第7話 1974年

「殺してもいいのよね?」

女たちは、ボードに書かれたマリーナのサインを指さした。

「上演中は、すべての責任を私が負います。」とサインの横には、確かにそう書かれていた。

すでにボードには、マリーナの血の飛沫があちこちについていた。

そして、誰かの妻である女が拳銃を手にして言った。

「ねえ、弾は誰がこめる?」

何人もの男たちが一斉に手をあげた。

「ねえ、あなたも手をあげなさいよ」

妻が、私の腕をとって、あげさせようとしたが、私は首を振った。

「今は、まだいいんだ」


手をあげた男たちは、じゃんけんをし始めた。誰が拳銃に弾を込めるかどうかを、争って。

やがて、6人の男が決まり、弾が一発ずつ拳銃に装填(そうてん)された。

剃刀で顔や全身を切り裂かれ、ほぼ半裸のマリーナはテーブルに鎖で縛りつけられたまま、

じっと彼らを見つめていた。

その目の中の静けさが、余計に暴力的な空気を煽(あお)った。


「殺しなさいよ」女たちが歌うような合唱でわめいた

彼女たちがマリーナの何に怒り、何に殺意を抱いているかは、わからなかったが、

そのどす黒い感情は、もう弾丸となって、拳銃から飛び出すよりほかなかった。

数人の男がマリーナを取り囲んだ。

「ほら、誰が拳銃を撃つの?」

女の声に、男たちはマリーナの目の前で、拳銃を奪い合い始めた。

そして、30分近い殴り合いの末に、ようやく男の一人が拳銃を撃つ権利を手に入れた。


「パアン」

拳銃を手にした男は、まるでかすかに残っている自分の理性を撃ち殺すかのように、問答無用で、銃をマリーナの開かれた足の間に、撃ち込んだ。

かすかに身じろいだマリーナの体が、ジャラッと鎖を鳴らした。


次は俺だ!と別の男が拳銃に飛びついた。

「俺は外さないからな」

男はそう言い、マリーナの瞳に向かって、銃口が向けられた。


男が引き金を引けば、マリーナが死ぬ、そうわかっているのに、誰も止めなかった。

これはパフォーマンスで、すべて許されていることであり、むしろ、マリーナ自身が望んだことなのだと、会場のすべての人間がそう思っているようだった。

銃を構えた男は、仕立てのいいスーツを着、葉巻をくわえ、いかにも金を持っていそうだった。

「今ここで撃たれて死ねば、あんたは20世紀の現代アートの伝説になれる」

男がそう言い、寄り添っていた妻らしい女が、そのあとを継いだ。

「それが望みなんでしょぉお?」


男が引き金に手をかける。

本気だと私にはわかった。

次の瞬間、私は走り出していた。

たった数時間前に、出会ったばかりのマリーナのために。


「パアン」

鼓膜に音が、激痛が全身に響いた。

頭か? 頭を撃たれたのか。

私はびりびり鳴るような痛みの中で、目をこじ開けた。

肩口から白い硝煙が上がっていた。

頭じゃなかった…。


「きゃあああああああ」

会場の中、正気に戻ったのか、私の妻の悲鳴が響き渡った。

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