第4話「敵に立ち向かった後、美少女に口づけされた」

「ケケケ。とうとう見つけたぞ、神剣士と聖巫女」


 そこにいたのは全身が真っ黒。

 顔には白く光る目と口だけの魔物だった。


「な、何だこいつは!」

「……妖魔よ」

 キリカは魔物をそう呼んだ。


「な、妖魔じゃと!?」

 遅れて出てきたオウスが叫んだ。

「じいちゃん、あいつ知ってるのかよ!?」

「ああ。古い書物で読んだ事がある」

「へえ、じいちゃんってエロ本しか読まないのかと思ってた」

「そんな訳なかろうが。まあとにかく妖魔というのはだな、人や魔族やエルフ、獣人族や竜族、それらの争いや憎しみ、深い恨みや妬み等から生まれるものじゃ」

「そうです。あいつらはこの世に悪しき縁、悪しき思いがある限りいくらでも生まれるの」

 オウスとキリカが話していると

「話は済んだか? では二人共死んでもらうとしよう」

 妖魔がゆっくりとタケル達に近寄った。

 

「待て、儂が相手じゃ」

 オウスが妖魔の前に立った。

「ん? ジジイ、俺は神剣士と聖巫女以外は殺せと命じられてないのだ。だからこのまま引けば見逃してやるぞ」


(え?)

 キリカは妖魔の言葉に違和感を覚えた。


「アホ抜かせ、孫を置いて逃げる祖父が何処にいるか」

 オウスは剣を構えた。

「ケケ、そんなに死にたいなら望み通……グギャアアア!?」

 妖魔は全て言い終わる前に左右真っ二つになり、その体は霧のように消えた。


「じ、じいちゃん?」

 タケルには祖父の剣筋が見えなかった。

 普段の稽古では避けきれずともなんとか見えていた。

 だがあれでも手加減していたのか? とタケルは身震いしながら思った。


「え、え? いえ、オウスさんもスサノオ様の子孫だもんね、妖魔を倒すくらいできる、って事」

 キリカはオウスがそこまでだと思ってなかったようだ。

 

「ふう、妖魔と戦うのは初めてじゃったが、あれなら通用すると思うたぞ」

「じいちゃん、あれって?」

 タケルがオウスに尋ねる。

「己が気を剣に乗せる技じゃ。これを使えば実体が無いものでも斬れるし、飛び道具とすれば遠くの敵も倒せるのじゃ」

「へえ、前に教えてくれたあれとは違うんだ」

「あれは剣で衝撃波やかまいたちを起こすものじゃ。まあ、あれに気を乗せればもっと威力が増すぞ」

 そんな事を話していると


「やるではないか。ただの人間風情が」


 !?


 そこには今消えた妖魔と同じ姿の者がいた。

 しかも十数人。


「な、なんで!? 妖魔って集団で現れないはずでしょ!?」

 キリカは驚きながら言った。


「確かにな。だが今は違うぞ」

 真ん中にいたリーダーらしき妖魔が答えた。

「え? さっきの奴といいもしかして……まさか」

「おそらく想像通り、と言っておこう。では死ね」

 妖魔達が一斉に身構えた時

「させるかい。儂が相手じゃ!」

 オウスは再び身構えた。


「じいちゃん、俺も戦うよ!」

「私も!」

 タケルとキリカも身構えたが、オウスが首を横に振り

「いや、あやつらには今の二人では勝てんじゃろう。儂が食い止めておくから逃げるんじゃ」


「で、でも!」

「いいから行くんじゃ! キリカさん、タケルを!」

「……は、はい!」

 キリカは意を決してタケルの手を取り、森の方へと走ろうとしたが

「逃すと思うか?」

 妖魔はタケル達の後ろに回りこんだ。

「くっ!?」

「だ、ダメ。逃げられないわ!」


 するとその時、物陰から何かが飛び出し、妖魔を突き飛ばした。

「ぬおっ!」

「きゅー!」

 それは先程の狸であった。


「あ! おい危な」

「(早く逃げなさい! あんたは死んじゃ駄目なんだから!)」

 タケルが言うより早く狸が言った。

「え!?」

「(前におじいちゃんの独り言を聞いたのよ。あんたはいずれ闇を祓って世界を救うって。あたしもそう思うわ。だから)」

「で、でもお前じゃあいつらには」

「(いいから行く!)」



「狸さんありがと! 行くわよ!」

 キリカはタケルの手を引いて森の奥へと走って行った。




「はあ、はあ……こ、ここまで来れば」

 タケルとキリカはその場にしゃがみ込んだ。

「じいちゃん……」

 タケルは祖父達がいる方を見ていた。  

「タケル……辛いのはわかるけど、今は」


 じいちゃん。

 俺、まだじいちゃんから一本取ってないよ。

 まだ全然孝行してない。

 いつだったか俺がもう少し大きくなったら一緒に酒を飲もうって言った。

 それもまだだよ。


 狸……お前は俺の友達だけど、時には叱ってくれたり慰めてくれたりと、何か姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな、とも思ってた。

 恥ずかしくて言えなかったけどさ。


 その二人を置いて行くなんて……。



「やっぱり俺戻る!」

 タケルは立ち上がって叫んだ。

「ダメ! 今のあなたじゃ殺されちゃうわ! あなたが死んだら世界は」

 キリカがタケルの腕を掴んで言ったが


「うるさい! 家族を見殺しにして世界が救えるか!」

 タケルはキリカの手を振り払い、道を引き返していった。


「……うん、わかったわ!」

 キリカはその後を追った。




「じ、じいちゃん。狸」

 そこにはオウスと狸が倒れていた。

 

「ほう、ノコノコと戻ってきたか。おい、やれ」

 妖魔のリーダーがタケルを指さした。

「はっ! 死ねえ!」

 近くにいた妖魔の一人がタケルに襲いかかったが


「うりゃああーーー!」

 ズバアッ!

「ぐぎゃあああ!」 

 タケルがその妖魔の腕を斬った。


「ほう、怒りでパワーが上がったようだな」

 妖魔のリーダーが言う。

「だが」

「ぜえ、ぜえ」

 タケルは息を切らし、片膝をついていた。

「それが限界のようだな。では死ね」



「タ、タケル!」


 ーキリカー


「え、この声、まさか」


 ー貴女の力をタケルに、そうすればー


「……は、はい! わかりました!」



「タケル!」

「え、キリカ危な、うぐう!?」

 キリカがタケルに駆け寄ったかと思うと、いきなり彼に口付けした。


「何だ? 死ぬ前にせめてか……な!?」

 その時二人の体が光り輝き出した。


「お、おお。あれは、まさか」

 倒れていたオウスが二人を見つめながら呟いた。


「こ、これは?」

 タケルは自分の中から何かが湧き出るのを感じていた。

「目覚めたようね。神力が」

「これが、そうなのか?」

「ええ。さあタケル」

「ああ!」

 タケルは剣を構えた。

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