第18話「美形剣士に抱きついた」

「あんれま? こんなえー男いたとね?」

「うわ! す、すっげえかっこいい!」

「いえ、かっこいいというより綺麗な人ね」

「……ぽっ」

 女性陣はイーセを見つめて顔を赤らめていた。


「う……ん、あ!?」

 気がついたタケルがイーセを見て驚いた。


「どうした? 俺の顔に何かついってえええ!?」

 タケルがいきなり超高速でダッシュしたかと思うと、ガバっとイーセに抱きついた。


「え!? ど、どうしたんだよ!?」

 アキナは慌てふためき、

「あんの、もしかしてあの人ってタケルの生き別れの兄弟とか?」

 マアサがキリカに尋ねる。

「いえ、タケルに兄弟はいないわって、じゃあ何で?」

 キリカは首を傾げ

「きっと目覚めたのよ……ククク」

 ユイは邪悪な笑みを浮かべていた。


「お、おいコラ! いったい何のつもりだ!?」

 イーセが戸惑いながらもタケルを引き剥がそうとする。

「あ、ごめん。何か姉ちゃんに似てたもんで」

 タケルは上目遣いにいイーセを見た。

「む、そうか。だがいきなり抱きつかれてもな」

 イーセがそう言った時


「ちょっとタケル! あんたにお姉さんなんかいないでしょ!」

 キリカがツッコミを入れた。

「いや、妄想してた姉ちゃんに似てたもんで」

「あんたねえ! それにその人は男でしょ!」

「え? でも」

「ええい、もう離れろ!」

 イーセがタケルを突き飛ばした。


「イテテ、やっぱあんなのじゃねえよな」

「あのねえ……」 

 キリカは凄まじく呆れていた。


「そんな事より、そこにいるのはマアサ殿だな?」

 イーセが気を取り直して尋ねた。

「え、いやあの、うちはただの毛玉妖怪」

 マアサは慌てて誤魔化そうとしたが

「教祖殿から聞いている。マアサ殿はその姿にしか化けれないと」

「うっ、それはマオも知らん思てたけん」

「そうか。まあとにかく教祖殿の元に戻ってもらおうか」

 イーセが剣をマアサの方に向けた時


「待てよあんた。俺達はその教祖を元に戻そうとして来たんだよ」

 タケルがイーセに話しかけた。

「元に、とは何だ?」

 イーセが訝しげに尋ねる。

「えーと、信じてもらえるかわかんないけど、教祖マオは妖魔って奴に取り憑かれてんだよ」

「妖魔? 俺は直に教祖殿に会ってるが、彼からはそのような気を感じなかったぞ」

 イーセはタケルの言葉を否定した。

「妖魔というのは人の心の奥底に入り込むの。だから普通じゃ感じ取れないのよ」

 キリカが続けて言うが

「……もしそうだとしても俺には関係ない。雇い主である教祖殿を守るのが仕事だからな」

「いや、妖魔をほっといたら世界は闇に覆われたままだぞ。そうなったら」

「知らん。どうしても教祖殿の元へ行くというなら、俺を倒してからにするんだな」

 イーセはそう言って剣を構えた。


「う、あの兄ちゃん、かなりのもんだぜ」

 アキナはイーセが只者ではないと感じた。

「キリカ、一緒にあの人に催眠呪文かけよ」

「ええ。無駄な戦いはしたくないですもんね」

 ユイとキリカが呪文を唱えようとした時


「待て。俺にあの人と戦わせてくれ」

 タケルが前に出て、剣を構えながら言った。

「あんた何言ってんのよ!? ここで時間取る訳にはいかないでしょ!」

「なら皆は先に行ってくれ」

 タケルは真剣な表情でキリカに言う。

「どうしたんだよ? 戦うならあたいも残ろうか?」

 アキナが心配して言うが

「いや、一対一で戦いたいんだよ。何故か知らないけど、そうしなければならない気がして」

 タケルは首を横に振る。

「ちょっとあんた! ここで戦ってたらいずれ他のもんも来るとね! そうなったら」

 マアサがタケルを怒鳴ると

「心配するな。他の者は皆出払っている。今神殿にいるのは俺と教祖、そして神剣士と名乗る者だけだ」

 イーセがそう言った。

「え、神剣士って!?」

 タケルが驚き叫んだ。

「ん? どうやら知っているみたいだな。伝説の神剣士の事を」

「いや、俺はもしかしたらあんたが神剣士を名乗ってるんじゃ? とも思った」

「俺はそんなハッタリは言わん。あの神剣士とやらも実力はありそうだが、ハッタリなのは教祖もわかっているはずだ」

「そっか。ところでさ、俺と戦ってくれよ」

 タケルがイーセにそう頼むと

「いいだろう。俺もお前と一対一で戦ってみたくなってきた。何故かわからんがな」

「え?」

 キリカ達は驚きながらイーセを見た。

「それと俺が勝っても命は取らんし他の者にも手出しせん。マアサ殿も見なかった事にしてやる。そしてもし俺が負けたなら……それはその時に言おう」

(もしやこいつが?)


「なあ、どうする?」

 アキナがキリカに尋ねると

「どうするって、え?」

「どうした?」

「今、祈ってもないのに『神託』が? これはタケルの試練でもあるから、って」

「……最高神様がそう言ったの?」

 ユイが尋ねる。

「ええ。こんな事初めてだわ」

「とにかく最高神様の言う通りにするとね(うちにも聞こえたけんど……これは後にすると)」

 マアサはこれは今言っていいものではないと思ったようだ。



「では始めるか」

「ああ」

 タケルとイーセが間合いを取り、剣を構えた。

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