


「これはとね、伝説にある子供達を守護する女神様の姿を真似したと」

「そうなんだ、そんな女神もいるんだ」

 タケルはどう言っていいかわからなかった。

「さ、案内するけんついて来て」

「あ、ああ」



 それから数日後、タケル達は教団の本部である神殿の前にいた。

「ここがそうなのか?」

 神殿は白く美しく輝き、それでいて歴史を感じさせるものだ。

 そして入口の上には竜の紋章があった。

 

「ここは元々竜神様を祀る神殿やったとね。それをマオが乗っ取ったんよ」

「竜神様か。そういや俺が住んでた所にも竜神伝説があるぞ」

「タケル、それってどんな話なの?」

 キリカが興味津々で聞いてきた。

「昔竜神が地上に降り立ったが、邪神に倒されてその配下にされてしまった。でもその竜神を勇者が聖なる力で元に戻した後、共に邪神を倒した。その後竜神はこの世の守護者となった。って話」

「へえ、そんな伝説もあるのね」

 キリカはフムフムと頷いた。

「なあ、それもいいけどさ。どうやってマオの所へ行くんだ?」

 アキナが皆に言うと

「うちについて来て。誰も知らん抜け穴があるから」

 一行はマアサの後に続いた。

 神殿の裏手に回るとそこには古井戸があった。

 覗いてみると底が見えなくて、かなり深そうだ。


「こっから入ると中の祭壇の前に着くとね。さ、入った入った」

 マアサが皆を促すとアキナが自分を指さし

「あたいが先に行くよ。マアサはあたいの肩に乗って案内して」

「わかったと」

 そしてアキナがマアサと共に井戸に入った後

「次は私とユイ、タケルは最後にね」

 キリカがそう言ったが

「あのさ、俺が先に行っちゃダメなのか?」

 タケルは不満気に尋ねた。

「ええダメよ。だってあんたが先に行ったらね、下から私達の裾の中覗くでしょ」

「あのなあ。キリカの服なら上からでもおっぱい覗けそうだぞ」

 ドゴオオッ!


「さあユイ、行きましょ」

「う、うん……」

 キリカは気を失ったタケルを担いで井戸の中に入り、最後にユイが入った。


 その後井戸の底に着き、横手にあった穴を通り、そして。


「やっと着いたとね。もう夜やから誰もおらんとね」

 マアサとアキナが竜神の像の足元に開いた穴から這い出た。

 そこは天井が高くて中は千人ぐらいの人が入りそうな広さだった。

「ここが祭壇かよ?」

「そうとね、マオの部屋はここからすぐそこ」

 二人が話していると

「ふう、しんどかったわ」

 タケルを担いだキリカ、そしてユイも出てきた。

「なあ、二人共あたいみたいにズボン履いたらどうだよ。そしたら見られないだろ」

 アキナが呆れながら言う。

「それもそうね。今度買おうかしら」

「わたしはいい。今度はノーパンで中をタケルに見せてあげるつもりだし」

「え、マジで? じゃあ今見せ」

 ちょうど気がついたタケルが戯けた事を言った。


「キリカちゃんにアキナちゃん、あーたらもーちょい手加減せんとね……」

 タケルはズタボロになっていた。


「……ん? 誰かいる?」

 ユイがそう言った時


「よく気がついたな」

 声の主が近づいてくる。

 窓から差し込む月明かりに照らされたその姿は、青黒く長い髪。

 背はタケルより少し高いくらい。

 中性的な顔立ちだが鋭い目つき。

 蒼いジャケットに黒いズボン、手には長剣を持った剣士だった。


「あ、あんた誰とね?」

  

「俺は傭兵剣士イーセ。今はこの神殿の守備隊長だ」

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