第5話

僕は憤上悦也(ふんがみえつや)といいます。


車が目的地につきました。

例の廃病院の空き地です。

今さらですが、病院の名前を思い出しました。

たしか「伊藤産婦人科クリニック」だったと思います。


この空き地にはよく、違法駐車の車が止められています。

この2週間、ずっととまっている車があります。

おんぼろのミニバンで、

70歳くらいのおじいさんと、40歳くらいの女の人が中にいます。

というか、彼らは車に住んでいるのです。


きっと何か悲惨な事情があって、生活保護ももらえなくて、家賃も払えなくて、

おじいさんはきっと重い認知症で、女の人はうつか精神疾患かなにかで、

とにかく車でここまで来たけれど、ガソリンも現金も行くあてもなくて、

2週間、この車で暮らしているのです。


ああ、この二人に暮らすーという言葉を使うのは、「暮らす」という言葉への冒涜(ぼうとく)かもしれません。


この二人は、生きているふりをしているだけなのです。


空き地に生えているよもぎをちぎって食べたり、飲食店の生ごみポリバケツをあさったり、空き地で大小をしたりするのは「暮らす」とはいわないのです。


「生きている価値がない」というのです。


僕と空介くんは、この二

人を見つけたとき、「やるじゃん、日本」って思いました。


こういう風な人間を、世の中にたくさん放置してくれてありがとうと思いました。


死ぬということは、快感です。


人を殺すということは、快楽です。



快感といえば、幹次くんのことを思い出します。


幹次くんは僕が初めて、この世から存在を消した人です。


殺したんじゃありません。


幹次くんは勝手に死んだので、僕がその体を処分するお手伝いをしてあげました。


幹次くんは、中学のころから、もともとちょっとバカなんです。


空介くんの家で、ビデオを見ているとき、

トイレに立った和泉真子さんについていって、トイレの前で告白して、

「ごめん、ちょっと考えられない」

とトイレの前でふられるようなところがあるヤツでした。


真子さんがトイレに行っている間に、幹次くんが僕に向かって


「ほんとに好きなんだよ。真子が他の男とつきあったらと思うと苦しい」


と言うので、


僕は「真子さんが絶対に他の男と、一生つきあえない方法がある」と言いました。


幹次くんは、どんな方法と聞いたので、教えてあげました。


「今から、俺たち三人で、真子さんを輪姦して、

できるだけむちゃくちゃひどいことをして、

その様子をビデオにとって、SNSで公開しちゃえばいいんだよ」


空介くんが「バッカ、俺たちが捕まるだろ?」

と言いました。


だから僕は言いました。

「強姦は親告罪(しんこくざい)といって、被害者本人が告訴しないと、罪にならない」と。


「ほんとかよ」と幹次くんが言うので


「本当だよ。でも一人でヤっちゃだめだ。

3人じゃなきゃだめ。

一人だと訴えられちゃう可能性が高くなる。

それに3人にヤられたらさ、真子さんの精神的苦痛もすっごく大きくなるよ」


空介が、「いや、でも、俺は・・・」

と尻ごみするのに、幹次くんが言いました。


「空介、俺たち、友達だろ? 

俺、一人じゃぜったいできないし、お前らも一緒にヤってくれよ」


僕は、真子さんにはまるで興味がなかったけど、幹次くんのためだし、まあ、別にいいかと思いました。


「でも、やっぱ、なんか・・・」と空介くんが言うので、


僕は言いました。

「空介、君が一番、真子さんと仲がいいんだから、ヤらなきゃだめだよ。

君がいたら、真子さんが余計訴えにくくなるからさ」

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