第2話

そもそも、そのフィルムは奇妙な所から見つかった。


杉本健作氏が亡くなり、その死にまつわるすべてのことが済んだあと、杉本氏の家族は、

冷蔵庫の製氷機の中からその未現像フィルムと手紙を見つけた。

(その日本家屋には、杉本氏の長男夫婦と孫夫婦がともに暮らしていた。)


あら!

みつけたのは、杉本氏の孫で、26歳になる綾奈(あやな)だった。

手紙とフィルムは、彼女が産んだばかりの、杉本氏にとってはひ孫にあたる赤ん坊、

和斗(わと)の哺乳瓶の中に収まっていた。


凍りついた哺乳瓶、その中にある黒いフィルムと封書。

それは、不思議な暗号めいていた。


凍ったために、哺乳瓶のゴム乳首は劣化して、彩奈が触ると、ぱりぱりとひび割れた。


「お祖父ちゃんたら、死ぬ前にどうして、こんないたずらをしたのかしら」


そう言いながら、彩奈は手紙を開き、手紙を読むとすぐに


「お父さん!!お母さん!!」


と悲鳴のような声を上げた。


その声の大きさに、綾奈が胸に抱いていた和斗が、ふぁあああああっと泣き出したが、

彩奈は


「お父さん!!お母さん!!」


と叫ぶのをやめなかった。


そして、いつのまにか彩奈自身が、ふぁあああああっという赤ん坊のような泣き声を上げ、和斗を抱きしめて震えていた。



杉本健作氏が遺した、その手紙の冒頭にはこうある。



「私の血を継ぐ者たちへ


このフィルムを、暗室でホルマリン定着液を使って、すべて現像してください」

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