第15話「望んだものをやっと」

「じゃあ、これでも食らいな!」

 魔女は杖を振って火炎呪文を放つ。


「せりゃあ!」

 だがタケルがそれを剣の衝撃波で切り割いた。


「へえ~。じゃあこれは?」

 魔女が余裕の表情で吹雪を放つが

 

「はあっ!」

 ユイが前に出て魔法力で相殺、そして

「でりゃああ!」

 ユイの後ろからアキナが飛び出し、魔女に蹴りを放つ。


「きゃあっ!?」

 魔女はそれを杖で防いだが、威力に押し負けて後退った。



「くっ、やるわね。ならこれはどう?」

 体勢を立て直した魔女が杖を振ると、

「え!?」

「うわっ!」

 子供達が一斉にタケル達に襲いかかった。


「な、やめろ!?」

「皆どうしたんだよ! っておい、胸触るな!」

 タケルとアキナは防戦一方になった。

「人を操る術を使えるなんて、やはりかなりの使い手だったのね」

 キリカが悔しそうに言った。


「ホホホ、別に攻撃したっていいのよ」

 魔女が笑いながら言うが

「く、峰打ちでも俺の腕じゃ大怪我させそうだし、最悪の時は」

「くそ、あたいも上手く気絶させれねえよ」

 タケルやアキナにはどうする事もできなかった。


「ねえ。キリカって最高神様の力を使えるのよね?」

 ユイがキリカに話しかけた。

「ええ。あ、あの子達の洗脳を解け、なら今の私には」

「ううん。その力をわたしに注いで欲しいの、できる?」

「え? できるけど何か策があるの?」

「うん。わたし一人の力じゃ無理だけど、キリカが力を貸してくれたら」

「わかったわ。じゃあ行くわよ」

 キリカはユイに向けて手をかざし、力を放った。


「おや、何をする気?」

 魔女がユイの方を見た時、


「……よし」

 ユイが手にしていた杖をかざすと、目の前に五芒星が現れた。


「な、何よそれ!?」

 魔女が声を上げて聞く。


「これは我が一族に伝わりし破邪の秘術……これなら」

「皆、あいつからやっておしまい!」

 子供達が一斉にユイに襲いかかった。


「元に戻って……破邪聖光!」

 五芒星が光り輝き、それが子供達を照らすと、


「あ、あれ?」

「僕どうしてたんだろ?」

 子供達は正気に戻ったようだ。


「な? せ、洗脳が解けただって?」

 魔女が明らかに狼狽えていると

「まだ。次はあなた」

「え? キャアアー!?」

 魔女は五芒星の光に照らされ、気を失い倒れた。そして


「お、おのれ」

 魔女の体から黒い霧が吹き出し、それが人型となった。


「よ、妖魔? まさか」

「ええ。あいつが彼女を操っていたみたい」

 キリカとユイが続けて言う。


「クソ! ガキ共を攫われた親達から絶望のエネルギーをと思ったのに、よくもやりおったな!」

 妖魔は憎々しげに叫んだ。


「よーし、後は俺がやってやる!」 

 タケルは剣を構えた。


「ぐ、貴様を殺すくらいのエネルギーは残っているわ!」

 妖魔がタケルに襲いかかったが


「くらえ、光竜剣!」

 タケルの剣から光の竜が飛び出し


「ギャアアアアーーー!」

 それを喰らった妖魔は消滅した。


「よっしゃあ!」

 タケルはガッツポーズを取った。


「ね、ねえタケル、って、あれ名前あったの?」

 キリカがおそるおそる尋ねると、

「ん? いや、技に名前がないのもあれだと思ってさ、今適当につけたんだ」

「適当にってねえ。でもあれはまさしく光の竜だし、いいわよね」


「う、あれ?」

 魔女が起き上がった。

「ん、まだやる気か?」

 タケルが魔女を睨んで言ったが

「……あ、あたしは……うえ~ん!」

「はあ!?」

 魔女はいきなり大声で泣き出した。




 しばらくして、魔女は泣きやむとぽつぽつと話し始めた。

「あたしね、子供達を危険な目にあわせるつもりはなかったの。ただ一緒に遊んで欲しかっただけなの、ずっと一人で寂しかったから」

「なら最初からそう言えばいいだろ?」

 タケルはそう言ったが

「ううん、あたしって子供の頃から凄い魔力を持ってたの。そのせいもあって皆から気味悪がられ、親に捨てられ、そんなのもあってグレちゃってあちこちで悪さして……気がついたら子供のまま三百年も経っていたわ。そんな化け物じゃ今更きちんと話しても、と思った時」

「その心の隙を妖魔に付かれたんだな」

「ええそうよ。……ごめんなさい、皆」

 魔女は子供達に頭を下げて謝った。


 その時一人の少年が魔女に近づき

「お姉ちゃん、また一緒に遊ぼうね」

 魔女の目を見つめて言った。

「……え、いいの? あたしはあなた達を無理矢理攫ったのよ」

 魔女は困惑の

「いいよ。お姉ちゃんが悪い人じゃないってわかったし」

 すると他の子供達も口々に言い出した。

「うん。ちょっと怖かったけど、何か優しい雰囲気がしたもん」

「そうだよ、おもちゃやお菓子いっぱいくれたしね~」

「わたしには一生懸命お裁縫教えてくれたよね。お姉ちゃんありがと」


「う、う、皆……うええええん!」


 魔女は泣いた。

 今までの苦しみを洗い流すかのように。

 そしてずっと欲しかったものが手に入った喜びを胸に……。




 タケル達はその後村に戻り、村人達に事情を話した。

 彼等はそう言われてもとすぐには信用しなかったが、子供達が一生懸命大人達に話したので、当分は様子を見て、その後どうするか決めるとなった。




 そして翌朝

「さ、行くか」

 タケルが村の入り口で仲間達に言うと

「ちょっと待って」

 魔女が話しかけてきた。

「ん? どうしたんだ?」

「あなた達ってどこまで行くの?」

「ああ、俺達は北の大陸に行く所なんだよ」

「え、そこってこの世界の神が住まうとされる神殿がある場所よね?」

 魔女はそんな事を言った。

「は? そうなのか、キリカ?」

 タケルがキリカに尋ねると

「あ~、そういえば、そうね」

 何か言い淀んでいた。

「それよりごめんなさい。もし近い所ならあたしが魔法で送ってあげようかと思ったのよ」

 魔女は申し訳なさそうに言った。

「そんなのいいよ。歩いて行くのは修行にもなるんだし」

「そうよ。それより子供達と仲良くね」

 タケルとキリカがそう言った。

「ええ。あ、そうだ。あたしに憑いていたものって遥か西の方から来たみたいよ」

「え、そうなのか!?」

「ええ。僅かしか覚えてないけど、そこに総大将がいるはずよ」

「わかったよ、ありがと!」




 そして魔女と別れた後、

「じゃあキリカの家に行った後で西へ、だな」

「ええ。それにもう兄ちゃんが正確な位置を調べてるかもね」

「そうか。よし、行くか皆」


 タケル達は先へと進んでいった。

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