第10話

杉本健作氏の手紙は、こう続いている。


「このフィルムに写っている日本人の少年は、1945年の8月に14歳だった私です。

 私は1945年2月、731部隊に、見習い技術員として入隊しました。


 731部隊とは、第二次世界大戦の際に存在した研究機関です。


 この部隊は、満州に拠点を置き、兵士の感染症の予防や、衛生的な給水体制の

 研究をするという名目で、細菌戦に使用する生物兵器の研究や開発を行って

 いました。


 そして、そのための人体実験や生物兵器の実践的な使用を、日常的に

 行っていました。


 この人体実験や兵器使用の対象になったのは、捕虜やスパイ容疑者として

 拘束された朝鮮人、中国人、モンゴル人、アメリカ人、ロシア人等の様々な

 人種の人間でした。

 彼らは731部隊の施設に連れ去られ、丸太(マルタ)と呼ばれ、名前を

 奪われ番号を当てがわれ、1本2本と数えられていました。


 この部隊の政治的および軍事的な存在意義は、見習い兵だった私には

 わかりません。

 ただ、1945年の夏、私がそこにいたという事実を伝えたいだけです。


 これが私の死後という形で、本当に申し訳ないのですが。」

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