第16話「世界の神となる!」

 タケル達は大陸中央部を目指し、一路西へと進んでいった。

 その途中で深い森の中を歩いていると、


 キャアー!


 何処からともなく悲鳴が聞こえた。

「な、何だ!?」

「あっちからだ! 行ってみようぜ!」




「あんたらしつこいとね! もう追っかけて来んといて!」

 そう言ってるのは少し長めの銀髪で、青い神官服を着ていて、どっかの方言で話す女性だった。

 それを兵士風の男数人が取り囲んでいる。


「そうは申されても、戻っていただかないと我々が……ですから」

 リーダーらしき男が丁寧な口調で女性に言う。

「そげんこつ言われても嫌なもんは嫌と!」




「な、何か訛ってるなあの人?」

「そんな事より早くあの姉ちゃん助けようぜ!」

 アキナがそう言ったが、キリカが

「でも怪我させると後々面倒かも」


「それならわたしに任せて。……催眠呪文!」

 ユイが男達に向けて魔法を放った。すると


 ZZZZ……。


 男達は全員倒れて寝てしまった。


「あの、大丈夫ですか?」

 タケルが女性に声をかけると

「大丈夫とね。あんたがあれやったと?」

「いや、やったのは彼女だよ」

 タケルはユイを指さして言う。

「あらそうとね? お嬢ちゃんありがとね」

 女性はユイに礼を言った。

「ううんいいの。ところでどうして追われていたんですか?」

 ユイが首を傾げながら尋ねると、女性は

「あ~、それは話せば長くなるとね。だから森を出てから話すとね」




 その後タケル達と女性は森を抜けた先にあった村に立ち寄った。

 そこの宿屋にある食堂で一息ついた後

「うちの名前はマアサ。見ての通り神官とね」

 マアサが名乗った。

「俺はタケル。で、こっちが」

 タケルが全員を紹介した後で

「あの、マアサさんは何で追われてたんだよ?」

「え~とね、それは……うん、うち実はカピラ教団の者やとね」

「は、何それ?」

 タケルは首を傾げた。

「あれ、知らんとね?」

「俺ってずっと東の島の山奥に住んでたんだ。だから大陸の事はあまり」

「ああそうやったとね。じゃあ説明するばってん。カピラ教団というのは」

「最近出来た宗教団体よね。たしか教祖は若い神官だって聞いたわ」

 キリカが先に言った。

「あ、あたいも聞いた事ある。けど教祖にいい噂はないぜ」

 アキナも何処かで聞いた事を思い出したようだ。

「うん、噂は知っちょる。てかその教祖はうちの双子の弟とね。そしてあの男達は弟の命令でうちを追ってたんよ」

「ええ!? な、何で教祖の姉ちゃんが追われてたんだよ!?」

「それは……」


――――――


 うちの弟、マオは小さい頃からうちとちごて頭が良くて勉強も魔法もよく出来て、信心深い子やったとね。

 そんで心優しくて弱い者を労っていて誰からも好かれる子やった。


 けんど、マオはある時から部屋に篭りがちになったと。

 理由を聞いても答えてくれんし、時折何か不気味な声が。


 そしてしばらくして、マオが部屋から出てきたかと思うと

「僕は世界の神となる! そしてこの世を正すんだ!」って叫んだと。


 マオはどう見ても正気じゃなかったとね。


「神様になんてなれっこなかと! マオ、目を覚ますとね!」

「ふふ、姉さんは知ってるだろ、僕の力を。まあ黙って見ててよ」


 そしてマオはその手始めとして自分自身を崇める「カピラ教団」を興したとね。

 最初は行く宛のない人達を集めて荒れ地を耕して作物をこさえたり、孤児を保護したり病人を無償で介護したりと、悪いふうには見えなかったとね。

 これならと、うちも教団の幹部として働いたけど……。


 でも、やっぱりおかしくなっていったとね。

 マオは自ら村々を周り、まるで洗脳でもしたかのように村人全員丸ごと信者にしたり、お布施と称して信者達に大金を収めさせたり、その金でならず者達を雇って軍隊を作ったり……。


 そんなある時、マオはこう言ったとね。

「姉さん、僕はとうとう伝説の神剣士を信者にしたよ。これで僕に逆らう者達はいなくなるね」


――――――


「え、俺がってどういう事だよ!?」

 タケルが驚きながら尋ねると

「は? 俺がってなんね?」

 マアサは首を傾げた。

「え、いや今さ、『神剣士を』って言ったじゃん。俺はそんな事知らないよ?」

「へ? あの、え、あんたってホントに神剣士!?」

 マアサはタケルを見つめ、そして驚き叫んだ。

「そうだよ。ってじゃあマオさんが言ってた神剣士って誰だよ?」

「それは知らんとね。でもうちはそんな伝説の人がホントにいるなんて思うてなかったと。だから」

「誰か適当な人を神剣士に仕立て上げているのかも」

 キリカがマアサの後に続けて言った。

「そうやと思う。だって本物はここにいるんやもんね」

 

「なあマアサさん。証拠もなしにタケルを神剣士だと信じるの?」

 アキナがそう聞くと、

「この人からは何か不思議な力を感じるとね。それに目を見れば嘘なんか言うとらんってわかるとね。だから信じる」

 マアサは微笑みながら頷いた。

「そっか。まあタケルって変態だけどさ、何か凄いもん持ってるって思うしな」

「ゴラー! 誰が変態だー!」

 タケルが顔を真っ赤にして怒鳴ったが、

「だってあたいやキリカのすっぽんぽん覗き見したし、ユイのぱんつもしっかり見たじゃんか」

「う!? あ、それは」

 タケルが慌てふためき

「え? ……ねえタケル。今度わたしのも見て。上も下もつるつるだけど」

「ユイ~、あなた何言ってんの~?」

 とんでもない台詞を吐いたユイをキリカが鬼の形相で睨みつける。


「う~ん……でもこの人らやったら。ねえ、ちょーっと聞いてーな」

「え、何?」

 キリカが返事すると、マアサはこう言った。


「うちに力を貸して。マオを倒すために」

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