第11話
【モノクロ写真・8枚目】
陳列室
体のところどころが赤く崩れ、茶色く変色した乳児が、ガラス瓶に詰められ、ホルマリン液に沈んでいる。
それが幾つも幾つも並んでいる。
乳児たちの閉じられた目は、みな一様に痛みを訴えている。
「今すぐにボクを殺して」
「ボクの命をなぶらないで」
という絶唱が、写真の中にこだましている。
写真の隅に、黒い影が写っている。
それはカメラのレンズにうっかり指をかけてしまった、少年兵の人さし指だ。
現像後、この写真は、白くて清潔な国の施設に展示され、多くの人々の目に触れる。
その説明書きには、こうある。
「『凍傷実験を施した乳児のホルマリン漬け遺体』
凍傷実験の内容
冬季。外気がマイナス0度を下回る満州。
そこで丸太(マルタ)と呼ばれる人々を、動けないようにして外に野ざらし
にします。
どれくらいの気温で、どれくらいの時間、外で過ごすと、どの程度の凍傷に
なるのか、性別や人種、さまざまな年齢層をまじえて調べます。
この実験対象には、生まれたばかりの乳児も多く含まれていました。
その後、凍傷になった箇所を叩いたり、お湯につけたり、切り落としたり
します。
ここに展示されているのは、そのときに保存された乳児の
ホルマリン漬けです。」
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