第1話「空から美少女が落ちてきた」
「クアーーー!」
真っ黒な大鷲が何かを追い回すように空を翔けている。
「しつこいわね、あっち行きなさいよ!」
「クアーーー!」
大鷲は声をあげながら何かに近づこうとしている。
「仕方ないわね、ええーい!」
「グゲエエエエ!」
大鷲は炎に包まれながら落ちていった。
「やったー! って、あ~れ~!?」
――――――
ここはとある山奥の滝の前。
そこに木刀で打ち合う二人がいる。
一人は禿げ上がった頭、顔には歳を重ねた皺、鼻の下と顎には白い髭があり、小太りで背の低い老人。
もう一人は黒くてボサッとした髪に額にバンダナを巻き、顔はやや幼い感じ。
背は老人よりも高い少年だった。
「ほっほ。腕をあげたな」
「へへん。今日こそ一本取ってやるぜ」
どうやら二人は剣の稽古中らしい。
「そうかそうか。できるかのう?」
「うりゃあ!」
そして陽が西へと傾いた頃
「くそー! 結局一本も取れなかった!」
少年は地面にへたばり悔しそうにしていた。
「だが筋が良うなってるぞ。さて、今日はここまでじゃ」
老人は腕で額の汗を拭いながら言った。
「えー? じいちゃん、もうちょっとやろーよ」
少年は駄々をこねるが、
「すまんのう。儂ももう歳じゃて、その気があっても体がついてこんのじゃわ」
「何言ってんだよ。じいちゃんはまだ若いよ」
「ん、そうかのう?」
「夜中にこっそりエロ本読んでるし」
「う、バレとったか」
老人は頬をかきながら苦笑いをした。
「じいちゃん、俺もう十六歳だよ。さすがにわかるって」
「普段は鈍いくせにのう、何でそんな事だけ気づくんじゃこの孫は」
「いいだろ別に」
「まあいいわい。さ、タケルや。晩飯を取ってきてくれんかの?」
「うん、わかった」
そう言って少年、タケルは滝の下流へと走って行った。
「……もう少しかの」
タケルが去った後、老人は一人呟いた。
タケルは森の中を流れる川の岸辺を歩きながら、何かブツブツと呟いていた。
「うーん、今日は何にしようかな~、お?」
見ると水は淀みなく透き通っていて、魚がたくさん泳いでいる。
タケルは少し考えた後、手にしていた木刀を構え
「……はっ!」
川に向けて振り下ろすと、大きな水しぶきが立った。
そして岸にたくさんの魚がピチピチと音を立てて打ち上げられていた。
「よーし、大漁大漁……食材になってくれてありがとね」
タケルはその魚を持ってきた袋に入れ、礼を言った後で家路についた。
「俺、いつじいちゃんから一本取れるようになったら旅に出てもっと強くなるんだ。そして」
タケルが大きな声で独り言を言ってた時だった。
あ~れ~!
「ん、何だ?」
空を見ると、白く光る球体が浮いていた。
「なんだあれ? あ、こっちに向かってくる、ってヤバイだろ!」
タケルが一人ツッコミしている間にそれはぐんぐんと迫ってきて
大きな水しぶきをあげて川に落ちた。
「い、いったい何? え?」
落ちた場所を見ると、そこには白いローブを纏った長い黒髪の少女が浮かんでいた。
「え、そ、空から美少女が落ちてきたー!?」
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